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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第八話 もっと力を(14)
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◆◆◆
そしてサイラスは夢を見ることのない、深い眠りについた。
しかし現実の世界ではデュラン達の苦境が続いていた。
「……こっちもダメだ。やつら、もう先回りしてやがった」
偵察から戻ってきたフレディはそう言った。
部隊はさらに数を減らしていた。
もう三十人ほどしか残っていない。
逃げた者も多いが、意見の食い違いで別れた者達がほとんどであった。
その食い違いとは、逃走ルートの決定についてであった。
しんがりであるこの部隊は怪我人が多い。敵に先回りされるのは当たり前の状態になっていた。正しくは、怪我人は足が遅くなるため自然と最後尾に集まってきただけだが。
怪我が軽く、速く歩ける者達は先に逃げていた。
だから部隊の空気は重い。
そしてフレディは自分の言葉でその空気がさらに重くなってしまったのを感じ取った。
いや、一人だけは違った。
その一人、デュランはただ一言、
「そうか」
と言って現実を受け入れたあと、
「だったら道を変えるしかないな」
この苦境から抜け出すための提案をした。
しかしその言葉は肝心なことを忘れているように思えた。
だから兵士の一人が口を開いた。
「これ以上遠回りしたら食料が足りなくなる。いや、もう足りてない!」
「……」
その反論は当然のものであったため、デュランは何も言えなかった。
しかしデュランの考えを感じ取ったフレディが口を開いた。
「……言うとおり道を変えるとして、デュランの旦那はどっちにいくべきだと思ってるんだい?」
デュランはその方向に視線を向けながら答えた。
「北だ。あそこの森を目指す」
北、それは目指す方向と真逆であった。
だから先ほどの兵士は再び声を上げた。
「よりにもよって北!? なぜ?!」
デュランには考えがあった。
だが、
「……」
デュランは胸を張って即答することが出来なかった。
確実性が無いからだ。
デュランが考えていること、それは賭けであった。
だから「俺についてこい」と言えない。
しかし直後、
「……たしかに、森の中から人の気配を感じるなあ」
フレディが助け船を出した。
「しかもこっちの様子をうかがってるときた」
そしてフレディは確認するようにデュランに尋ねた。
「ありゃあ、旦那の知り合いかい?」
「……」
デュランはまたしても即答できなかった。
だが、
「……あれは、」
フレディのおかげで、デュランはようやく口を開くことが出来た。
「知り合いでは無い。遠い昔に別れた連中だ」
しかしその口から出た言葉ははっきりとしないものであったが、
「だが、もしかしたら我々を助けてくれるかもしれない」
そこには可能性があることをデュランは答えた。
◆◆◆
結局、フレディ達はデュランを信じることにした。
いや、信じたというのは半分間違いだ。他に頼れるものが無かっただけだ。
「「「……」」」
だからか、一行は黙ってデュランのうしろについて歩いていた。
森の中であるが、デュランの足に迷いは無い。
その歩みの力強さだけがデュランを信じる根拠になりつつあった。
しかしフレディなど感知が使える者は違った。
近づいているのがはっきりとわかる。
ゆえにその心には緊張が生まれつつあった。
その直後、
「「「!」」」
デュランが突然立ち止まったゆえに、全員はその場で身構えた。
フレディも感じ取った。
前方にある集落らしき気配から出てきた三人がこちらに向かってきているのを。
「……」
デュランはその場で三人を待った。
しばらくして、三人はデュラン達の前に姿を現した。
大の男ふたりと女だ。
その見た目は特徴的であった。
服装がまったく違う。
文明の影響をあまり受けていないことが一目でわかる服装。
この森に隠れ住んでいる部族であることは一目瞭然であった。
そして先に口を開いたのはデュランのほうであった。
「※※※――」
しかしその口からでた言葉は、聞いた事の無い言語であった。
直後、
「※※※※――?」
相手の男も同じ言葉を発した。
これにデュランは頷きを返した。
言葉がわからなければさっぱりな会話。ジェスチャーも無い。
だが、感知能力者であるフレディは脳波から読み取れていた。
デュランは血をわけた古き同胞であることを主張し、自分の部族名を名乗っていた。
相手はそれを確認するように聞き返し、デュランは頷きを返したのだ。
「※※」「※※※」
そして相手の男は女と何かを話し合い、
「※※」
女は返事のようなものをして集落のほうに戻っていった。
これは脳波を読まなくてもわかる。
おそらく、村の長に判断をあおぎに行ったのだろう。
その予想は正解だった。
しばらくして、女は戻ってきて、
「※※」
デュランに何かを行った後、相手の三人は背を向けて集落のほうに戻り始めた。
