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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第六話 豹と熊(14)
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ニコライには重さの原因はやはり分かっていなかった。
が、ニコライの本能は答えの有無など関係無い単純かつ有効な解決法を提示したのだ。
肩と肘の中で星を爆発させ、同時に手の平から魔力を一気に放出して剣を弾き返す、ニコライは本能の成すままに、それを実行しようとした。
だが、瞬間、
(!?)
ニコライの手から重さが消えた。
ニコライの本能の動きを感じ取ったサイラスが即座に剣を引いたのだ。
ゆえにサイラスの顔は歪んでいた。
突き出した刃を引き戻すために星を爆発させたからだ。
そして直後にさらなる痛みが必要になることまで分かっていた。
引き戻る勢いに減速をかけつつ、前に刃を押し返す。
それら全てが星の輝きによるもの。
相手に余裕を与えぬために、動作量は出来るだけ小さく。
ゆえに、サイラスの動作はまるで高速で動く振り子のようであった。
足の動きは体重移動のみに絞り、腰を捻って回転の力を刃に乗せながら、上半身を鋭く前後に揺らす。
星の輝きのみで実現されたその動きは、感知能力者から見れば光の芸術であり、無能力者にとっては畏怖すべき人外のものであった。
その驚異的な痛みによる驚異的な動きと共に、二度目の突きが繰り出される。
二合目となるその突きに対し、ニコライは叩き払いを選択。
迎撃の左爪がサイラスの刃とぶつかり合う。
瞬間、
「?!」
ニコライは再び目を見開いた。
その理由は直後に心の叫びとなった。
(軽い?!)
なぜか、その理由は即座に分かった。
これは攻めと見せかけた受け流し、そこからの反撃を目的とした罠!
しかしその答えは同時に新たな疑問を生んだ。
だが、それについて考える余裕は今は無かった。
ニコライは感じ取った。
剣を弾いた直後、その力に逆らうように、サイラスの腕の中で星が爆発したのを。
そして即座に返ってくるサイラスの刃。
首を狙ったその一撃を、背をそらしながらの後退で避ける。
本来は反撃に使うはずだった剛力術の力を利用して鋭く跳びさがる。
対し、サイラスはさらに仕掛けてくる気配を見せず。
なぜか、ニコライにはサイラスの隠された心は読めなかったが、距離が離れ始めた事実はニコライの心に余裕を生んだ。
ニコライはその余裕を先の疑問の解決にあてた。
なぜ、こうも綺麗に裏をかかれるのか。
一番奇妙なのは一合目のあの時だ。
重い刃を弾き返そうとしたあの時。
この男はまるでそれが事前に分かっていたかのように、弾かれる前に刃を引いた。
なぜか。
その答えはニコライには一つしか思い浮かばなかった。
ニコライは確かめるように、それを心の中で叫んだ。
(こちらの心を読んで、直後に攻め手を切り替えた?!)
にわかには信じ難い答えだが、そうとしか思えない。
つまり、この男は、我よりも、
(計算速度が圧倒的に速い!?)
ということ。
相手の思考の変化を感知し、その解析から答えを出すまでが異常に早いのだ。
ニコライの導き出した答えは単純だが正解だった。
それこそが、攻防において強力な光魔法を使えないサイラスがこの激戦の中で生き残れている大きな理由。
だが、それは理由の一つに過ぎない。
直後、サイラスが追撃しなかった理由と共に、それは明らかになった。
「加勢しよう」
一つの若い男の声と共に二つの影がニコライの左右に立った。
「熊のユリアン」
そして片方の影が同じ声で名乗り、
「豹のレイラ」
続いてもう一つの影が女の声で名乗った。
二人はニコライとは戦友と呼べる間柄であった。
ゆえに、ニコライは口を開いた。
「あれを仕掛けるぞ」
あれとは何か、それは言わずともわかっていたゆえに、
「「承知」」
ユリアンとレイラは同時に返事を返した。
そして直後に三人の攻撃意識は一つに重なり、
「「「参る!」」」
次のぶつかり合いの合図を高らかに叫びながら、
“剛破・狂獣烈波!” (ごうは・きょうじゅうれっぱ)
同時に、これから繰り出す技の名を心の中から高らかに響かせた。
その名から分かる通り、剛破・狂獣爪撃を三人がかりで仕掛ける連携技。
ゆえに、最初に立ち向かったのはやはりデュランとフレディだった。
豹よりも先に熊の二人が踏み込み、同時に剛力術を発動する。
瞬間、
((何?!))
二人は同時に目を見開いた。
デュランも剛力術を発動したからだ。
だから二人は二人とも己の感知を疑った。
無理も無かった。先の一合だけで剛力術を学び、そして実践してみせた、そんなもの信じられるわけが無い。
だが、ニコライだけはその疑問の先に思考を進ませることが出来た。
そういえば、先ほどの『神楽』の発動者はこいつだったはずだ、と。
その思考の直後、二人はぶつかり合った。
「「「破ッ!」」「シャラァッ!」「おらぁっ!」
双方の気勢が競り合いながら重なり、金属音と共に響く。
その金属音は先とは音色が違っていた。
見ると、フレディの大盾は表面の金属板がへこみ、大きな亀裂が走っていた。
影にはこのぶつかり合いの結果は最初から予想出来ていた。
打ち勝ったのは影の二人。
デュランが剛力術を発動したことには驚かされたが、二人の剛力術を弾き返すほどでは無い。
打ち負けたデュランとフレディの体が後方に大きく崩れ始める。
直後、倒れ始めた二人に覆いかぶさるように、影が差した。
それは、ニコライとユリアンの肩を土台にして飛び越えてきたレイラの影であった。
熊の二人が崩すと同時に豹が追撃する、それがこの三人の剛破・狂獣烈波の基本形。
が、ニコライの本能は答えの有無など関係無い単純かつ有効な解決法を提示したのだ。
肩と肘の中で星を爆発させ、同時に手の平から魔力を一気に放出して剣を弾き返す、ニコライは本能の成すままに、それを実行しようとした。
だが、瞬間、
(!?)
