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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第七話 美女と最強の獣(7)
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大型獣に体当たりされたかのような一撃。
シャロンの体が反対側の壁にまで軽々と吹き飛ばされる。
尋常では無い筋力。
だが、直前に後方に地を蹴っていたことが幸いした。
被害は胸骨が二本折れた程度。直撃していたら内臓破裂で終わっていただろう。
シャロンは周りの景色がゆっくりと流れる緩慢な世界の中で、自分の状態を確認した。
良かった、まだ戦える、それを確信した直後、
「ぐっ!」
シャロンの体は勢いよく壁に叩きつけられた。
衝撃で押し出された空気を再び肺に吸い込みながら、即座に地を蹴ってその場から離れる。
直後、直前までシャロンがいた壁に、追撃を仕掛けてきていたオレグの大盾がめりこんだ。
何度も聞いた轟音と共に壁が崩れる。
その音でシャロンはひらめいた。
この狭い路地を利用するもう一つの手を。
シャロンは即座にそれを実行に移した。
左手から防御魔法を展開する。
繰り出すのは当然、光る嵐。
されど、その狙いはオレグでは無かった。
シャロンはオレグの巻き込めるように都合の良い壁に狙いを定めて、針を繰り出した。
生まれた蛇の群れが壁を削り、食い散らかす。
これに対し、オレグは余裕の表情で受けた。
嵐そのものをなぎ倒すように盾を振り回す。
シャロンの銃に弾が込められていないことを分かっているからこそ出来る防御。
だからシャロンは舌打ちした。
やはり遠距離からの嵐では足止めにしかならない。
シャロンはそう思っていたのだが、直後にその認識を改めることになった。
オレグは嵐を叩き払いながら、平然とその足を前に出し始めたのだ。
なんてやつだ。シャロンは歯軋りしながら後方に鋭く地を蹴った。
距離を取りながら再び光る嵐を放つ。
その嵐の中を歩きながら突破してくるオレグ。
だが、シャロンはそれでも嵐を繰り出し続けた。
(もう少し……!)
シャロンはあることを狙っていた。
だが、思ったよりもてこずっている。蛇がなかなか狙っている場所に食らいついてくれない。
(この一撃で!)
お願い! シャロンはそんな心の叫びとともに何度目かになる嵐を放った。
そしてその願いは届いた。
蛇が目標に食らいつき、へし折る。
それは家屋の中にある柱。
重要な支柱を折られたうえに、壁も穴だらけ。
ゆえにその家屋はオレグを押しつぶそうとするように急速に傾き始めた。
だが、オレグは逃げようとはしなかった。
オレグは静かに盾を構え、
「むぅん!」
まるで家屋を押し返そうとするかのように、盾で突き上げた。
家屋が倒壊し、轟音と共に視界が遮られるほどの粉雪が舞い上がる。
だが、その轟音の中に異質な音が混じっていたのをシャロンは聞き逃さなかった。
それは金属音。
きっと、いや、あいつは確実にこの程度の攻撃で倒せるような相手では無い、最初からそう思っていたゆえに、シャロンはオレグから距離を取り続けていた。
そしてシャロンはするりと、ある家屋同士のあいだにある隙間に滑り込んで身を隠した。
だがオレグは感知能力者。これだけでは見つかる。
だからシャロンは熊の戦士達が使っていたあの技と同じように、体内を闇夜に染めた。
体内の魔力活動を可能な限りおさえて、相手の感知にとらえられないようにする。
当然、それは頭の中も例外では無い。
「……」
思考力などを下げて脳波を抑制する。
さらに、シャロンの隠密技術は生命維持機能にまで及んだ。
心臓も鼓動を小さくし、心拍数も下げる。
酸素欠乏症寸前にまで自分を追い込む。
そしてシャロンはその限界寸前の状態で、弾丸の装填を開始した。
