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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第六話 豹と熊(18)
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そして直後にデュランはそれを始めた。
左手から防御魔法を展開する。
だが、長剣はその長さゆえにこのままでは難しい。
だからデュランは左手首を捻って防御魔法に回転を加えながら、手の平を前に突き出して光の盾を切り離した。
それを見た影達は驚き、さらに距離を取り直した。
中でも、ユリアンとレイラの驚きは特に大きかった。
まさか、これも一発本番で?! そんな言葉が心の中で響いていた。
直後、その心の声に応えるかのように、デュランの心の声が響いた。
(敬愛する旅と運命の神よ!)
心の中で叫びながらデュランは防御魔法の中心点に狙いを定め、
(俺に力を!)
光る刃の先端をそこにねじ込んだ。
そうだ。これはシャロンのあの技。
そしてデュランの願いは神に聞き届けられた。
「「「!」」」
生じた光の嵐が、白い蛇の群れが影達に襲い掛かる。
シャロンの技と比べると指向性が甘く、大きく拡散している。
だが、広範囲を大群に包囲されている今の状況では、それが良い方向に働いた。
「ぎゃっ!」「ぐっ!」「うあぁっ?!」
そしてその規模と威力はシャロンのものを上回っていた。
シャロンの技術が劣っているからでは無い。
これは光魔法や武器の性能差によるもの。
単純に防御魔法や武器の体積が大きければ大きいほど、嵐の規模も大きくなるからだ。
「「……っ!」」
その嵐を光る爪で打ち払いながら、ユリアンとレイラは同じことを思った。
もしや、我々は大きな間違いを犯したのではないか、と。
目立つ指揮官ばかりに気を取られるあまり、眠れる獅子に学ぶ機会を与えただけでなく、その尾まで踏みつけてしまったのではないか、と。
だから思う。
こいつはここで倒しておかなければ、と。
その思いは自然とユリアンとレイラの足を前に出した。
ここで終わらせなければ、こいつはきっととんでもない怪物に成長してしまう、そんな確信が二人にはあった。
そして二人のその突進に対し、一つの影が声を上げた。
「かかれ!」
その声を合図に、影達は一斉に走り出した。
獲物にむらがる蟻のように、デュランという一つの点に他の全ての点が引き寄せられるように集まっていく。
これに、デュランは先と同じように防御魔法を展開。
即座に嵐を解き放つ。
白蛇の群れが影達に食らい付き、その身を噛み刻む。
だが、影達は今度はひるまなかった。
「次を撃たせるな!」「圧殺しろ!」
この攻撃は防御魔法を展開するゆえに連射はそれほど速く無い。
ゆえの突進。
だからデュランもその突進に対応して即座に手を変えた。
防御魔法を展開せず、脈打つ刃を水平に振り抜き始める。
剣の先端から漏れ出す粒子が光の尾となって、中空に三日月の軌跡を描き始める。
そしてその剣先が自身の真正面を向くその直前、
「シャアッ!」
デュランは気勢と共に、力強く魔力を放出した。
刃が一際強く脈打ち、魔力が勢いよく放出され、光の尾が相応に厚みを増す。
だが、直後に尾は刃から切り離された。
そして独立した光の尾は、振り抜いた勢いのまま前へ飛び出し、滑空する銀色の三日月となった。
「「「!?」」」
突然襲い掛かってきた予想外の攻撃に、射線上にいる影達の目が見開く。
だが、意識の硬直は一瞬。
一人を除いて射線上から退避する。
残った一人は防御魔法を展開。
しかしその選択は間違いだった。
「ぅがっ!?」
加速を得ている光の粒子は影の光の盾を裂き、その身まで両断した。
同時に三日月はその形を失い、小さな蛇の群れとなって影の体を食い破って飛び出した。
シャロンの技と違い、収束の過程が無いゆえにこの蛇の群れの勢いは弱い。
が、
「「「っ!」」」
それでも噛まれれば血しぶきが舞う。
されど、
「ひるむな!」
影達の足は止まらず、
「撃て! 牽制しろ!」
