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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第六話 豹と熊(13)

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 その踏み込みはこれまでのものとは違っていた。
 足の裏で何かが爆発したかのように、雪しぶきが噴きあがる。
 見ると、ニコライの足裏は発光していた。
 足からも魔力を放出できる特殊能力者。
 だが、その特殊性は鍛錬によってある特長を備えるまでに至っていた。
 その特徴、それは直後の動きに表れた。
 まるで足裏での爆発で吹き飛ばされたかのように、ニコライの体が前へ高速移動を開始する。

「!?」

 気付けば相手が目の前であることに、フレディが驚く。
 一瞬で間合いを詰めてきた、それを理解した瞬間、

「がっ?!」

 視界が閃光に白んだのと同時に襲い掛かってきた衝撃に、フレディの体は吹き飛んだ。
 ニコライの動作自体は単純。踏み込みから右手の防御魔法を叩き付けただけ。
 しかしそのあまりの速さゆえに、ただの体当たりのような技でも十分すぎる攻撃になる。
 そしてニコライは吹き飛ぶフレディに追撃しようとはしなかった。
 なぜなら、それを阻止するためにデュランが仕掛けてきているからだ。
 鋭い踏み込みと共にデュランが光る爪を繰り出す。
 瞬間、

「!?」

 デュランはある異常を感じ取った。
 それはニコライの体内で起きていた。
 通常、光魔法は体内のいたるところで常に反応を起こし、何かしらの活動をうながしている。
 ゆえに、感知能力の優れた人間には、人の体内はまるで星空のように見える。
 だが、今のニコライは違った。
 まるで夜の曇り空のように暗い。
 だが、星がまったく無いわけではなかった。雲の隙間からのぞくように輝いているものがあった。
 そしてその隙間の配置にはある規則性があった。
 星は関節や筋肉などに集中していた。
 どうしてそんなことになっているのか、なんのためにそうしているのか、それは直前に見た高速の踏み込みと繋がった。
 これは熊の一族に伝わる奥義の一つ。
 その名も『剛力術』。
 他の器官での消費を抑え、魔力を目的の部位に集中させる技。
 この技術を基本とし、様々な型と組み合わせることで別の奥義に派生する。
 直後、ニコライはその名を心の中から響かせた。

“剛破・狂獣爪撃!”(ごうは・きょうじゅうそうげき)

 それは『剛力術』を基本とした『剛破』という技からの連続技。
 剛破とは、剛たる一撃で相手の防御を打ち破るという意味の武技。
 ニコライはその第一手を見せた。
 剛の名にふさわしい崩し技であれば型はなんでもいい。だからニコライは己がもっとも得意とするものを選んだ。
 そしてそれはフレディに対してやったのと同じものであった。
 ゆえにデュランはその攻撃を読めていたのだが、

「っ!」

 デュランの展開した防御魔法は一方的に打ち破られた。
 衝撃にデュランの巨体が浮き上がり始める。
 瞬間、デュランは見た。
 打ち勝った側であるはずのニコライの顔が歪んでいるのを。
 その理由はやはりサイラスと同じであった。
 限界を少し超えてしまった痛みによるものだ。
 だが骨は折れていない。関節はなんとか持ちこたえた。
 それは積み重ねた修練の賜物(たまもの)であった。
 ニコライは知っているのだ。体が壊れないぎりぎりの出力を感覚で覚えているのだ。
 あとは吹き飛び始めたデュランに同じ剛の技術による爪での追撃を行えば、『剛破・狂獣爪撃』は一つの技として完結する。
 そして瞬間、ニコライは当初の目的通り、サイラスを引っ張り出すことに成功したことを感じ取った。
 吹き飛ぶデュランと入れ替わるようにサイラスがこちらに踏み込んできたのだ。
 だから、ニコライは、

(いざ、勝負!)

 心の中でそう叫び、ぶつかり合うように踏み込んだ
 剛破の直後、再び暗黒に沈み始めていたニコライの体内が新たな星々に満ち、その輝きを乗せた爪が放たれる。
 それを迎え討つは、同じ星々の力を得て放たれたサイラスの突進突き。

「「雄ォッ!」」

 人間の限界を超えた二つの力が交錯する。
 このぶつかり合いに、ニコライは自信を持っていた。
 至近距離での戦闘において相手のアゴを跳ね上げる時に使う、突き上げ掌底打ちで剣を真上に弾き、がら空きになった胴に踏み込む、ニコライは心の中で描いているその予定に自信を抱いていた。
 その自信と共に突き上げ左掌底打ちを繰り出す。
 が、

「!?」

 直後、衝突点から金属音と火花が生じたのと同時に左手に伝わってきた感触に、ニコライは目を見開いた。
 その感触は直後にニコライの心の中で言葉になった。

(重い!)

 その言葉は直後に目に見える形で現れた。
 あまりの重さに、ニコライの膝が一瞬崩れる。
 押さえている左手の平に刃が食い込み、赤い線を描く。
 しかしなぜ。ニコライの心の中にそんな疑問が浮かんだ。
 ニコライにはその答えを導く力と時間の両方が足りなかった。
 答えはサイラスの心の中に隠されていた。
 サイラスはニコライが剣を真上に弾き飛ばそうとしているのを感知し、即座に対応したのだ。
 突きの軌道を斜め下に変えるように、自ら前に倒れるように膝を崩したのだ。
 そしてサイラスはニコライの突き上げ掌底打ちを一つの支えと見立て、刃を乗せるように、ニコライにもたれかかるように体重をかけたのだ。
 よってこの一合目は五分、そのように思えた。
 が、

(破ッ!)

 直後にニコライは気勢と共に五分の状況を崩しにかかった。
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