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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第八話 もっと力を(2)
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◆◆◆
シャロンは夢を見ていた。
それは戦いの記憶のようであった。
ようであった、などという表現を使ったのは、その映像に見覚えが無かったからだ。
なのに過去の自分が体験したものだと思う。感じる。
そしてその映像はオレグとの戦いのものであった。
しかし映っているオレグは非常に若く見えた。
十代の青年に見える。
そんな若いオレグを、夢の中の自分は圧倒していた。
凄まじく強い。今の自分とは比較にならないほどに。
だから奇妙だった。
前の自分はどうしてこんなに強かったのかを思い出せない。
その理由は予想がつく。
ルイスにその記憶を消されたからだろう。
だから奇妙だ。
自分の戦闘能力を削られたにもかかわらず、それをなんとも思っていないからだ。許せてしまうからだ。
まったく意味がわからない。つじつまが合わない。
勝利を願っているのであれば、私を強く作り上げるべきだ。
だけどルイスはそうしなかった。
だから負けた。
本当に意味がわからない。
ルイスが何を考えているのかわからない。自分のこともよくわからない。
ルイスは信用出来ない、そう思える。
なのにルイスを頼るべきだとも思っている。ルイスへの信頼感が勝手に湧き出てくる。
本当に本当に意味がわからない。
メチャクチャだ、シャロンがそう思った瞬間、
「そうだ」「!」
と、何者かの声が響いた。
聞いたことのある声。
そして声は続いた。
「だからまた負けた。お前が失敗作だから」と。
◆◆◆
「!」
そして場面は一転した。
瞬間移動したかのように、背景が一瞬で別のものに置き換わる。
それは、あの時見た奇妙な夢の、一軒家の中のようであった。
だから目の前に初老の男が立っている。
今回も動けない。
「……っ」
声すら上げられない。
成す術も無く、シャロンの頭蓋(ずがい)があの時と同じように掴まれる。
そして初老の男は口を開いた。
「君は失敗作だ。改良程度ではどうにもならないほどに弱すぎる。だからわたしが一から作り変える」
直後、シャロンの顔面はあの時と同じように引き剥がされ始めた。
意識が薄くなり始める。
もうダメ――シャロンがあきらめかけた瞬間、
「やめなさい」
新たな声が場に響いた。
同時に初老の男の手は止まった。
「彼女から離れて」
続けて響いたその命令に、初老の男は即座に従った。
シャロンの頭から手を離し、背後にいる誰かに道を開けるように右へ移動する。
その誰かは最初からいたかのようにそこに立っていた。
女性だ。
高級感のあるドレスを着ている。
女は初老の男性のほうに視線を向けながら口を開いた。
「彼女と話をするわ。悪いけど、はずしてちょうだい」
瞬間、
「!」
舞台は再び切り替わった。
そこは誰かの私室であるように思えた。
まるで王族のような豪華さだ。
この部屋はやはり――シャロンがそう思った瞬間、女はそれが正解だと答えた。
「悪趣味な部屋でごめんなさいね」
やはり、女の部屋であった。
そして女はシャロンの目の前で椅子に腰掛けた。
それは奇妙に見えた。
そんなところに椅子など無かったはずだからだ。
しかし女はシャロンのその違和感は無視して、それよりも大事なことを話し始めた。
「はじめまして。私の名前はアリス」
アリス、その名前は既に聞いたことがあった。
あの初老の男が夢の中で自分のことをその名で呼んだはずだ。
しかしなぜ? 似てもいないまったくの別人ではないか。
シャロンの中にそのような疑問が次々と浮かび上がる。
だがアリスはそれよりも気になることを口に出した。
「でも、あなたにはアリスよりも、『混沌』と名乗ったほうが馴染み深いかしら?」
「!」
『混沌』、その言葉にシャロンの意識は惹かれた。
先の戦いでもそうだった。
だがわからない。なぜその言葉に強く惹かれるのか。
(! いや、)
それだけじゃないと、シャロンは気付いた。
先の戦いよりも以前に、いつかは思い出せないが同じ感覚を抱いたことがあるような気がする。
しかしなぜ思い出せないのか。
原因はやはり一つしか思い浮かばなかった。
そして直後、その原因の名をアリスが代弁した。
「そうよ。ルイスに調整された時に消されたのよ」
どうして!? なぜルイスはそんなことをするの?! シャロンはそう叫ぼうとした。
だが声は出なかった。
しかし喋れずとも、アリスには通じているようであった。
「あまり感情を高ぶらせないで。ルイスが目覚めてしまうわ」
これはナイショのお話である、アリスはそれを強調したあと、本題に入った。
