上 下
22 / 545
第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第四話 魔王戦(4)

しおりを挟む
 ゆえに、魔王は既に構えていた。その両手にある杖を眩く輝かせていた。
 杖の先端には既に光弾が完成している。
 異常な大きさの光弾。
 普通ならば既に杖の先端から落ちて離れていなければならない大きさ。
 そうならない秘密は魔王の両手の平から伸びている電撃魔法の糸にあった。
 右手から伸びた糸が杖に巻きつき、左手から伸びた糸が光弾に巻き付いている。
 巻き線から生じる力で杖と弾をお互いに引き合わせているのだ。
 あまりの大きさゆえに魔王からはシャロンが見えない。
 だが、手に取るようにその動きは感じ取れていた。
 そして魔王は狙いを定め、その力を解放した。
 直後に生じたのは爆発音。
 杖の先端から生じた爆炎と共に光弾が割れる。
 すると、中から小さな光弾の群れが飛び出した。包まれていたのだ。
 そしてそれは散弾となってシャロンに襲い掛かった。

「!」

 やはり速い、そしてなんて数と密度、その事実にシャロンが目を見開きながら鋭く左に床を蹴る。
 避けきれない、高速演算が示したその答えに対しシャロンは防御魔法を展開。
 だが、その光の盾は数発の弾を受けた瞬間に砕けた。
 しかしシャロンはそこまで計算済みであった。
 両足でふんばって反動を殺しつつ、残りの直撃弾を針で捌く。
 されど、魔王にとってもこれは予想済み。
 さらに、ふんばって姿勢を保つシャロンのその動作硬直は、同じ高速演算を行っている魔王にとっては完全静止しているのと同じであった。
 魔王はその止まっている的に向かって杖を再び輝かせた。
 そしてその先端から生まれた色は白では無く赤。
 強烈な炎の奔流。すなわち炎魔法。
 赤い大蛇のような太く激しい炎がシャロンを飲み込まんとその口を開く。
 これに対し、シャロンは再び防御魔法を展開。
 だが、

「っっっ!」

 直後、シャロンの顔は苦痛に歪んだ。
 盾は炎をとめてくれるが、盾の外側からなだれこんでくる熱波は防ぎようが無いからだ。
 全身を包み込むような巨大な防御魔法でも張らない限り、気休めにしかならない。
 ゆえにシャロンは再び左に床を蹴り直した。
 だが振り切れない。食らいついた赤い大蛇は離れない。
 しかしそれでもシャロンはさらに同じ方向へ足を出した。
 目指すは、壁際に立ち並んでいる巨大な柱の列。
 あれだけ幅がある障害物の後ろに隠れればなんとかなる、シャロンはそう考えていた。
 しかしシャロンのそんな考えを魔王は心を読むまでも無く見抜いていた。
 ゆえに魔王は直後に攻撃を切り替えた。
 杖の輝きは赤から再び白へ。
 そして放たれる光弾。
 最初の一撃ほど大きくない。
 溜めの無い攻撃。ゆえに連射が利く。
 そしてやはり、それも常識からかけ離れたものだった。
 絶え間の無い凄まじい連射。
 狙いはすべてシャロンの下半身。足を止めるための射撃。
 さらに背後から敵魔法使いの光弾まで飛んでくる。
 それらを足捌きと小さな跳躍で避け続けるシャロン。
 着弾によって砕けた床板が走るシャロンの周りを跳ね回る。
 だが、

(この程度!)

 これくらいの弾幕、どうということは無い! シャロンは心の中で自分を鼓舞しながら柱までの距離を測った。
 あと三度、床を大きく蹴れば手が届く距離。
 であったが、瞬間、

「!?」

 魔王の攻撃意識が変わったのをシャロンは感じ取った。
 そして杖の輝きは再び変わった。
 白と赤が混ざったような色。
 ゆえに直後に放たれたのは薄赤い球。
 赤い何かが白いカラで包まれたもの。
 その発射と同時にシャロンは両足の中で星を爆発させ、正面の床に頭から突っ込むように跳躍した。

「っ!」

 鋭い痛みがシャロンの両足から走る。
 その痛みと引き換えに得た加速でシャロンの姿が霞む。
 陽炎を纏ったシャロンの影が、偏差射撃で放たれた薄赤い球を通り越す。
 直後、

「――っ!」

 それはシャロンの背後で文字通り『弾けた』。
 俗に『爆発魔法』と呼ばれている代物。
 内部で膨張した炎魔法が白いカラを突き破り、爆炎となって広がる。
 さらに、砕けた光のカラは散弾となって全方位に散り飛び、

「ぐっ!」

 シャロンの背に炸裂した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

処理中です...