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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第四話 魔王戦(7)

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 されど、その顔からは笑みが消えていた。
 間に合うか、そんな声が魔王の心から響いていた。
 直後、

「魔王ーッ!」

 やらせるか、お前は俺がやる、その二つの思いが含まれたデュランの叫びが魔王に叩きつけられた。
 叫びと共にデュランが足の中で星を爆発させる。
 同時に、魔王の中で揺らいでいた天秤は「間に合わない」のほうに大きく傾いた。
 ゆえに、魔王は苛立ちと共に赤く光る左手をデュランのほうに突き出した。
 放たれた赤い大蛇がデュランに向かって大きく口を開ける。
 これをデュランは右手に持っていた大盾で受けた。
 このために持ってきたもの。デュランはこの迎撃を予想していた。
 だが、熱波が容赦なくデュランの身を焦がす。
 されど、デュランの中にある覚悟はその痛みで揺るがぬほどに強固であった。
 炎を逆に押し返すように一気に間合いを詰め、

「シャラァッ!」

 大盾で魔王に殴りかかる。

「!」

 驚きの表情で体当たりのようなその一撃を受け止める魔王。
 咄嗟に光る刃で防御したゆえに魔王の体が後ろに押される。
 瞬間、魔王の表情は驚きから怒りに変わった。
 この我を驚かせた、たたそれだけのことが魔王には許せなかった。
 ゆえに魔王は、

「生意気なっ!」

 叫ぶと同時に、輝く左手を突き出した。
 そして繰り出されたのはただの防御魔法であったが、

「!」

 それはデュランの視界を白く塗りつぶすほどのものであった。
 その白い壁がデュランの大盾に叩きつけられる。

「ぐっ!」

 あまりの衝撃にデュランの巨体が崩れる。
 その揺れる視界の中でデュランは感じ取った。
 光の壁の向こうにいる魔王が構えを変えたのを。
 刃を水平に構え、その先端の照準を白い壁の中心点に定めたのを。
 死ぬ、その言葉がデュランの脳裏に黒い染みと共に滲む。
 直後、

「「!?」」

 デュランと魔王、二人は同時に目を見開いた。
 魔王の意識がデュランから外れたからだ。
 魔王の意識の線はデュランの斜め後ろに向かって伸びた。
 そこにいたのはサイラス。
 そして二人の意識が交錯した瞬間、

「っ!」

 銃声と共に、魔王の顔は痛みに歪んだ。
 防御魔法が割れ、穴が開いたわき腹から細い赤蛇が顔を出す。
 いや、かすり傷であったが傷はもう一つあった。
 銃声は二つだったのだ。重なっていたのだ。
 もう一人の射手はサイラスのさらに斜め後ろにいた。
 それはやはりフレディ。
 そして直後にサイラスが叫んだ。

「フレディ、お前はいつでも撃てるように構えておけ! やつに防御魔法を張らせるな!」

 あの規模の防御魔法から光る嵐を放たれたら、それだけで全滅しかねない。フレディはその意を瞬時で察したが、同時に心の中で尋ねた。
 大将はどうするのか、と。
 サイラスはそれを直後に行動で示した。

「雄ォッ!」

 気勢と共に踏み込み三段突き。

「雄雄ォッ!」

 いや、六段、そして九段に。
 百烈を目指しているかのような突きの嵐。
 そこへ、

「シャアァッ!」「破アァッ!」

 さらにデュランとシャロンの攻勢が加わる。

「……っ!」

 その猛攻にさすがの魔王も表情が歪む。
 左手にある鞘をもう一本の武器として扱ってようやく捌けている、といったところ。
 だが、魔王の手にある刃も鞘も大盾と比べると軽い。
 ゆえに、

「シャアッ!」

 この状況では筋力と重量で大きく勝るデュランに有利がつく。
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