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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第八話 もっと力を(5)
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◆◆◆
サイラスは痛みの中でもがいていた。
痛みで目を覚まし、また意識を失う、その繰り返し。
いま自分は起きているのか、それとも夢の中なのか、またはその境にいるのか、その判断すらサイラスには出来なくなっていた。
そのうつろな感覚の中でサイラスはおぼろげに感じ取っていた。
自分のもとに魂が集まってきているのを。
倒された仲間達の魂だ。
みんな同じようなことを叫んでいた。
なんとかしてくれ、と。指揮官が必要だ、と。
しかし違うことを叫んでいる者達もいた。
助けてくれと叫びながら逃げてきた者達もいた。
その者達はなにかに追われていた。
サイラスの意識は自然とそのなにかのほうに向いた。
瞬間、
「っ!」
サイラスの体は「びくり」と跳ね上がった。
それは冷たく、おぞましいものであった。
骸骨のようにやせ細っている。
しかしその目は力強い悪鬼の如く。
その身には死の気配がまとわりついている。
死の象徴のような存在。
娯楽話に出てくる死神のようだ、サイラスはそう思った。
その表現は間違ってはいないように思えた。
死神達は逃げ遅れた仲間の魂を捕まえ、食っていたからだ。
これがこの世界の死後の世界。
死後の世界、その言葉に心惹かれる者は多い。
魂が肉体という監獄から開放され、永遠なる世界に冒険へと旅立つ。
そんな幻想をテーマにした物語は数多い。
だが、この世界のそれはそんなロマンチックなものでは無い。
前にも言ったとおりこの世界の魂はただの道具である。非常に軽いコンピュータのような存在に過ぎない。脳内で複製も量産も可能。唯一無二の存在では無く、神秘性も貴重性も無い。
肉体の生命活動が止まると時間と共に脳の神経網も死に、基本人格である理性と本能が終わりを迎える。そして夢物語と同じように魂は外に飛び出す。
だが、それはロマンチックの始まりでは無い。開放でも無いし、永遠なる世界への旅立ちでも無い。
単純に肉体にとどまる意味が無くなるからだ。
ともに生活していた理性と本能はもういない。全ての内臓はその機能を停止し、魂への養分の補給も止まってしまう。
だから飛び出す。外で食料を得るために。
そうだ。この世界での死は新たなサバイバルの始まりでしかない。弱肉強食という摂理の延長戦が始まるだけなのだ。
だからサイラスは仲間を助けなければ、と思った。
だからサイラスはみんなこっちへ来いと、心の叫び声を響かせた。
サイラスは痛みの中でもがいていた。
痛みで目を覚まし、また意識を失う、その繰り返し。
いま自分は起きているのか、それとも夢の中なのか、またはその境にいるのか、その判断すらサイラスには出来なくなっていた。
そのうつろな感覚の中でサイラスはおぼろげに感じ取っていた。
自分のもとに魂が集まってきているのを。
倒された仲間達の魂だ。
みんな同じようなことを叫んでいた。
なんとかしてくれ、と。指揮官が必要だ、と。
しかし違うことを叫んでいる者達もいた。
助けてくれと叫びながら逃げてきた者達もいた。
その者達はなにかに追われていた。
サイラスの意識は自然とそのなにかのほうに向いた。
瞬間、
「っ!」
サイラスの体は「びくり」と跳ね上がった。
それは冷たく、おぞましいものであった。
骸骨のようにやせ細っている。
しかしその目は力強い悪鬼の如く。
その身には死の気配がまとわりついている。
死の象徴のような存在。
娯楽話に出てくる死神のようだ、サイラスはそう思った。
その表現は間違ってはいないように思えた。
死神達は逃げ遅れた仲間の魂を捕まえ、食っていたからだ。
これがこの世界の死後の世界。
死後の世界、その言葉に心惹かれる者は多い。
魂が肉体という監獄から開放され、永遠なる世界に冒険へと旅立つ。
そんな幻想をテーマにした物語は数多い。
だが、この世界のそれはそんなロマンチックなものでは無い。
前にも言ったとおりこの世界の魂はただの道具である。非常に軽いコンピュータのような存在に過ぎない。脳内で複製も量産も可能。唯一無二の存在では無く、神秘性も貴重性も無い。
肉体の生命活動が止まると時間と共に脳の神経網も死に、基本人格である理性と本能が終わりを迎える。そして夢物語と同じように魂は外に飛び出す。
だが、それはロマンチックの始まりでは無い。開放でも無いし、永遠なる世界への旅立ちでも無い。
単純に肉体にとどまる意味が無くなるからだ。
ともに生活していた理性と本能はもういない。全ての内臓はその機能を停止し、魂への養分の補給も止まってしまう。
だから飛び出す。外で食料を得るために。
そうだ。この世界での死は新たなサバイバルの始まりでしかない。弱肉強食という摂理の延長戦が始まるだけなのだ。
だからサイラスは仲間を助けなければ、と思った。
だからサイラスはみんなこっちへ来いと、心の叫び声を響かせた。
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