Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
77 / 545
第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第八話 もっと力を(13)

しおりを挟む
 そして疑問の一つが晴れたサイラスは次の質問をぶつけることにした。

「お前は大工に俺の体を改良させているといったな? それはいつごろにどのような結果が出るとかは決まっているのか?」

 サイラスが尋ねているのは日程であった。
 だが、直後に返ってきた答えは望ましいものでは無かった。

「いつになったらオレグに立ち向かえるのか、という質問には良い答えは返せない。オレグの強さの正体がわからないからだ。だからどのように強くなればいいのかという方向性もはっきりとしない。だがそれでも一応の日程はあることにはある」

 そのあいまいな言い回しから、これは期待は出来ないなとサイラスは思ったが、その思いは正解になってしまった。

「先の勝利に酔っているから気付いていないだろうが、お前に渡したあの技は今のところ欠点だらけだ」

 それは期待できないどころか、聞き捨てならない言葉だった。
 だからサイラスは黙って意識を傾けた。

「まず第一に、これはオレグの話で既に触れたことだが、恐怖に耐性のある人間とは相性が悪い。さらに兵隊――いや、お前の認識に合わせて死神と呼ぼうか。そいつらによる脳への直接攻撃がすんなりと通じるのは恐怖のおかげだ。恐怖で混乱させて相手の抵抗力を下げることで脳への攻撃を容易にしているからだ」

 前の魔王も似たような技術を追い求めていた。
 だが、魔王は人間を生きたまま操ることにこだわったのと、サイラスのように相手の生産力を奪って数を増やすという考えを思いつかなかったため、望む結果を最後まで得られなかった。

 そして恐怖に耐性のある相手とは相性が悪いことについてはサイラスも同意見だった。
 だからサイラスは何も言わず、次の言葉を待った。
 もう一人の自分はサイラスから意見が出ないことを感じ取ったあと、口を開いた。

「第二に、お前は気付かなかったが、その死神の運用自体にも欠点がある」

 拠点を増やして戦線を拡大させていくという運用方法に欠点……? サイラスは本当にわからなかった。
 だからもう一人の自分はヒントを出した。

「まだわからないか? お前の自慢の感知能力を活かして自分の頭の中と周囲を少し探ってみろ」

 言われるがまま、サイラスはそうした。
 そしてサイラスはすぐに気付いた。
 死神の数が激減しているのだ。
 なぜ、サイラスが尋ねるよりも早くもう一人の自分は答えた。

「単純だ。飢え死にしたんだよ」

 その答えではサイラスは納得できなかった。
 当然だ。説明が足りない。
 だからもう一人の自分はすぐに口を開き直した。

「お前の死神は手作りの特注品。そのへんにいる野生のやつとは違って大飯食らいだ。そして自然界ではお前の死神を満足させられるほどの栄養は手に入らない。だからだ」

 その説明だけではサイラスは納得しなかった。
 だからもう一人の自分はすぐに言葉を付け加えた。

「まあ、敵が撤退したあとに、乗っ取った生産拠点を放棄させたことのほうが原因としては大きいがな」

 なぜ放棄した? サイラスが尋ねるよりも早くもう一人の自分は答えた。

「食料が足りないからだ。死神のじゃないぞ。生きている人間のだ。あれは脳死しているが生命活動は維持している。だから歩かせ続けるにはお前と同じように水と食料が必要だ」

 そしてもう一人の自分は肩をすくめ、「お手上げだ」という思いを少し大げさに表現しながら口を開いた。

「しかし残念ながら今の俺達は飢えをしのぎながらの逃避行の真っ最中だ。そんな余裕は無い」

 つまり、サイラスの死神は色んな意味で重い、ということであった。
 虫と違って作成に多大な時間を要する上に維持費もかかる、サイラスの死神はそういうものであった。
 そこまで説明したところで、もう一人の自分は話を改善日程のほうに戻した。

「だからまず最初に死神を改良する予定だ。というかもう始めてるがな。今の死神は大飯食らいすぎる」

 もう一人の自分はそう言ったあと、その日数を計算してから口を開いた。

「設計図はもうあがってるから、数日のうちに結果が出るだろう。常駐できる死神の数が二十から二十五ほどに増えるはずだ」

 二割半増えるのだから大幅な改善だが、それでもサイラスにとっては「たったの五」であった。
 長所を伸ばすやり方は相性の悪い相手への対策にはなりにくいからだ。
 初動の数が五十になったところでオレグには立ち向かえないだろう。
 それはもう一人の自分も分かっていることだった。
 だからもう一人の自分は即座に答えた。

「お前の言いたいことはよくわかってる。こちらも同じ意見だ。だから死神の改良は良い案が出なくなったところで即打ち切るつもりだ」

 そしてもう一人の自分はようやく対オレグを想定した改良について口を開いた。

「オレグのような精神攻撃に耐性のある相手への対策も同時に進めている。現時点で案がまったく無いわけでは無い。だが――」

 その先は言いにくいことだったらしく、もう一人の自分は初めて言葉を詰まらせた。
 しかしもう一人の自分は、隠し事をするべきでは無いと判断した。

「……もしかしたら、その対策はお前にとって好ましくないものになるかもしれない」

 それはなんだ、かまわないから言ってくれ、サイラスはそう思った。
 が、もう一人の自分はサイラスの期待には答えられなかった。

「……すまないがそろそろ時間切れだ。残念だが、続きは次の夢の中でだ」

 そう言ってもう一人の自分は一方的に夢を閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Boy meets girl

ひろせこ
恋愛
誰もが持っている色を、その少年も当然ながら持っていた。 にも拘らず持っていないと馬鹿にされる少年。 金と青。 この世界で崇められている光の女神の貴色。 金髪に青い瞳。 綺麗な色ほど尊ばれる世界の片隅で、 こげ茶の髪に限りなく黒に近い濃い青の瞳のその少年は、 黒にしか見えない瞳が見えないよう、 俯きひっそりと暮らしていた。 そんな少年が、ある日、1人の異質な少女と出会った。 「常世の彼方」の外伝です。 本編はこちら(完結済み)⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/584038573/446511345 本編未読でも…いける…はず。

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある
恋愛
男女の貞操観念などが逆転している世界の話。 高校生の『あおい』は友達の『りん』に片思いしているが、あおいにはある秘密があった…… 基本男女による恋愛ですが、ガールズラブも含まれます。 女性向けラブコメだと思います。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

処理中です...