されど、その動きはまるで老人のよう。
いや、老人のほうがずっと速い。それほどの遅さ。
音を出さないためであるが、いまのシャロンは体の機能を限界まで下げているゆえに、単純に速い動きが出来なくなっていた。
そうしてシャロンは身を隠しながら、オレグの動きを虫に警戒させていた。
オレグも虫を展開していた。
だからシャロンはさらに離れるために移動を開始。
されどその動きは牛歩の如く。
このままでは見つかる。だからシャロンは音を立てないようにドアを開け、適当な家屋の中に身を隠した。
そうして時間を稼ぎながらオレグの隙をうかがう。
オレグは展開した虫に捜索をやらせつつ、こちらが展開した虫を駆除していた。
隠れる前に展開した虫のほとんどは既にやられてしまっていた。生き残っているのは自分のように上手く隠れられている虫と、遠方に配置した虫のみ。
それでも問題は無い。相手の位置や向きなどの情報は取り続けられている。
だが、一番欲しい情報はやはり得られなかった。
オレグの脳内は闇夜であった。
何を考えているのかが分からない。だからこちらも次の行動を起こしにくい。
こちらを既に見つけているとは思えない。それなら待つ必要が無いからだ。
だが見当はついているのかもしれない。
なぜなら、盾をこちらのほうに向け続けているからだ。
そのおかげで射線が無い。
背中を見せてくれるだけで確殺を狙える。しかし振り向く気配が無い。
どうする? やはり移動するべき? そんなことを考え始めた直後、シャロンの耳にオレグの声が響いた。
「仲間を逃がすために自分が体を張る、その点に関しては敬意を払おう」
それはただの雑談のようであった。
「だがお前のその行動は総大将としてはあまりにも軽率」
なんの意味があるのか、シャロンはそれを探るために意識を集中させた。
「しかし、私はお前が軽率に行動出来る理由を知っている」
されど、その言葉の内容自体にはやはり意味が無いように思えた。
「ゆえに次は無い。次の機会など与えない。お前の心の臓を止め、二度と蘇らぬようにその魂まで完全に砕かせてもらう!」
シャロンの体が反対側の壁にまで軽々と吹き飛ばされる。
尋常では無い筋力。
だが、直前に後方に地を蹴っていたことが幸いした。
被害は胸骨が二本折れた程度。直撃していたら内臓破裂で終わっていただろう。
シャロンは周りの景色がゆっくりと流れる緩慢な世界の中で、自分の状態を確認した。
良かった、まだ戦える、それを確信した直後、
「ぐっ!」
シャロンの体は勢いよく壁に叩きつけられた。
衝撃で押し出された空気を再び肺に吸い込みながら、即座に地を蹴ってその場から離れる。
直後、直前までシャロンがいた壁に、追撃を仕掛けてきていたオレグの大盾がめりこんだ。
何度も聞いた轟音と共に壁が崩れる。
その音でシャロンはひらめいた。
この狭い路地を利用するもう一つの手を。
シャロンは即座にそれを実行に移した。
左手から防御魔法を展開する。
繰り出すのは当然、光る嵐。
されど、その狙いはオレグでは無かった。
シャロンはオレグの巻き込めるように都合の良い壁に狙いを定めて、針を繰り出した。
生まれた蛇の群れが壁を削り、食い散らかす。
これに対し、オレグは余裕の表情で受けた。
嵐そのものをなぎ倒すように盾を振り回す。
シャロンの銃に弾が込められていないことを分かっているからこそ出来る防御。
だからシャロンは舌打ちした。
やはり遠距離からの嵐では足止めにしかならない。
シャロンはそう思っていたのだが、直後にその認識を改めることになった。
オレグは嵐を叩き払いながら、平然とその足を前に出し始めたのだ。
なんてやつだ。シャロンは歯軋りしながら後方に鋭く地を蹴った。
距離を取りながら再び光る嵐を放つ。
その嵐の中を歩きながら突破してくるオレグ。
だが、シャロンはそれでも嵐を繰り出し続けた。
(もう少し……!)