光弾の援護まで加わった。
牽制というよりは、もはや圧殺と呼んでも間違いでは無いほどの数の光弾がデュランに迫る。
これにデュランは、
「シャラァ!」
気勢と共に光る刃を切り返した。
先と同じ光の三日月が地に水平に放たれる。
シャロンの技と比べると攻撃範囲と威力の点で大きく劣るが、こちらはある程度の連射が利く。
三日月が光弾とぶつかり合い、砕けて生じた蛇の群れが互いを食い合うように、混ざり合うようにぶつかり合う。
「シャララアァッ!」
デュランは気勢を止めずに三日月を連射。
この時、デュランは感じ取っていた。
剣が悲鳴を上げているのを。
光の粒子が食い破る勢いで暴れ回っているのを。
サイラスが危惧していたのはこれ。
もしも限界を超えてしまったら、光の嵐に己が身を食われることにことになる。
されど、
「シィィッヤァ!」
今のデュランに恐怖は無かった。
三日月の連射で弾幕を相殺しつつ、生じた隙間に踏み込む。
瞬間、
「「「蛇ッ!」」」
三日月をやり過ごしながら待ち受けていた複数の影がデュランに襲い掛かった。
だが、デュランにはこの攻撃に対する備えが既にあった。
輝く左手から防御魔法を生み出す。
そしてデュランはその光の盾を地面に叩き付けるように下に向け、
「破ァァッ!」
地面に串刺すかのように、その中心に刃を突き立てた。
生じた光の嵐がデュランを飲み込み、踏み込んできた影達を巻き込む。
「「「――っ!」」」
嵐の中に悲鳴が掻き消え、巻き上げられながら赤く舞い散る。
舞い上がった赤い花びらは直後に赤い雨に。
それを全身に浴びながら、全身を赤く染めながら、デュランは無傷である自分の体を見せ付けるかのように立ち上がり、
「雄々ォーーッ!」
ここは通さぬと、かかってこいと、吼えた。
影達は気付いていなかった。もう一つの間違いに。
デュランに成長の機会を与えてしまったことだけでは無いのだ。
サイラスに対する評価も間違っているのだ。
この場で仕留め切れなかったツケを、影達は後に支払わされることになるのだ。
そして、サイラスにも気付いていないことが一つあった。
無意識から響いた「恐怖を使え」、その言葉にはもう一つの意味が含まれていることを。
第七話 美女と最強の獣 に続く
左手から防御魔法を展開する。
だが、長剣はその長さゆえにこのままでは難しい。
だからデュランは左手首を捻って防御魔法に回転を加えながら、手の平を前に突き出して光の盾を切り離した。
それを見た影達は驚き、さらに距離を取り直した。
中でも、ユリアンとレイラの驚きは特に大きかった。
まさか、これも一発本番で?! そんな言葉が心の中で響いていた。
直後、その心の声に応えるかのように、デュランの心の声が響いた。
(敬愛する旅と運命の神よ!)
心の中で叫びながらデュランは防御魔法の中心点に狙いを定め、
(俺に力を!)
光る刃の先端をそこにねじ込んだ。
そうだ。これはシャロンのあの技。
そしてデュランの願いは神に聞き届けられた。
「「「!」」」
生じた光の嵐が、白い蛇の群れが影達に襲い掛かる。
シャロンの技と比べると指向性が甘く、大きく拡散している。
だが、広範囲を大群に包囲されている今の状況では、それが良い方向に働いた。
「ぎゃっ!」「ぐっ!」「うあぁっ?!」
そしてその規模と威力はシャロンのものを上回っていた。
シャロンの技術が劣っているからでは無い。
これは光魔法や武器の性能差によるもの。
単純に防御魔法や武器の体積が大きければ大きいほど、嵐の規模も大きくなるからだ。
「「……っ!」」
その嵐を光る爪で打ち払いながら、ユリアンとレイラは同じことを思った。
もしや、我々は大きな間違いを犯したのではないか、と。
目立つ指揮官ばかりに気を取られるあまり、眠れる獅子に学ぶ機会を与えただけでなく、その尾まで踏みつけてしまったのではないか、と。
だから思う。
こいつはここで倒しておかなければ、と。
その思いは自然とユリアンとレイラの足を前に出した。
ここで終わらせなければ、こいつはきっととんでもない怪物に成長してしまう、そんな確信が二人にはあった。
そして二人のその突進に対し、一つの影が声を上げた。
