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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第七話 美女と最強の獣(11)
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双方の距離は縮まっていた。
シャロンがなにか一つでもミスを犯せば捕まえられるという距離。
ゆえにシャロンの形相は必死だった。
目指すは前方の魔王城。
だが、シャロンのつま先は城への最短距離の方向を示してはいなかった。
それはもちろん、
(あった!)
銃を拾うためだ。
予想通り、それは影にやられたと思われる仲間の死体のそばに落ちていた。
走りながら姿勢を低くし、回収体勢を取る。
瞬間、
「!」
オレグの左手に魔力がこもったのを感じ取ったシャロンは上半身だけで振り向いた。
オレグの手から光弾が放たれる。
問題はその軌道だった。
シャロンを狙ったものではなかった。
落ちている銃を弾き飛ばすためのもの。
だからこれは止めなくてはならない。
自身の速度を落とさずにだ。
直後、シャロンは脳裏から生まれたひらめきに身を任せた。
光弾を体で受け止めるように弾の射線に飛び込む。
そして足が届く距離にまで光弾が迫った瞬間、
「破ッ!」
シャロンは右足をうしろに伸ばし、輝く足裏を光弾に叩き付けた。
その反動を利用してシャロンは加速しながら雪の上すれすれを滑空し、
(よし!)
目的のものを拾い上げた。
すかさず上体を起こし、通常の走行姿勢に戻す。
この一連の動作は完璧だった。
にもかかわらず、オレグのとの距離は開いていない。
いや、少し詰まっているように見える。
やはりオレグのほうが速い。
ゆえに、シャロンの表情は必死の形相のままだった。
砲撃によって崩れた城門の残骸を飛び越え、城内を目指す。
その途中、あるものが目に入った。
それは火薬と弾が詰まった弾薬箱であった。
先の戦闘中に兵士の誰かが運び出したものだろう。
弾薬の手持ちに不足は無い。そう判断したシャロンは箱に手を伸ばすこともせず、その真横を駆け抜けたが、
「!」
瞬間、シャロンは思いついた。
思いつくと同時に体は勝手に動いていた。
発光させた左手を箱のほうに向ける。
されど、その手から生み出されたのは防御魔法。
なんのための盾?
その答えを覗き読んだゆえに、
「っ!」
オレグはその場で急停止した。
即座に箱から距離を取ろうとする。
だがもう遅いと、シャロンは心の声を響かせながら、右手から伸ばしていた糸を箱の中身に結びつけた。
瞬間、
「――っ!」
轟音と共に、オレグの体は爆炎に包まれた。
(やった?!)
思わず心の中で叫ぶシャロン。
が、直後、
(!?)
それを感じ取ったシャロンは一瞬自分の感知を疑った。
これでも倒せないのか?! と、自分の感知が信じられなかった。
だが、現実は感じ取ったとおりだった。
何事も無かったかのように、オレグは爆炎の中から姿を現した。
しかし無傷では無かった。
直撃を受けた大盾は歪んでいる。
体にはあちこちに火傷が。
されどその足はまったく鈍っていなかった。
それでも距離は稼げた。
稼いだその距離を使って装填し、射撃する。
だが、オレグの大盾はまだ死んだわけでは無かった。
ひしゃげた盾が火花と共に銃弾を弾く。
(くそ!)
シャロンは悪態を吐きながら城内に突入。
この時のシャロンに深い理由は無かった。
ただの直線では距離を詰められる。しかし障害物の多い城内であれば、そう思っただけだ。
そしてシャロンの足は追われるままに上へ。
上方向への移動ならば身軽な自分が有利、そう思ったからだ。
これは間違っていなかった。
そして階段を登っているうちにシャロンは思いついた。
それはひらめきと呼べるような代物では無かったが、シャロンはそれを実行することにした。
残骸を踏みつけながらある広間の中に飛び込む。
それはシャロンが破壊した扉の残骸。
そしてその部屋はあの決戦の場所、玉座の間であった。
その残骸の前でオレグは一度足を止めた。
銃撃を警戒したからだ。
それにもう急ぐ必要も無い。
玉座の間はこの入り口以外に出口が無いからだ。
だからオレグはゆっくりと中に入った。
感じ取った通り、シャロンはそこにいた。
シャロンは割れた窓のそばに立っていた。
そしてシャロンはオレグに銃口を突きつけたまま、口を開いた。
「相討ち狙い、っていうのも考えたんだけど……」
言葉の通り、シャロンはまだそれを狙っていた。
だから銃口でオレグの隙を探してながら言葉を続けた。
「あななたちの注意をここまで引けただけで良しとするわ」
この状況でなぜ良いと言えるのか、その意味をシャロンは直後に述べた。
「それでは、またいつか会いましょう、オレグ」
その言葉が広間に響き終わった瞬間、二人は同時に床を蹴った。
オレグがシャロンに向かって踏み込む。
その踏み込みは全力のものであった。
だが間に合わなかった。
オレグの手は窓から身を投げたシャロンには届かず、空を切った。
そしてシャロンは見下ろすオレグの瞳の中で、降り積もった雪の上に吸い込まれるように落下し、
「……」
オレグが見ている中で、閃光と共に散った。
地面との激突の瞬間、シャロンは光る嵐を放ったのだ。
激突の衝撃と蛇の群れがシャロンの体から人の形を奪う。
死体を利用させないためだろう、オレグはそう思った。
そしてオレグは視線を上に向けた。
そこには何も無いように見えた。
だが、オレグには感じ取れていた。
体から脱出したシャロンの魂がそこに泳いでいるのを。
「……」
追えるか? オレグは考えた。
だが、いくら考えても、オレグの理性が出す答えは同じだった。
オレグはその答えを忌々しげに呟いた。
「……逃げられた、か」
シャロンがなにか一つでもミスを犯せば捕まえられるという距離。
ゆえにシャロンの形相は必死だった。
目指すは前方の魔王城。
だが、シャロンのつま先は城への最短距離の方向を示してはいなかった。
それはもちろん、
(あった!)
