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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第六話 豹と熊(4)
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その痛みは影の戦意を萎縮させるに十分なものであった。
踏み込んだ足を止め、後方に地を蹴るために力を込め直す。
サイラスはその弱気と動きを感じ取れていた。
ゆえに、サイラスは振り上げた剣の勢いを止め、構えを切り替えた。
振り上げた右腕を手前に引きながら折りたたむ。
刃を地に水平にし、二の腕が胸に張り付くまで引き絞り、握り手は顔の真横に。
三段突きの構え。
瞬間、サイラスは夢の続きを見ているような気持ちになった。
これは奴隷時代にある人に教えてもらった構え。
かつて師と仰いでいた男が得意としていた構え。
高速演算による緩慢な世界の中で、師の姿が今の自分と重なる。
師はこの技と奴隷達を束ねて魔法使い達に戦いを挑んだ。
しかしその戦いで師は敗れ、命を落とした。
されど、だからといってこの技が弱いということにはならない。
師は無能力者であり、身体制御技術もずばぬけて優秀というほどでは無かった。
だから自分が証明してみせる、魔法使い達にこの技の恐ろしさを教えてやる。そんな思いがサイラスの心に片隅にあった。
サイラスはその思いを滲ませながら、
「疾ィッ!」
片手で防げるものならやってみろ、魅せてみろ、そんな心の叫びを気勢に変えて放った。
これに対し、影は後ずさりながらの防御魔法。
そうすることをサイラスは読み取れていた。
ゆえにサイラスの最初の狙いは防御魔法を展開し始めた影の手の平。
一撃目で光の膜を破り、二撃目でその手の平を串刺す。
そしてサイラスはその手の平が使いものにならなくなるように、捻りながら刃を引き抜いた。
この数瞬の動作の間に、体に力を込め直す。
体に活を入れ直し、体の中に散らばる星々を再び輝かせる。
そしてサイラスは手の平から刃を引き抜くと同時にその星々を爆発させた。
狙いは胸。
サイラスはその奥にある心臓目掛けて、
「ィイッヤァ!」
先に吐いた気勢を伸ばしながら三撃目を繰り出した。
「ぐぇっ!」
胸骨を砕き抜いて突き刺さったその衝撃に、肺の中の空気が押し出されて悲鳴に変わる。
完璧に心臓を貫いた。
だがサイラスの勢いは止まらなかった。止めなかった。
体当たりするようにサイラスはさらに踏み込み、
「破アァァ……ッ!」
吐いた気勢をさらに伸ばしながら、串刺しにした影の体を押し運んだ。
それは助走であった。
そして十分な速度に達した瞬間、
「でやぁ!」
サイラスは串刺しにした影の体を前に放り投げるように、長剣を突き出した。
ずるりと、刃から影の体が離れ、前に放り投げられる。
その先には、
「!?」
兵士達と乱戦している別の影がいた。
影の視界が投げ飛ばされてきた仲間で一杯になる。
「うおっ?!」
影は咄嗟に防御魔法を展開。
飛んできたそれを光る盾で受け止める。
光魔法独特の炸裂音と共にそれは弾かれ、影の視界は再び開けた。
が、そこには、目の前には、
「せぇやあっ!」
剣を大きく振りかぶったサイラスの姿があった。
「!」
防御魔法で受けるか、それとも光る爪で受け流すか、または避けるか。
影は迷った。
その迷い自体が命取りだった。
結局、影は決断出来ず、選択は「展開している防御魔法で受け止める」というものになった。
その選択は間違いであったことを、
「がっ!?」
影はその身で学ぶことになった。
赤い噴水と共に崩れ落ちる影。
サイラスはその赤色を浴びながら、その味を確かめるかのように鋭く、そして大きく息を吸い込んだ。
肺の中の空気を全て使い切った、豪快な攻め。
ゆっくりと息を吐いてその疲労感をやわらげる。
サイラスはそのたった一度の深呼吸で己を整えた。
そしてサイラスは直後に再び鋭く息を吸い込み、
「雄雄雄ッ!」
己の力を誇示するように、影達にぶつけるように吼えた。
「大将!」
そんなサイラスを呼びながらフレディが駆け寄る。
フレディには感じ取れていた。
サイラスが派手に気勢を上げているのは、影達の意識を自分に集中させるためであることを。
だからフレディは無理をしないでという思いを込めて呼びかけていた。
しかしそれが無駄であることも分かっていた。だからフレディは駆け寄っていた。
そしてサイラスの叫び声は狙い通りに機能していた。
あいつはそこそこできる、と影達から認識されていた。
そしてあいつを無残に散らせば全体の士気を下げることが出来る、とも。
ゆえに、その時サイラスの真上にいた、屋根の上にいた影が心の声を上げた。
ならば、我が一番槍を、と。
その声を響かせると同時に影は真下にいるサイラス目掛けて屋根から飛び降りた。
しかしサイラスはそれを対処する動きを見せなかった。
その奇襲をサイラスは事前に感知出来ていた。
それだけでは無い。対処する必要が無いこともサイラスには分かっていた。
なぜなら、
「シャラァッ!」「!」
デュランが守ってくれるからだ。
デュランはサイラスに追いつくために走ってきた勢いを利用して跳躍し、落下中の影を迎え討った。
