15 / 545
第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第三話 魔王の城へ(2)
しおりを挟む
◆◆◆
サイラス達が追いついた時には既に次の戦いが始まっていた。
舞台は雪原から市街戦に。
追いかけていた仲間達の足は遅くなっていた。
大通りには周辺の家屋から運び出された家具が山積みにされ、ちょっとした壁が構築されていた。
その裏からは次の壁が構築されている音が聞こえてくる。
何も考えずに踏み越えるのは愚手。反対側には魔法使い達が列をなして待ち構えている。下手に体を晒せば即座に蜂の巣にされる。
さらに左右に建ち並んでいる家屋の屋根には弓兵が配置されており、既に射ち始めている。
部隊を分けて狭い路地裏を進ませるか、シャロンは一瞬そう思ったが、もっと安全な手を取る事にした。
「大砲、点火!」
爆音と共に家具の壁が砕け散り、崩れる。
「よし、行け! 前進射撃!」
「「「う雄雄おぉっ!」」」
隊長の命令に、兵士達が気勢を持って応える。
大盾兵が迎撃の光弾を受け止めながら残骸を踏み越える。
そして後に続く銃兵達が一斉射撃。
「ぎゃぁっ!」「がぁっ!」
次の壁の後ろに逃げ込むのが間に合わなかった敵兵達が赤く散る。
直後に反撃の光弾が放たれ、少し遅れて矢の雨が大盾兵達と銃兵達に降り注ぐ。
防御魔法を展開出来ないのが当たり前のシャロンの軍。
ゆえに、
「うっ!」「ぐっ!」
上からの攻撃で被害が発生する。
あれは無視出来ない、そう思ったシャロンは即座に声を上げた。
「砲兵、狙え!」
何を、と聞き返すまでも無かった。砲兵達もその脅威の重要性に気付いていた。
ゆえに砲兵は弓兵がいる家屋に照準を合わせ、
「点火!」
その砲身から轟音を響かせた。
家屋に穴が開き、柱が折れ、崩れ落ちる。
「「「うわああぁっ!」」」
崩落の音の中に弓兵達の悲鳴が混じる。
「……」
しかしそれに対してシャロンは小さなため息を吐いた。
悲鳴は上がったが、それは落下に対する恐怖から出たもので、大きな被害を与えられたようには感じられなかったからだ。
さらに先ほどから、周囲の路地裏でいくつもの小さな集団が動いている気配を感じる。
余計な被害は出したくない、少し調べましょうか、そう思ったシャロンは上に向けた手の平を前に出した。
その手にはとても小さなものが乗っていた。
それを知覚できる者はこの場にはほとんどいなかった。
それは彼女の脳から産み出されたもの。
魂の一部を削って創り出されたもの。
それは『虫』と呼ばれていた。
虫は次々とあふれるようにシャロンの手の平から生まれた。
それがうごめく群れと呼べるほどに増えるのを待ってから、シャロンは「ふう」と息を吹きかけた。
粉雪が舞うように虫が飛び散っていく。
だが、風任せでは無かった。
羽の生えた小さな虫と同じように宙を舞い、路地裏に滑り込んでいく。
「……」
そしてシャロンは『虫のしらせ』を待った。
第一報はすぐにきた。
やはり先の弓兵達に大した被害は無かった。
一人が着地に失敗して足をくじいただけだ。
無事だった他の者達は別の家屋の屋根に移動し始めている。
その移動先も既に見当がついていた。
第一報を発した虫が尾行しているからだ。
定期的に信号を発し、位置を報せ続けている。
その信号を受け取った別の虫がさらに信号を発し……その繰り返しでシャロンのところまで情報が伝達されている。
そして直後に第二報が伝達され、そこからは洪水のように次々と間を置かずに情報がなだれ込んできた。
シャロンの脳内に地図が作成され、それに敵の印がつけられていく。
数と位置、その動きまで手に取るようにわかる。
その印の数が増えなくなったのを確認してから、シャロンは声を上げた。
「サイラス!」
ちょうど真後ろに追いついたばかりのサイラスであったが、既に委細承知していた。
しかし全体にはっきりと伝えるためにシャロンは叫んだ。
「ここの指揮は任せるわ!」
そしてシャロンは「わかった」というサイラスの声を背中に受けながら走り出し、狭い路地に飛び込んだ。
