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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第六話 豹と熊(15)
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そして豹の狙いは盾が限界を迎えたフレディ。
だが、この流れを予想出来ていたのは影だけでは無かった。
デュランもだった。だから初めての技を一発本番で試したのだ。
ゆえに、デュランの次の行動も決まっていた。
「うぉっ?!」
直後、突如襟首を強く引っ張られた衝撃に、フレディが呻いた。
フレディを包む浮遊感がさらに強まり、デュランを置き去りにするように視界が流れ始める。
掴んでいたのは隣にいるデュランだった。
そしてその背中が丸見えになり始めた瞬間、デュランは襟首を離すと同時に、その手を輝かせた。
「がっ!?」
その手から開き始めた光の傘がフレディの体をさらに突き飛ばす。
普通に、いや、かなり痛い。
それもそのはず。今のは本気に近い一撃だからだ。
だが、フレディがその痛みに対して余計な感情を抱くことは無かった。
ちゃんと分かっていた。自分を安全なところまで吹き飛ばすためにそうしたことは。
いや、それでも余計な感情は一つだけあった。
それは悔しさ。
この状況で気遣われるほどの自分の弱さに対しての感情。
そしてその感情は直後にデュランの強さに対する羨ましさ変わり始めた。
デュランはその羨望の眼差しを背に受けながら、
「シャァッ!」
上から襲い掛かってくるレイラを同じ光る爪で迎え討った。
が、
「っ!」
それは既に体勢が大きく崩れているデュランに立ち向かえる一撃では無かった。
デュランの爪が一方的に弾かれ、まるで大型獣に引っ掛かれたかのような傷が胸に刻み込まれる。
そしてレイラはデュランの胸をえぐりながら押しのけるように着地し、
「疾ッ!」
とどめとなる追撃をデュランに向かって繰り出した。
それはやはり今のデュランに防御できる一撃では無かった。
だが、デュランの顔に浮かんでいる感情は焦りでは無かった。
なぜなら、
「っ!」
その理由は直後にデュランを襲った衝撃と共に明らかになった。
それはデュランがフレディに対してやったのと同じ行為であった。
後ろから踏み込んできたサイラスに突き飛ばされたのだ。
その衝撃と共にデュランは感じ取った。
サイラスの心の中を。
だからデュランは叫んだ。
「サイラ「雄雄ォッ!」
が、デュランの呼び声はサイラスの気勢によって掻き消され、
「蛇ッ!」
その気勢はレイラの気勢とぶつかりあった。
レイラの光る爪とサイラスの突きがぶつかり合い、火花を散らす。
このぶつかり合いはサイラスが勝った。
が、
「「疾ッ!」」
直後に、ニコライとユリアンの気勢が割り込んだ。
「雄応ッ!」
サイラスが同じ気勢で応え、一閃。
サイラスが描いた一本の銀線が二つの爪を弾き飛ばす。
されどニコライとユリアンは即座に爪を構え直し、
「破ッ!」「蛇ッ!」「疾ッ!」
レイラと共にそれぞれ違う型で再び襲い掛かった。
「雄雄雄ッ!」
次々と嵐のように繰り出される三人の爪を、たった一本の剣で全て迎え討つサイラス。
「大将!」
フレディはその勇姿に思わず声を上げた。
フレディにも分かっていた。今のサイラスは危ういことが。
だからフレディは願った。
誰か大将を助けてやってくれと、強く強く願った。
その直後、
「?!」
ついに、無茶を続けたツケの支払いの時が訪れてしまった。
サイラスの目は見開いていた。
振り切った刃を切り返す、それが即座に出来なかったからだ。
これまでと同じように、痛みと交換で星を爆発させようとした。だが出来なかった。
まるで腕の細胞に反乱を起こされたかのように、星は輝かなかった。
だからサイラスは願った。
ここで動かなければ自分だけでなくデュランも死ぬ、そう声を上げた。
その悲鳴のような願いは聞き入れられた。
闇夜のようになりかけていたサイラスの右腕の中で再び星が煌き始める。
機能不全の時間は数瞬、されど刹那の時間すら貴重な今の状況では、その数瞬は致命的であった。
サイラスの計算能力をもってしても、次の連携を無事に受けきる道筋は既に見えなくなっていた。
(ならば!)
覚悟など最初から出来ていると、サイラスは吼えた。
あの世への旅路にお前達もついてきてもらうと、サイラスは叫んだ。
ゆえにか、サイラスの高速演算はかつてないほどの冴えを見せた。
時が止まったかのような感覚。
音もしない。耳に響いてはいるが、不要な情報として処理されていない。
静止したかのようなその静かな世界の中で、サイラスは相討ちへの道筋を頭の中で描こうとした。
が、瞬間、
“大将!”
心の中のどこかから、フレディの声が聞こえたような気がした。
同時に、今もどこかで囮として戦ってくれているシャロンの姿が浮かんだ。
そして直後に、今度ははっきりとフレディの声が響いた。
“シャロンと大将、両方に倒れられちゃ困るんですよ! どちらかが撤退の指揮を執り続けてくれなくちゃ、そうじゃないとみんなバラバラになっちまう!”
この地獄のような戦いに挑む直前に言われた言葉。
その言葉は正しく無いことをサイラスは分かっていた。
両方倒れても困らないのだ。魔王に返り討ちにされる可能性は当然考慮されており、その際の指揮系統の変更などの対処も、事前に全体に通知されているのだから。
だからあのフレディの言葉はただのでっちあげなのだ。
だが、なんのためのでっちあげか?