双方の光る爪がぶつかり合い、光魔法特有の炸裂音が響く。
落下する影と飛び上がるデュランの影、二つの影が交錯する。
踏み込んだ足を止め、後方に地を蹴るために力を込め直す。
サイラスはその弱気と動きを感じ取れていた。
ゆえに、サイラスは振り上げた剣の勢いを止め、構えを切り替えた。
振り上げた右腕を手前に引きながら折りたたむ。
刃を地に水平にし、二の腕が胸に張り付くまで引き絞り、握り手は顔の真横に。
三段突きの構え。
瞬間、サイラスは夢の続きを見ているような気持ちになった。
これは奴隷時代にある人に教えてもらった構え。
かつて師と仰いでいた男が得意としていた構え。
高速演算による緩慢な世界の中で、師の姿が今の自分と重なる。
師はこの技と奴隷達を束ねて魔法使い達に戦いを挑んだ。
しかしその戦いで師は敗れ、命を落とした。
されど、だからといってこの技が弱いということにはならない。
師は無能力者であり、身体制御技術もずばぬけて優秀というほどでは無かった。
だから自分が証明してみせる、魔法使い達にこの技の恐ろしさを教えてやる。そんな思いがサイラスの心に片隅にあった。
サイラスはその思いを滲ませながら、
「疾ィッ!」
片手で防げるものならやってみろ、魅せてみろ、そんな心の叫びを気勢に変えて放った。
これに対し、影は後ずさりながらの防御魔法。
そうすることをサイラスは読み取れていた。
ゆえにサイラスの最初の狙いは防御魔法を展開し始めた影の手の平。
一撃目で光の膜を破り、二撃目でその手の平を串刺す。
そしてサイラスはその手の平が使いものにならなくなるように、捻りながら刃を引き抜いた。
この数瞬の動作の間に、体に力を込め直す。
体に活を入れ直し、体の中に散らばる星々を再び輝かせる。
そしてサイラスは手の平から刃を引き抜くと同時にその星々を爆発させた。
狙いは胸。
サイラスはその奥にある心臓目掛けて、
「ィイッヤァ!」
先に吐いた気勢を伸ばしながら三撃目を繰り出した。
「ぐぇっ!」
胸骨を砕き抜いて突き刺さったその衝撃に、肺の中の空気が押し出されて悲鳴に変わる。
完璧に心臓を貫いた。
だがサイラスの勢いは止まらなかった。止めなかった。
体当たりするようにサイラスはさらに踏み込み、
「破アァァ……ッ!」
吐いた気勢をさらに伸ばしながら、串刺しにした影の体を押し運んだ。
それは助走であった。
そして十分な速度に達した瞬間、
「でやぁ!」
サイラスは串刺しにした影の体を前に放り投げるように、長剣を突き出した。
ずるりと、刃から影の体が離れ、前に放り投げられる。
その先には、
「!?」
兵士達と乱戦している別の影がいた。
影の視界が投げ飛ばされてきた仲間で一杯になる。
「うおっ?!」
影は咄嗟に防御魔法を展開。
飛んできたそれを光る盾で受け止める。
光魔法独特の炸裂音と共にそれは弾かれ、影の視界は再び開けた。
が、そこには、目の前には、
「せぇやあっ!」
剣を大きく振りかぶったサイラスの姿があった。
「!」
防御魔法で受けるか、それとも光る爪で受け流すか、または避けるか。
影は迷った。
その迷い自体が命取りだった。
結局、影は決断出来ず、選択は「展開している防御魔法で受け止める」というものになった。
その選択は間違いであったことを、
「がっ!?」
影はその身で学ぶことになった。
赤い噴水と共に崩れ落ちる影。
サイラスはその赤色を浴びながら、その味を確かめるかのように鋭く、そして大きく息を吸い込んだ。
肺の中の空気を全て使い切った、豪快な攻め。
ゆっくりと息を吐いてその疲労感をやわらげる。
サイラスはそのたった一度の深呼吸で己を整えた。
そしてサイラスは直後に再び鋭く息を吸い込み、
「雄雄雄ッ!」
己の力を誇示するように、影達にぶつけるように吼えた。
「大将!」
そんなサイラスを呼びながらフレディが駆け寄る。
フレディには感じ取れていた。
サイラスが派手に気勢を上げているのは、影達の意識を自分に集中させるためであることを。
だからフレディは無理をしないでという思いを込めて呼びかけていた。
しかしそれが無駄であることも分かっていた。だからフレディは駆け寄っていた。
そしてサイラスの叫び声は狙い通りに機能していた。
あいつはそこそこできる、と影達から認識されていた。
そしてあいつを無残に散らせば全体の士気を下げることが出来る、とも。
ゆえに、その時サイラスの真上にいた、屋根の上にいた影が心の声を上げた。
ならば、我が一番槍を、と。
その声を響かせると同時に影は真下にいるサイラス目掛けて屋根から飛び降りた。
しかしサイラスはそれを対処する動きを見せなかった。
その奇襲をサイラスは事前に感知出来ていた。
それだけでは無い。対処する必要が無いこともサイラスには分かっていた。
なぜなら、
「シャラァッ!」「!」
デュランが守ってくれるからだ。
デュランはサイラスに追いつくために走ってきた勢いを利用して跳躍し、落下中の影を迎え討った。
双方の光る爪がぶつかり合い、光魔法特有の炸裂音が響く。
落下する影と飛び上がるデュランの影、二つの影が交錯する。
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