ニコライの手から重さが消えた。
ニコライの本能の動きを感じ取ったサイラスが即座に剣を引いたのだ。
ゆえにサイラスの顔は歪んでいた。
突き出した刃を引き戻すために星を爆発させたからだ。
そして直後にさらなる痛みが必要になることまで分かっていた。
引き戻る勢いに減速をかけつつ、前に刃を押し返す。
それら全てが星の輝きによるもの。
相手に余裕を与えぬために、動作量は出来るだけ小さく。
ゆえに、サイラスの動作はまるで高速で動く振り子のようであった。
足の動きは体重移動のみに絞り、腰を捻って回転の力を刃に乗せながら、上半身を鋭く前後に揺らす。
星の輝きのみで実現されたその動きは、感知能力者から見れば光の芸術であり、無能力者にとっては畏怖すべき人外のものであった。
その驚異的な痛みによる驚異的な動きと共に、二度目の突きが繰り出される。
二合目となるその突きに対し、ニコライは叩き払いを選択。
迎撃の左爪がサイラスの刃とぶつかり合う。
瞬間、
「?!」
ニコライは再び目を見開いた。
その理由は直後に心の叫びとなった。
(軽い?!)
なぜか、その理由は即座に分かった。
これは攻めと見せかけた受け流し、そこからの反撃を目的とした罠!
しかしその答えは同時に新たな疑問を生んだ。
だが、それについて考える余裕は今は無かった。
ニコライは感じ取った。
剣を弾いた直後、その力に逆らうように、サイラスの腕の中で星が爆発したのを。
そして即座に返ってくるサイラスの刃。
首を狙ったその一撃を、背をそらしながらの後退で避ける。
本来は反撃に使うはずだった剛力術の力を利用して鋭く跳びさがる。
対し、サイラスはさらに仕掛けてくる気配を見せず。
なぜか、ニコライにはサイラスの隠された心は読めなかったが、距離が離れ始めた事実はニコライの心に余裕を生んだ。
ニコライはその余裕を先の疑問の解決にあてた。
なぜ、こうも綺麗に裏をかかれるのか。
一番奇妙なのは一合目のあの時だ。
重い刃を弾き返そうとしたあの時。
この男はまるでそれが事前に分かっていたかのように、弾かれる前に刃を引いた。
なぜか。
その答えはニコライには一つしか思い浮かばなかった。
ニコライは確かめるように、それを心の中で叫んだ。
(こちらの心を読んで、直後に攻め手を切り替えた?!)
にわかには信じ難い答えだが、そうとしか思えない。
つまり、この男は、我よりも、
(計算速度が圧倒的に速い!?)
ということ。
相手の思考の変化を感知し、その解析から答えを出すまでが異常に早いのだ。
ニコライの導き出した答えは単純だが正解だった。
それこそが、攻防において強力な光魔法を使えないサイラスがこの激戦の中で生き残れている大きな理由。
だが、それは理由の一つに過ぎない。
直後、サイラスが追撃しなかった理由と共に、それは明らかになった。
「加勢しよう」
一つの若い男の声と共に二つの影がニコライの左右に立った。
「熊のユリアン」
そして片方の影が同じ声で名乗り、
「豹のレイラ」
続いてもう一つの影が女の声で名乗った。
二人はニコライとは戦友と呼べる間柄であった。
ゆえに、ニコライは口を開いた。
「あれを仕掛けるぞ」
あれとは何か、それは言わずともわかっていたゆえに、
「「承知」」
ユリアンとレイラは同時に返事を返した。
そして直後に三人の攻撃意識は一つに重なり、
「「「参る!」」」
次のぶつかり合いの合図を高らかに叫びながら、
“剛破・狂獣烈波!” (ごうは・きょうじゅうれっぱ)
同時に、これから繰り出す技の名を心の中から高らかに響かせた。
その名から分かる通り、剛破・狂獣爪撃を三人がかりで仕掛ける連携技。
ゆえに、最初に立ち向かったのはやはりデュランとフレディだった。
豹よりも先に熊の二人が踏み込み、同時に剛力術を発動する。
瞬間、
((何?!))
二人は同時に目を見開いた。
デュランも剛力術を発動したからだ。
だから二人は二人とも己の感知を疑った。
無理も無かった。先の一合だけで剛力術を学び、そして実践してみせた、そんなもの信じられるわけが無い。
だが、ニコライだけはその疑問の先に思考を進ませることが出来た。
そういえば、先ほどの『神楽』の発動者はこいつだったはずだ、と。
その思考の直後、二人はぶつかり合った。
「「「破ッ!」」「シャラァッ!」「おらぁっ!」
双方の気勢が競り合いながら重なり、金属音と共に響く。
その金属音は先とは音色が違っていた。
見ると、フレディの大盾は表面の金属板がへこみ、大きな亀裂が走っていた。
影にはこのぶつかり合いの結果は最初から予想出来ていた。
打ち勝ったのは影の二人。
デュランが剛力術を発動したことには驚かされたが、二人の剛力術を弾き返すほどでは無い。
打ち負けたデュランとフレディの体が後方に大きく崩れ始める。
直後、倒れ始めた二人に覆いかぶさるように、影が差した。
それは、ニコライとユリアンの肩を土台にして飛び越えてきたレイラの影であった。
熊の二人が崩すと同時に豹が追撃する、それがこの三人の剛破・狂獣烈波の基本形。
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