「かかれ!」
その声を合図に、影達は一斉に走り出した。
獲物にむらがる蟻のように、デュランという一つの点に他の全ての点が引き寄せられるように集まっていく。
これに、デュランは先と同じように防御魔法を展開。
即座に嵐を解き放つ。
白蛇の群れが影達に食らい付き、その身を噛み刻む。
だが、影達は今度はひるまなかった。
「次を撃たせるな!」「圧殺しろ!」
この攻撃は防御魔法を展開するゆえに連射はそれほど速く無い。
ゆえの突進。
だからデュランもその突進に対応して即座に手を変えた。
防御魔法を展開せず、脈打つ刃を水平に振り抜き始める。
剣の先端から漏れ出す粒子が光の尾となって、中空に三日月の軌跡を描き始める。
そしてその剣先が自身の真正面を向くその直前、
「シャアッ!」
デュランは気勢と共に、力強く魔力を放出した。
刃が一際強く脈打ち、魔力が勢いよく放出され、光の尾が相応に厚みを増す。
だが、直後に尾は刃から切り離された。
そして独立した光の尾は、振り抜いた勢いのまま前へ飛び出し、滑空する銀色の三日月となった。
「「「!?」」」
突然襲い掛かってきた予想外の攻撃に、射線上にいる影達の目が見開く。
だが、意識の硬直は一瞬。
一人を除いて射線上から退避する。
残った一人は防御魔法を展開。
しかしその選択は間違いだった。
「ぅがっ!?」
加速を得ている光の粒子は影の光の盾を裂き、その身まで両断した。
同時に三日月はその形を失い、小さな蛇の群れとなって影の体を食い破って飛び出した。
シャロンの技と違い、収束の過程が無いゆえにこの蛇の群れの勢いは弱い。
が、
「「「っ!」」」
それでも噛まれれば血しぶきが舞う。
されど、
「ひるむな!」
影達の足は止まらず、
「撃て! 牽制しろ!」
光弾の援護まで加わった。
牽制というよりは、もはや圧殺と呼んでも間違いでは無いほどの数の光弾がデュランに迫る。
これにデュランは、
「シャラァ!」
気勢と共に光る刃を切り返した。
先と同じ光の三日月が地に水平に放たれる。
シャロンの技と比べると攻撃範囲と威力の点で大きく劣るが、こちらはある程度の連射が利く。
三日月が光弾とぶつかり合い、砕けて生じた蛇の群れが互いを食い合うように、混ざり合うようにぶつかり合う。
「シャララアァッ!」
デュランは気勢を止めずに三日月を連射。
この時、デュランは感じ取っていた。
剣が悲鳴を上げているのを。
光の粒子が食い破る勢いで暴れ回っているのを。
サイラスが危惧していたのはこれ。
もしも限界を超えてしまったら、光の嵐に己が身を食われることにことになる。
されど、
「シィィッヤァ!」
今のデュランに恐怖は無かった。
三日月の連射で弾幕を相殺しつつ、生じた隙間に踏み込む。
瞬間、
「「「蛇ッ!」」」
三日月をやり過ごしながら待ち受けていた複数の影がデュランに襲い掛かった。
だが、デュランにはこの攻撃に対する備えが既にあった。
輝く左手から防御魔法を生み出す。
そしてデュランはその光の盾を地面に叩き付けるように下に向け、
「破ァァッ!」
地面に串刺すかのように、その中心に刃を突き立てた。
生じた光の嵐がデュランを飲み込み、踏み込んできた影達を巻き込む。
「「「――っ!」」」
嵐の中に悲鳴が掻き消え、巻き上げられながら赤く舞い散る。
舞い上がった赤い花びらは直後に赤い雨に。
それを全身に浴びながら、全身を赤く染めながら、デュランは無傷である自分の体を見せ付けるかのように立ち上がり、
「雄々ォーーッ!」
ここは通さぬと、かかってこいと、吼えた。
影達は気付いていなかった。もう一つの間違いに。
デュランに成長の機会を与えてしまったことだけでは無いのだ。
サイラスに対する評価も間違っているのだ。
この場で仕留め切れなかったツケを、影達は後に支払わされることになるのだ。
そして、サイラスにも気付いていないことが一つあった。
無意識から響いた「恐怖を使え」、その言葉にはもう一つの意味が含まれていることを。
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