だが、この流れを予想出来ていたのは影だけでは無かった。
デュランもだった。だから初めての技を一発本番で試したのだ。
ゆえに、デュランの次の行動も決まっていた。
「うぉっ?!」
直後、突如襟首を強く引っ張られた衝撃に、フレディが呻いた。
フレディを包む浮遊感がさらに強まり、デュランを置き去りにするように視界が流れ始める。
掴んでいたのは隣にいるデュランだった。
そしてその背中が丸見えになり始めた瞬間、デュランは襟首を離すと同時に、その手を輝かせた。
「がっ!?」
その手から開き始めた光の傘がフレディの体をさらに突き飛ばす。
普通に、いや、かなり痛い。
それもそのはず。今のは本気に近い一撃だからだ。
だが、フレディがその痛みに対して余計な感情を抱くことは無かった。
ちゃんと分かっていた。自分を安全なところまで吹き飛ばすためにそうしたことは。
いや、それでも余計な感情は一つだけあった。
それは悔しさ。
この状況で気遣われるほどの自分の弱さに対しての感情。
そしてその感情は直後にデュランの強さに対する羨ましさ変わり始めた。
デュランはその羨望の眼差しを背に受けながら、
「シャァッ!」
上から襲い掛かってくるレイラを同じ光る爪で迎え討った。
が、
「っ!」
それは既に体勢が大きく崩れているデュランに立ち向かえる一撃では無かった。
デュランの爪が一方的に弾かれ、まるで大型獣に引っ掛かれたかのような傷が胸に刻み込まれる。
そしてレイラはデュランの胸をえぐりながら押しのけるように着地し、
「疾ッ!」
とどめとなる追撃をデュランに向かって繰り出した。
それはやはり今のデュランに防御できる一撃では無かった。
だが、デュランの顔に浮かんでいる感情は焦りでは無かった。
なぜなら、
「っ!」
その理由は直後にデュランを襲った衝撃と共に明らかになった。
それはデュランがフレディに対してやったのと同じ行為であった。
後ろから踏み込んできたサイラスに突き飛ばされたのだ。
その衝撃と共にデュランは感じ取った。
サイラスの心の中を。
だからデュランは叫んだ。
「サイラ「雄雄ォッ!」
が、デュランの呼び声はサイラスの気勢によって掻き消され、
「蛇ッ!」
その気勢はレイラの気勢とぶつかりあった。
レイラの光る爪とサイラスの突きがぶつかり合い、火花を散らす。
このぶつかり合いはサイラスが勝った。
が、
「「疾ッ!」」
直後に、ニコライとユリアンの気勢が割り込んだ。
「雄応ッ!」
サイラスが同じ気勢で応え、一閃。
サイラスが描いた一本の銀線が二つの爪を弾き飛ばす。
されどニコライとユリアンは即座に爪を構え直し、
「破ッ!」「蛇ッ!」「疾ッ!」
レイラと共にそれぞれ違う型で再び襲い掛かった。
「雄雄雄ッ!」
次々と嵐のように繰り出される三人の爪を、たった一本の剣で全て迎え討つサイラス。
「大将!」
フレディはその勇姿に思わず声を上げた。
フレディにも分かっていた。今のサイラスは危ういことが。
だからフレディは願った。
誰か大将を助けてやってくれと、強く強く願った。
その直後、
「?!」
ついに、無茶を続けたツケの支払いの時が訪れてしまった。
サイラスの目は見開いていた。
振り切った刃を切り返す、それが即座に出来なかったからだ。
これまでと同じように、痛みと交換で星を爆発させようとした。だが出来なかった。
まるで腕の細胞に反乱を起こされたかのように、星は輝かなかった。
だからサイラスは願った。
ここで動かなければ自分だけでなくデュランも死ぬ、そう声を上げた。
その悲鳴のような願いは聞き入れられた。
闇夜のようになりかけていたサイラスの右腕の中で再び星が煌き始める。
機能不全の時間は数瞬、されど刹那の時間すら貴重な今の状況では、その数瞬は致命的であった。
サイラスの計算能力をもってしても、次の連携を無事に受けきる道筋は既に見えなくなっていた。
(ならば!)
覚悟など最初から出来ていると、サイラスは吼えた。
あの世への旅路にお前達もついてきてもらうと、サイラスは叫んだ。
ゆえにか、サイラスの高速演算はかつてないほどの冴えを見せた。
時が止まったかのような感覚。
音もしない。耳に響いてはいるが、不要な情報として処理されていない。
静止したかのようなその静かな世界の中で、サイラスは相討ちへの道筋を頭の中で描こうとした。
が、瞬間、
“大将!”
心の中のどこかから、フレディの声が聞こえたような気がした。
同時に、今もどこかで囮として戦ってくれているシャロンの姿が浮かんだ。
そして直後に、今度ははっきりとフレディの声が響いた。
“シャロンと大将、両方に倒れられちゃ困るんですよ! どちらかが撤退の指揮を執り続けてくれなくちゃ、そうじゃないとみんなバラバラになっちまう!”
この地獄のような戦いに挑む直前に言われた言葉。
その言葉は正しく無いことをサイラスは分かっていた。
両方倒れても困らないのだ。魔王に返り討ちにされる可能性は当然考慮されており、その際の指揮系統の変更などの対処も、事前に全体に通知されているのだから。
だからあのフレディの言葉はただのでっちあげなのだ。
だが、なんのためのでっちあげか?
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