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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第四話 魔王戦(3)

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 一斉に放出された魔力が傘の裂け目を一気に押し広げ、前に飛び出す。
 傘の中で往復を繰り返していたものも、それに引っ張られて中心から前へ。
 回転しながら収束する。
 ぶつかり合い、自由粒子と核が結びついていく。
 回転の力にひきずられているため、鎖のように伸び繋がり、ひもの形を成す。
 長くなり、収束する力よりも弾かれる力のほうが大きくなった瞬間、渦の外に飛び出す。
 まるで花びらがぱっと散るかのように。白く埋め尽くすかのように。
 これが雪原での戦いで放った技の原理。
 放たれた光の濁流がドアを食い破り、引き裂き、撒き散らす。
 その瓦礫を身に纏おうとするかのように、シャロンは鋭く踏み込んだ。
 濁流が霧散し、広々とした室内が目に映る。
 感じ取った通り、正面には敵が壁を形成して魔王を守っていた。
 そしてその敵兵達は既に手の平を前に突き出し、光弾を放っていた。
 既に高速演算を開始しているシャロンにはその全てが緩慢に見える。
 光弾の軌道を計算するに、それはシャロンを直接狙ったものでは無かった。
 ドアの破壊音の合わせて放たれた、入り口への集中射撃。
 そこから味方の大盾兵達がなだれこみ始めている。
 味方への被害は出来るだけ抑えたい、シャロンはそう思ったゆえに、

「鋭ぃっや!」

 右手の針で可能な限り光弾を叩き払った。
 腕の中で星を爆発させ、飛来する光弾を払い、時に穿つ(うがつ)。
 その炸裂音の中でシャロンは感じ取った。
 敵の攻撃意識の線が自分に集中し始めたのを。
 シャロンの突出に気付いた者達が手の平の照準を合わせ直し、光弾を発射する。
 散発的だが、しかし油断ならない数の光弾がシャロンに向かって放たれる。
 されど、それらの軌道計算はすぐに終わった。
 予測できていたからだ。光弾のほとんどは結ばれていた線をなぞるように飛んでいた。
 一部の光弾だけが線とは違う軌道を取っていた。
 単純に下手なやつと、シャロンの動きを目で追えている者が放った光弾だ。
 後者の光弾はシャロンが今いる位置では無く、移動先を狙った偏差射撃になっていた。
 だが、それらを含めた修正と再計算はすぐに終わった。
 後は作業だった。
 出来るだけ小さな動きで弾を避けていく。
 体を少し傾け、背を浅くそらし、首を軽く捻る。
 急な動作が求められる場合のみ針を使う。
 その動きも最小。叩き払うのでは無く、針の上を滑らせて受け流す。
 その一連の動きは、傍目には一部の光弾がすり抜けたように見えるほどであった。
 直後に味方の銃声が響き始める。
 全てがゆっくりになっている今のシャロンには、その音はとても間延びしたものに聞こえた。
 銃声の音波が背後から耳を撫でて通り過ぎる。
 直後、

「ぐぁっ!」

 シャロンの前方にいる大盾兵達から赤い華が咲き乱れた。
 その花園の中に飛び込むようにシャロンは床を蹴り、

「疾ッ!」

 電撃魔法の網を投げ込む。
 これに、魔法使いでもある敵の大盾兵達は盾の上に防御魔法を重ねるように展開。
 しかしその防御をシャロンは読んでいた。
 網を解除して防御魔法を展開し、光る傘をぶつけ合う。
 そしてシャロンはその中心に狙いを定め、

「破ッ!」

 飛び散れ、という心の叫びと共に針を傘に突き刺した。

「「「ぐあああぁっ!」」」

 目の前にあるすべてのものが光の濁流の中で形を失う。
 だが、空腹がおさまらぬ光の蛇の群れは、さらに奥にいる獲物に牙を向けた。
 シャロンは既にそれを見つめていた。
 シャロンの攻撃意識の線は最初からずっとそれに結び付けられていた。



 それは奥にある玉座。



 その上に座る魔王。
 シャロンと魔王の視線が交錯する。
 しかし交わったのはそれだけでは無かった。
 魔王が伸ばす攻撃意識の線もまた、それ以上に強く結びついていた。
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