サイラス達が追いついた時には既に次の戦いが始まっていた。
舞台は雪原から市街戦に。
追いかけていた仲間達の足は遅くなっていた。
大通りには周辺の家屋から運び出された家具が山積みにされ、ちょっとした壁が構築されていた。
その裏からは次の壁が構築されている音が聞こえてくる。
何も考えずに踏み越えるのは愚手。反対側には魔法使い達が列をなして待ち構えている。下手に体を晒せば即座に蜂の巣にされる。
さらに左右に建ち並んでいる家屋の屋根には弓兵が配置されており、既に射ち始めている。
部隊を分けて狭い路地裏を進ませるか、シャロンは一瞬そう思ったが、もっと安全な手を取る事にした。
「大砲、点火!」
爆音と共に家具の壁が砕け散り、崩れる。
「よし、行け! 前進射撃!」
「「「う雄雄おぉっ!」」」
隊長の命令に、兵士達が気勢を持って応える。
大盾兵が迎撃の光弾を受け止めながら残骸を踏み越える。
そして後に続く銃兵達が一斉射撃。
「ぎゃぁっ!」「がぁっ!」
次の壁の後ろに逃げ込むのが間に合わなかった敵兵達が赤く散る。
直後に反撃の光弾が放たれ、少し遅れて矢の雨が大盾兵達と銃兵達に降り注ぐ。
防御魔法を展開出来ないのが当たり前のシャロンの軍。
ゆえに、
「うっ!」「ぐっ!」
上からの攻撃で被害が発生する。
あれは無視出来ない、そう思ったシャロンは即座に声を上げた。
「砲兵、狙え!」
何を、と聞き返すまでも無かった。砲兵達もその脅威の重要性に気付いていた。
ゆえに砲兵は弓兵がいる家屋に照準を合わせ、
「点火!」
その砲身から轟音を響かせた。
家屋に穴が開き、柱が折れ、崩れ落ちる。
「「「うわああぁっ!」」」
崩落の音の中に弓兵達の悲鳴が混じる。
「……」
しかしそれに対してシャロンは小さなため息を吐いた。
悲鳴は上がったが、それは落下に対する恐怖から出たもので、大きな被害を与えられたようには感じられなかったからだ。
さらに先ほどから、周囲の路地裏でいくつもの小さな集団が動いている気配を感じる。
余計な被害は出したくない、少し調べましょうか、そう思ったシャロンは上に向けた手の平を前に出した。
その手にはとても小さなものが乗っていた。
それを知覚できる者はこの場にはほとんどいなかった。
それは彼女の脳から産み出されたもの。
魂の一部を削って創り出されたもの。
それは『虫』と呼ばれていた。
虫は次々とあふれるようにシャロンの手の平から生まれた。
それがうごめく群れと呼べるほどに増えるのを待ってから、シャロンは「ふう」と息を吹きかけた。
粉雪が舞うように虫が飛び散っていく。
だが、風任せでは無かった。
羽の生えた小さな虫と同じように宙を舞い、路地裏に滑り込んでいく。
「……」
そしてシャロンは『虫のしらせ』を待った。
第一報はすぐにきた。
やはり先の弓兵達に大した被害は無かった。
一人が着地に失敗して足をくじいただけだ。
無事だった他の者達は別の家屋の屋根に移動し始めている。
その移動先も既に見当がついていた。
第一報を発した虫が尾行しているからだ。
定期的に信号を発し、位置を報せ続けている。
その信号を受け取った別の虫がさらに信号を発し……その繰り返しでシャロンのところまで情報が伝達されている。
そして直後に第二報が伝達され、そこからは洪水のように次々と間を置かずに情報がなだれ込んできた。
シャロンの脳内に地図が作成され、それに敵の印がつけられていく。
数と位置、その動きまで手に取るようにわかる。
その印の数が増えなくなったのを確認してから、シャロンは声を上げた。
「サイラス!」
ちょうど真後ろに追いついたばかりのサイラスであったが、既に委細承知していた。
しかし全体にはっきりと伝えるためにシャロンは叫んだ。
「ここの指揮は任せるわ!」
そしてシャロンは「わかった」というサイラスの声を背中に受けながら走り出し、狭い路地に飛び込んだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる