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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第七話 美女と最強の獣(2)

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   ◆◆◆

 デュランがその魂を熱く燃やし始めた頃、街中でも同じように燃えている者がいた。

「鋭ィィッヤ!」

 気勢と共にシャロンの針が一閃する。
 光る爪と火花を散らせ、衝突音が気勢の残響音に混じる。
 場は狭い路地裏。
 衝突音が反響し、耳に痛いほどに響く。
 直後、その反響音の中に新たな音が混じった。
 狭い路地の壁を蹴る音。
 その音の発生源の姿は、暗闇の中にぼんやりと浮かんで見えていた。
 それは、路地を挟む左右の家屋の壁を交互に跳び蹴りながら迫ってくる影の姿であった。
 正面に相対している影の頭上を飛び越え、頭上から仕掛ける同時攻撃。
 だからシャロンは前と上にいる二人両方を巻き込むように、左手から電源魔法の網を放った。
 二つの影は懸命に爪で切り裂こうとしたが、その数は多すぎた。

「「ぐっ!」」

 二人の体に紫電が走り、体勢を崩した上の影は攻撃できぬままシャロンの頭上を飛び越え、顔面から地面に落ちた。

「がっ!」

 すかさず正面の影にとどめを刺しながら、真横を通り過ぎる。
 直後、地面に落ちた影が放った背後からの光弾を身をひねって避ける。
 続けて体を半身ずらして屋根上から放たれた数発の光弾を避ける。
 先ほどからずっとこのように前後上下から攻撃され続けている。
 それでもシャロンは強引に前へと足を進め続けていた。
 この先の広場に目標がいるからだ。
 降り注ぐ光弾の中を駆け抜け、直後に同時に襲い掛かってきた複数の爪を、

「破ッ!」

 光る嵐でまとめて吹き飛ばす。
 その凄惨さに、敵の攻撃意識がわずかに緩んだのをシャロンは感じ取った。
 だから今しかない、そう思ったシャロンはホルスターに入れておいた火縄銃を取り出した。
 走りながら、光弾を避けながら弾と火薬を装填する。
 そしてシャロンは広場へと飛び出した。
 感じ取っていた通り、目標はそこにいた。
 もとは市場として利用されていたと思われる広場の反対側に、その女はいた。
 次の魔王となる女。
 シャロンは彼女の心臓に狙いを定め、引き金を引いた。
 この一発で終わってほしい、そんな願いを込めて。
 が、

「っ!」

 こんなミエミエの先制攻撃が通るほど甘い相手では無かった。
 銃声と共に散ったのは鮮血では無く火花。
 願いを込めた銃撃を防いだ物の正体は大盾。
 一センチほどの厚みの鋼板を備えた、異常な盾。
 ゆえにその持ち主も異常であった。
 それは銃撃の直前まで女の隣に立っていた大男。
 その筋骨は異常なほどに盛り上がっている。
 まるで熊。
 その印象は正解であった。
 この大男こそ熊の一族の党首であり、

(オレグ……!)

 シャロンは畏怖の念と共にその名を呟いた。
 そして同時に奇妙でもあった。
 敵に攻撃を仕掛けてくる気配が無かったからだ。
 その理由は直後に広場に響いた。

「はじめまして、よね? シャロン」

 透き通るような声。
 声の主はシャロンの標的であるあの女だった。

「もう知っているとは思うけど、名乗らせていただくわ」

 そう言った後、女は威圧感のある戦装束のスカートの裾を両手でつまみ、軽くスカートを持ち上げながら頭を下げ、口を開いた。

「私の名はキーラ。次の魔王となる者」

 この時点でシャロンは次弾の装填が終わっていたが、相手がまだ話すつもりであることを感じ取ったため、耳を傾けた。

「まずは、古き魔王を倒してくれたことについてお礼を言わせていただくわ。本当にありがとう」

 その感謝の念は本物だった。感じ取れた。
 だからシャロンは耳を傾け続けた。
 のだが、

「それで相談があるのだけれども、降伏してくれないかしら?」

 次に放たれたその言葉は、論外のものであった。
 休戦では無く、降伏ときたか。
 怒りを抱くには十分な言葉だった。
 だからシャロンは、

「ふざけるな!」

 その怒りを銃声と共に吐き出した。
 しかし怒りを込めたその弾丸も、オレグの大盾によって阻まれた。
 そして金属音が響き終わると同時に、

「交渉決裂ね。残念だわ」

 キーラは攻撃の合図を出した。
 広場を包囲するように壁を成している影達が一斉に光弾を発射する。
 後方以外に逃げ道の無い弾幕であったが、

「破ァァッ!」

 シャロンは踏み込み、光る針を繰り出した。
 サイラスの技のような高速突きがいくつかの光弾を穿つ(うがつ)。
 針の中で加速した粒子と光弾の粒子がぶつかり合い、弾き合って光の粉雪を散らす。
 そして生じた隙間に飛び込みながら、銃の装填を行う。
 あと二回同じ一斉射撃を避ければ次弾の装填が完了する、まずはそれまで粘る、シャロンはそう考えていたのだが、

「!?」

 直後、感じ取った「それ」に、シャロンの思考は一瞬乱れた。
「それ」は、キーラの手の中に生まれた光の弾であった。
 しかしその輝きは白にあらず。
 薄赤く光っている。
 魔王が使っていたものと同じ爆発魔法。
 キーラがそれを放つと同時に、シャロンは右手から防御魔法を展開しながら左へ鋭く跳躍した。
 だが、シャロンの思考が乱れたのは、それが爆発魔法だからというわけではでは無かった。
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