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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第六話 豹と熊(8)

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 言われる通り、デュランは両手にある二刀に意識を集中させた。
 太さと長さの違う二本の刃が発光を始める。

「もっとだ! 剣が震える直前まで魔力を込めろ!」

 それは普通は危険な行為。だが、デュランは言われるがままにそうした。
 この時、サイラスはある事を隠していた。
 これはデュランが思っているよりも危険な行為であることを。
 だからサイラスの背には冷や汗が流れていた。
 下手をすれば、この場にいる全員が全滅する行為だからだ。
 失敗すれば光の嵐に全員が巻き込まれるだろう。
 だからサイラスは刃に手を押し当てた。
 そして感じ取った。
 刃の内部で光の粒子が暴れ回っているのを。
 まったく規則性が無い。
 だからサイラスは声を上げた。

「一定の間隔で流し込め! このままじゃどうにもならん!」

 初めてのことであったが、デュランは精一杯サイラスの期待に応えようとした。
 そしてそれは初めてにしてはそれなりの形になり始めた。

 サイラスはそれを感じ取れていた。
 デュランの手から、一定の周期で光魔法が流し込まれている。
 鉄はすんなりとこれを受け入れる。鉄が光の粒子にとって抵抗値が低い物質だからだ。
 光魔法は核である元素と、その周囲を回転する多くの光粒子で構成されているが、鉄元素は光粒子に対して強い引力を有しており、光元素から光粒子を奪い取ってしまう。逆に光元素と鉄元素は反発し合う。斥力が生じるのだ。
 そして光粒子は鉄元素から別の鉄元素へまるで自由であるかのように移動し続ける。抵抗値とはこの自由度の逆数で決まる数値である。
 対し、裸にされた光元素は斥力によって剣の外に押し出されたりするが、ピンボールのように中で跳ね回るものもいる。これが制御を不安定にしている原因の一つであるが、ここにさらなる変化が生じる。
 それを引き起こすのは鋼の中に含まれている炭素である。鋼とは炭素をある濃度で含んでいる鉄のことであるが、この世にある鉄はほとんどが鋼である。鉄は炭素を好む物質であり、強く引き込むのだ。
 そしてこの炭素は光魔法の元素と強く引き合うという性質を有している。
 光魔法の元素は炭素と結び付くが、当然、近くには斥力を生む鉄元素が大量に存在する。
 結び付いた炭素はその斥力の影響を受ける。光魔法の元素に引きずられるのだ。
 それによって炭素は鉄の中を移動し始める。激しく振動しながら、である。その間も鉄は炭素を引っ張り続ける。光元素と炭素の関係を引き裂こうとするかのように。
 そしてその破局は間も無く訪れる。鉄元素のほうが圧倒的に数が多いからだ。
 この際、光元素は凄まじい勢いで弾き飛ばされる。強い引力で結び付いていた状態が、数の暴力によるより強い斥力でちぎられるからだ。
 しかしこの現象によって加速を得た光元素は、鉄の中を高速で駆け抜けながら、道中にある光粒子と反応していく。これが振動の原因である。
 このままでは不規則な波を発し続けるだけの暴れ馬である。が、安定させれば、言い換えればその挙動に規則性を持たせることが出来れば、その現象は増幅という機能を果たしてくれる。
 今やっている手から剣へ一定の周期で流し込む作業がその安定化作業なのだ。
 流し込まれた光魔法の粒子群は柄から先端に至った後、多くは手元に帰ってくる。これは空気の方が抵抗が高いためだ。剣から手も同様である。ゆえに、光魔法の粒子は根元と先端部を何度も往復することになる。
 そして流し込まれ続けるゆえに、剣の内部はあっという間に光魔法の粒子で一杯になる。
 この状態は例えるならば、水で満たした洗面器を左右に揺らしているような状態である。水である光粒子はあふれてこぼれ続けるが、手という蛇口から注がれ続けているゆえに容器が空になることは無い。
 そして光元素は光粒子と引き合う関係にあるがゆえに、大量に流れ込み続ける光粒子に引きずられることになる。鉄元素に押されるため滑らかな動きでは無いが、光粒子の方が圧倒的に多いため洗面器の中を規則的に往復するようになる。つまり、数の暴力による不規則性をさらなる数の暴力で制御するということだ。
 当然、炭素もこの影響を受けることになる。光元素に引きずられるがまま、洗面器の中を、剣の中をゆらめくことになるのだ。
 そして結果として光元素と炭素の破局の形に変化が生まれる。光元素が加速発射される方向にある程度の規則性が生まれることになる。鉄元素にも引っ張られているため必ずでは無いが、炭素は光元素の背後を追従するように動くためだ。光元素が発射される方向は進行方向側に偏ることになる。
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