シャロンはあることを狙っていた。
だが、思ったよりもてこずっている。蛇がなかなか狙っている場所に食らいついてくれない。
(この一撃で!)
お願い! シャロンはそんな心の叫びとともに何度目かになる嵐を放った。
そしてその願いは届いた。
蛇が目標に食らいつき、へし折る。
それは家屋の中にある柱。
重要な支柱を折られたうえに、壁も穴だらけ。
ゆえにその家屋はオレグを押しつぶそうとするように急速に傾き始めた。
だが、オレグは逃げようとはしなかった。
オレグは静かに盾を構え、
「むぅん!」
まるで家屋を押し返そうとするかのように、盾で突き上げた。
家屋が倒壊し、轟音と共に視界が遮られるほどの粉雪が舞い上がる。
だが、その轟音の中に異質な音が混じっていたのをシャロンは聞き逃さなかった。
それは金属音。
きっと、いや、あいつは確実にこの程度の攻撃で倒せるような相手では無い、最初からそう思っていたゆえに、シャロンはオレグから距離を取り続けていた。
そしてシャロンはするりと、ある家屋同士のあいだにある隙間に滑り込んで身を隠した。
だがオレグは感知能力者。これだけでは見つかる。
だからシャロンは熊の戦士達が使っていたあの技と同じように、体内を闇夜に染めた。
体内の魔力活動を可能な限りおさえて、相手の感知にとらえられないようにする。
当然、それは頭の中も例外では無い。
「……」
思考力などを下げて脳波を抑制する。
さらに、シャロンの隠密技術は生命維持機能にまで及んだ。
心臓も鼓動を小さくし、心拍数も下げる。
酸素欠乏症寸前にまで自分を追い込む。
そしてシャロンはその限界寸前の状態で、弾丸の装填を開始した。
されど、その動きはまるで老人のよう。
いや、老人のほうがずっと速い。それほどの遅さ。
音を出さないためであるが、いまのシャロンは体の機能を限界まで下げているゆえに、単純に速い動きが出来なくなっていた。
そうしてシャロンは身を隠しながら、オレグの動きを虫に警戒させていた。
オレグも虫を展開していた。
だからシャロンはさらに離れるために移動を開始。
されどその動きは牛歩の如く。
このままでは見つかる。だからシャロンは音を立てないようにドアを開け、適当な家屋の中に身を隠した。
そうして時間を稼ぎながらオレグの隙をうかがう。
オレグは展開した虫に捜索をやらせつつ、こちらが展開した虫を駆除していた。
隠れる前に展開した虫のほとんどは既にやられてしまっていた。生き残っているのは自分のように上手く隠れられている虫と、遠方に配置した虫のみ。
それでも問題は無い。相手の位置や向きなどの情報は取り続けられている。
だが、一番欲しい情報はやはり得られなかった。
オレグの脳内は闇夜であった。
何を考えているのかが分からない。だからこちらも次の行動を起こしにくい。
こちらを既に見つけているとは思えない。それなら待つ必要が無いからだ。
だが見当はついているのかもしれない。
なぜなら、盾をこちらのほうに向け続けているからだ。
そのおかげで射線が無い。
背中を見せてくれるだけで確殺を狙える。しかし振り向く気配が無い。
どうする? やはり移動するべき? そんなことを考え始めた直後、シャロンの耳にオレグの声が響いた。
「仲間を逃がすために自分が体を張る、その点に関しては敬意を払おう」
それはただの雑談のようであった。
「だがお前のその行動は総大将としてはあまりにも軽率」
なんの意味があるのか、シャロンはそれを探るために意識を集中させた。
「しかし、私はお前が軽率に行動出来る理由を知っている」
されど、その言葉の内容自体にはやはり意味が無いように思えた。
「ゆえに次は無い。次の機会など与えない。お前の心の臓を止め、二度と蘇らぬようにその魂まで完全に砕かせてもらう!」
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