これも心を読むまでも無かった。
ついてこい、ということだ。
しかしデュランはあえて正解を口に出した。
「行こう」
そしてサイラスは夢を見ることのない、深い眠りについた。
しかし現実の世界ではデュラン達の苦境が続いていた。
「……こっちもダメだ。やつら、もう先回りしてやがった」
偵察から戻ってきたフレディはそう言った。
部隊はさらに数を減らしていた。
もう三十人ほどしか残っていない。
逃げた者も多いが、意見の食い違いで別れた者達がほとんどであった。
その食い違いとは、逃走ルートの決定についてであった。
しんがりであるこの部隊は怪我人が多い。敵に先回りされるのは当たり前の状態になっていた。正しくは、怪我人は足が遅くなるため自然と最後尾に集まってきただけだが。
怪我が軽く、速く歩ける者達は先に逃げていた。
だから部隊の空気は重い。
そしてフレディは自分の言葉でその空気がさらに重くなってしまったのを感じ取った。
いや、一人だけは違った。
その一人、デュランはただ一言、
「そうか」
と言って現実を受け入れたあと、
「だったら道を変えるしかないな」
この苦境から抜け出すための提案をした。
しかしその言葉は肝心なことを忘れているように思えた。
だから兵士の一人が口を開いた。
「これ以上遠回りしたら食料が足りなくなる。いや、もう足りてない!」
「……」
その反論は当然のものであったため、デュランは何も言えなかった。
しかしデュランの考えを感じ取ったフレディが口を開いた。
「……言うとおり道を変えるとして、デュランの旦那はどっちにいくべきだと思ってるんだい?」
デュランはその方向に視線を向けながら答えた。
「北だ。あそこの森を目指す」
北、それは目指す方向と真逆であった。
だから先ほどの兵士は再び声を上げた。
「よりにもよって北!? なぜ?!」
デュランには考えがあった。
だが、
「……」
デュランは胸を張って即答することが出来なかった。
確実性が無いからだ。
デュランが考えていること、それは賭けであった。
だから「俺についてこい」と言えない。
しかし直後、
「……たしかに、森の中から人の気配を感じるなあ」
フレディが助け船を出した。
「しかもこっちの様子をうかがってるときた」
そしてフレディは確認するようにデュランに尋ねた。
「ありゃあ、旦那の知り合いかい?」
「……」
デュランはまたしても即答できなかった。
だが、
「……あれは、」
フレディのおかげで、デュランはようやく口を開くことが出来た。
「知り合いでは無い。遠い昔に別れた連中だ」
しかしその口から出た言葉ははっきりとしないものであったが、
「だが、もしかしたら我々を助けてくれるかもしれない」
そこには可能性があることをデュランは答えた。
◆◆◆
結局、フレディ達はデュランを信じることにした。
いや、信じたというのは半分間違いだ。他に頼れるものが無かっただけだ。
「「「……」」」
だからか、一行は黙ってデュランのうしろについて歩いていた。
森の中であるが、デュランの足に迷いは無い。
その歩みの力強さだけがデュランを信じる根拠になりつつあった。
しかしフレディなど感知が使える者は違った。
近づいているのがはっきりとわかる。
ゆえにその心には緊張が生まれつつあった。
その直後、
「「「!」」」
デュランが突然立ち止まったゆえに、全員はその場で身構えた。
フレディも感じ取った。
前方にある集落らしき気配から出てきた三人がこちらに向かってきているのを。
「……」
デュランはその場で三人を待った。
しばらくして、三人はデュラン達の前に姿を現した。
大の男ふたりと女だ。
その見た目は特徴的であった。
服装がまったく違う。
文明の影響をあまり受けていないことが一目でわかる服装。
この森に隠れ住んでいる部族であることは一目瞭然であった。
そして先に口を開いたのはデュランのほうであった。
「※※※――」
しかしその口からでた言葉は、聞いた事の無い言語であった。
直後、
「※※※※――?」
相手の男も同じ言葉を発した。
これにデュランは頷きを返した。
言葉がわからなければさっぱりな会話。ジェスチャーも無い。
だが、感知能力者であるフレディは脳波から読み取れていた。
デュランは血をわけた古き同胞であることを主張し、自分の部族名を名乗っていた。
相手はそれを確認するように聞き返し、デュランは頷きを返したのだ。
「※※」「※※※」
そして相手の男は女と何かを話し合い、
「※※」
女は返事のようなものをして集落のほうに戻っていった。
これは脳波を読まなくてもわかる。
おそらく、村の長に判断をあおぎに行ったのだろう。
その予想は正解だった。
しばらくして、女は戻ってきて、
「※※」
デュランに何かを行った後、相手の三人は背を向けて集落のほうに戻り始めた。
これも心を読むまでも無かった。
ついてこい、ということだ。
しかしデュランはあえて正解を口に出した。
「行こう」
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