「まずはあなたの心に浮かんだ疑問について順番に答えていくわ。だからルイスのことはあとまわし」
最初に浮かんだ疑問、それはここはどこだ、であった。
シャロンは夢を見ていた。
それは戦いの記憶のようであった。
ようであった、などという表現を使ったのは、その映像に見覚えが無かったからだ。
なのに過去の自分が体験したものだと思う。感じる。
そしてその映像はオレグとの戦いのものであった。
しかし映っているオレグは非常に若く見えた。
十代の青年に見える。
そんな若いオレグを、夢の中の自分は圧倒していた。
凄まじく強い。今の自分とは比較にならないほどに。
だから奇妙だった。
前の自分はどうしてこんなに強かったのかを思い出せない。
その理由は予想がつく。
ルイスにその記憶を消されたからだろう。
だから奇妙だ。
自分の戦闘能力を削られたにもかかわらず、それをなんとも思っていないからだ。許せてしまうからだ。
まったく意味がわからない。つじつまが合わない。
勝利を願っているのであれば、私を強く作り上げるべきだ。
だけどルイスはそうしなかった。
だから負けた。
本当に意味がわからない。
ルイスが何を考えているのかわからない。自分のこともよくわからない。
ルイスは信用出来ない、そう思える。
なのにルイスを頼るべきだとも思っている。ルイスへの信頼感が勝手に湧き出てくる。
本当に本当に意味がわからない。
メチャクチャだ、シャロンがそう思った瞬間、
「そうだ」「!」
と、何者かの声が響いた。
聞いたことのある声。
そして声は続いた。
「だからまた負けた。お前が失敗作だから」と。
◆◆◆
「!」
そして場面は一転した。
瞬間移動したかのように、背景が一瞬で別のものに置き換わる。
それは、あの時見た奇妙な夢の、一軒家の中のようであった。
だから目の前に初老の男が立っている。
今回も動けない。
「……っ」
声すら上げられない。
成す術も無く、シャロンの頭蓋(ずがい)があの時と同じように掴まれる。
そして初老の男は口を開いた。
「君は失敗作だ。改良程度ではどうにもならないほどに弱すぎる。だからわたしが一から作り変える」
直後、シャロンの顔面はあの時と同じように引き剥がされ始めた。
意識が薄くなり始める。
もうダメ――シャロンがあきらめかけた瞬間、
「やめなさい」
新たな声が場に響いた。
同時に初老の男の手は止まった。
「彼女から離れて」
続けて響いたその命令に、初老の男は即座に従った。
シャロンの頭から手を離し、背後にいる誰かに道を開けるように右へ移動する。
その誰かは最初からいたかのようにそこに立っていた。
女性だ。
高級感のあるドレスを着ている。
女は初老の男性のほうに視線を向けながら口を開いた。
「彼女と話をするわ。悪いけど、はずしてちょうだい」
瞬間、
「!」
舞台は再び切り替わった。
そこは誰かの私室であるように思えた。
まるで王族のような豪華さだ。
この部屋はやはり――シャロンがそう思った瞬間、女はそれが正解だと答えた。
「悪趣味な部屋でごめんなさいね」
やはり、女の部屋であった。
そして女はシャロンの目の前で椅子に腰掛けた。
それは奇妙に見えた。
そんなところに椅子など無かったはずだからだ。
しかし女はシャロンのその違和感は無視して、それよりも大事なことを話し始めた。
「はじめまして。私の名前はアリス」
アリス、その名前は既に聞いたことがあった。
あの初老の男が夢の中で自分のことをその名で呼んだはずだ。
しかしなぜ? 似てもいないまったくの別人ではないか。
シャロンの中にそのような疑問が次々と浮かび上がる。
だがアリスはそれよりも気になることを口に出した。
「でも、あなたにはアリスよりも、『混沌』と名乗ったほうが馴染み深いかしら?」
「!」
『混沌』、その言葉にシャロンの意識は惹かれた。
先の戦いでもそうだった。
だがわからない。なぜその言葉に強く惹かれるのか。
(! いや、)
それだけじゃないと、シャロンは気付いた。
先の戦いよりも以前に、いつかは思い出せないが同じ感覚を抱いたことがあるような気がする。
しかしなぜ思い出せないのか。
原因はやはり一つしか思い浮かばなかった。
そして直後、その原因の名をアリスが代弁した。
「そうよ。ルイスに調整された時に消されたのよ」
どうして!? なぜルイスはそんなことをするの?! シャロンはそう叫ぼうとした。
だが声は出なかった。
しかし喋れずとも、アリスには通じているようであった。
「あまり感情を高ぶらせないで。ルイスが目覚めてしまうわ」
これはナイショのお話である、アリスはそれを強調したあと、本題に入った。
「まずはあなたの心に浮かんだ疑問について順番に答えていくわ。だからルイスのことはあとまわし」
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