銃を拾うためだ。
予想通り、それは影にやられたと思われる仲間の死体のそばに落ちていた。
走りながら姿勢を低くし、回収体勢を取る。
瞬間、
「!」
オレグの左手に魔力がこもったのを感じ取ったシャロンは上半身だけで振り向いた。
オレグの手から光弾が放たれる。
問題はその軌道だった。
シャロンを狙ったものではなかった。
落ちている銃を弾き飛ばすためのもの。
だからこれは止めなくてはならない。
自身の速度を落とさずにだ。
直後、シャロンは脳裏から生まれたひらめきに身を任せた。
光弾を体で受け止めるように弾の射線に飛び込む。
そして足が届く距離にまで光弾が迫った瞬間、
「破ッ!」
シャロンは右足をうしろに伸ばし、輝く足裏を光弾に叩き付けた。
その反動を利用してシャロンは加速しながら雪の上すれすれを滑空し、
(よし!)
目的のものを拾い上げた。
すかさず上体を起こし、通常の走行姿勢に戻す。
この一連の動作は完璧だった。
にもかかわらず、オレグのとの距離は開いていない。
いや、少し詰まっているように見える。
やはりオレグのほうが速い。
ゆえに、シャロンの表情は必死の形相のままだった。
砲撃によって崩れた城門の残骸を飛び越え、城内を目指す。
その途中、あるものが目に入った。
それは火薬と弾が詰まった弾薬箱であった。
先の戦闘中に兵士の誰かが運び出したものだろう。
弾薬の手持ちに不足は無い。そう判断したシャロンは箱に手を伸ばすこともせず、その真横を駆け抜けたが、
「!」
瞬間、シャロンは思いついた。
思いつくと同時に体は勝手に動いていた。
発光させた左手を箱のほうに向ける。
されど、その手から生み出されたのは防御魔法。
なんのための盾?
その答えを覗き読んだゆえに、
「っ!」
オレグはその場で急停止した。
即座に箱から距離を取ろうとする。
だがもう遅いと、シャロンは心の声を響かせながら、右手から伸ばしていた糸を箱の中身に結びつけた。
瞬間、
「――っ!」
轟音と共に、オレグの体は爆炎に包まれた。
(やった?!)
思わず心の中で叫ぶシャロン。
が、直後、
(!?)
それを感じ取ったシャロンは一瞬自分の感知を疑った。
これでも倒せないのか?! と、自分の感知が信じられなかった。
だが、現実は感じ取ったとおりだった。
何事も無かったかのように、オレグは爆炎の中から姿を現した。
しかし無傷では無かった。
直撃を受けた大盾は歪んでいる。
体にはあちこちに火傷が。
されどその足はまったく鈍っていなかった。
それでも距離は稼げた。
稼いだその距離を使って装填し、射撃する。
だが、オレグの大盾はまだ死んだわけでは無かった。
ひしゃげた盾が火花と共に銃弾を弾く。
(くそ!)
シャロンは悪態を吐きながら城内に突入。
この時のシャロンに深い理由は無かった。
ただの直線では距離を詰められる。しかし障害物の多い城内であれば、そう思っただけだ。
そしてシャロンの足は追われるままに上へ。
上方向への移動ならば身軽な自分が有利、そう思ったからだ。
これは間違っていなかった。
そして階段を登っているうちにシャロンは思いついた。
それはひらめきと呼べるような代物では無かったが、シャロンはそれを実行することにした。
残骸を踏みつけながらある広間の中に飛び込む。
それはシャロンが破壊した扉の残骸。
そしてその部屋はあの決戦の場所、玉座の間であった。
その残骸の前でオレグは一度足を止めた。
銃撃を警戒したからだ。
それにもう急ぐ必要も無い。
玉座の間はこの入り口以外に出口が無いからだ。
だからオレグはゆっくりと中に入った。
感じ取った通り、シャロンはそこにいた。
シャロンは割れた窓のそばに立っていた。
そしてシャロンはオレグに銃口を突きつけたまま、口を開いた。
「相討ち狙い、っていうのも考えたんだけど……」
言葉の通り、シャロンはまだそれを狙っていた。
だから銃口でオレグの隙を探してながら言葉を続けた。
「あななたちの注意をここまで引けただけで良しとするわ」
この状況でなぜ良いと言えるのか、その意味をシャロンは直後に述べた。
「それでは、またいつか会いましょう、オレグ」
その言葉が広間に響き終わった瞬間、二人は同時に床を蹴った。
オレグがシャロンに向かって踏み込む。
その踏み込みは全力のものであった。
だが間に合わなかった。
オレグの手は窓から身を投げたシャロンには届かず、空を切った。
そしてシャロンは見下ろすオレグの瞳の中で、降り積もった雪の上に吸い込まれるように落下し、
「……」
オレグが見ている中で、閃光と共に散った。
地面との激突の瞬間、シャロンは光る嵐を放ったのだ。
激突の衝撃と蛇の群れがシャロンの体から人の形を奪う。
死体を利用させないためだろう、オレグはそう思った。
そしてオレグは視線を上に向けた。
そこには何も無いように見えた。
だが、オレグには感じ取れていた。
体から脱出したシャロンの魂がそこに泳いでいるのを。
「……」
追えるか? オレグは考えた。
だが、いくら考えても、オレグの理性が出す答えは同じだった。
オレグはその答えを忌々しげに呟いた。
「……逃げられた、か」
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