Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第八話 もっと力を(13)

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 そして疑問の一つが晴れたサイラスは次の質問をぶつけることにした。

「お前は大工に俺の体を改良させているといったな? それはいつごろにどのような結果が出るとかは決まっているのか?」

 サイラスが尋ねているのは日程であった。
 だが、直後に返ってきた答えは望ましいものでは無かった。

「いつになったらオレグに立ち向かえるのか、という質問には良い答えは返せない。オレグの強さの正体がわからないからだ。だからどのように強くなればいいのかという方向性もはっきりとしない。だがそれでも一応の日程はあることにはある」

 そのあいまいな言い回しから、これは期待は出来ないなとサイラスは思ったが、その思いは正解になってしまった。

「先の勝利に酔っているから気付いていないだろうが、お前に渡したあの技は今のところ欠点だらけだ」

 それは期待できないどころか、聞き捨てならない言葉だった。
 だからサイラスは黙って意識を傾けた。

「まず第一に、これはオレグの話で既に触れたことだが、恐怖に耐性のある人間とは相性が悪い。さらに兵隊――いや、お前の認識に合わせて死神と呼ぼうか。そいつらによる脳への直接攻撃がすんなりと通じるのは恐怖のおかげだ。恐怖で混乱させて相手の抵抗力を下げることで脳への攻撃を容易にしているからだ」

 前の魔王も似たような技術を追い求めていた。
 だが、魔王は人間を生きたまま操ることにこだわったのと、サイラスのように相手の生産力を奪って数を増やすという考えを思いつかなかったため、望む結果を最後まで得られなかった。

 そして恐怖に耐性のある相手とは相性が悪いことについてはサイラスも同意見だった。
 だからサイラスは何も言わず、次の言葉を待った。
 もう一人の自分はサイラスから意見が出ないことを感じ取ったあと、口を開いた。

「第二に、お前は気付かなかったが、その死神の運用自体にも欠点がある」

 拠点を増やして戦線を拡大させていくという運用方法に欠点……? サイラスは本当にわからなかった。
 だからもう一人の自分はヒントを出した。

「まだわからないか? お前の自慢の感知能力を活かして自分の頭の中と周囲を少し探ってみろ」

 言われるがまま、サイラスはそうした。
 そしてサイラスはすぐに気付いた。
 死神の数が激減しているのだ。
 なぜ、サイラスが尋ねるよりも早くもう一人の自分は答えた。

「単純だ。飢え死にしたんだよ」

 その答えではサイラスは納得できなかった。
 当然だ。説明が足りない。
 だからもう一人の自分はすぐに口を開き直した。

「お前の死神は手作りの特注品。そのへんにいる野生のやつとは違って大飯食らいだ。そして自然界ではお前の死神を満足させられるほどの栄養は手に入らない。だからだ」

 その説明だけではサイラスは納得しなかった。
 だからもう一人の自分はすぐに言葉を付け加えた。

「まあ、敵が撤退したあとに、乗っ取った生産拠点を放棄させたことのほうが原因としては大きいがな」

 なぜ放棄した? サイラスが尋ねるよりも早くもう一人の自分は答えた。

「食料が足りないからだ。死神のじゃないぞ。生きている人間のだ。あれは脳死しているが生命活動は維持している。だから歩かせ続けるにはお前と同じように水と食料が必要だ」

 そしてもう一人の自分は肩をすくめ、「お手上げだ」という思いを少し大げさに表現しながら口を開いた。

「しかし残念ながら今の俺達は飢えをしのぎながらの逃避行の真っ最中だ。そんな余裕は無い」

 つまり、サイラスの死神は色んな意味で重い、ということであった。
 虫と違って作成に多大な時間を要する上に維持費もかかる、サイラスの死神はそういうものであった。
 そこまで説明したところで、もう一人の自分は話を改善日程のほうに戻した。

「だからまず最初に死神を改良する予定だ。というかもう始めてるがな。今の死神は大飯食らいすぎる」

 もう一人の自分はそう言ったあと、その日数を計算してから口を開いた。

「設計図はもうあがってるから、数日のうちに結果が出るだろう。常駐できる死神の数が二十から二十五ほどに増えるはずだ」

 二割半増えるのだから大幅な改善だが、それでもサイラスにとっては「たったの五」であった。
 長所を伸ばすやり方は相性の悪い相手への対策にはなりにくいからだ。
 初動の数が五十になったところでオレグには立ち向かえないだろう。
 それはもう一人の自分も分かっていることだった。
 だからもう一人の自分は即座に答えた。

「お前の言いたいことはよくわかってる。こちらも同じ意見だ。だから死神の改良は良い案が出なくなったところで即打ち切るつもりだ」

 そしてもう一人の自分はようやく対オレグを想定した改良について口を開いた。

「オレグのような精神攻撃に耐性のある相手への対策も同時に進めている。現時点で案がまったく無いわけでは無い。だが――」

 その先は言いにくいことだったらしく、もう一人の自分は初めて言葉を詰まらせた。
 しかしもう一人の自分は、隠し事をするべきでは無いと判断した。

「……もしかしたら、その対策はお前にとって好ましくないものになるかもしれない」

 それはなんだ、かまわないから言ってくれ、サイラスはそう思った。
 が、もう一人の自分はサイラスの期待には答えられなかった。

「……すまないがそろそろ時間切れだ。残念だが、続きは次の夢の中でだ」

 そう言ってもう一人の自分は一方的に夢を閉じた。
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