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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第三話 魔王の城へ(2)
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◆◆◆
サイラス達が追いついた時には既に次の戦いが始まっていた。
舞台は雪原から市街戦に。
追いかけていた仲間達の足は遅くなっていた。
大通りには周辺の家屋から運び出された家具が山積みにされ、ちょっとした壁が構築されていた。
その裏からは次の壁が構築されている音が聞こえてくる。
何も考えずに踏み越えるのは愚手。反対側には魔法使い達が列をなして待ち構えている。下手に体を晒せば即座に蜂の巣にされる。
さらに左右に建ち並んでいる家屋の屋根には弓兵が配置されており、既に射ち始めている。
部隊を分けて狭い路地裏を進ませるか、シャロンは一瞬そう思ったが、もっと安全な手を取る事にした。
「大砲、点火!」
爆音と共に家具の壁が砕け散り、崩れる。
「よし、行け! 前進射撃!」
「「「う雄雄おぉっ!」」」
隊長の命令に、兵士達が気勢を持って応える。
大盾兵が迎撃の光弾を受け止めながら残骸を踏み越える。
そして後に続く銃兵達が一斉射撃。
「ぎゃぁっ!」「がぁっ!」
次の壁の後ろに逃げ込むのが間に合わなかった敵兵達が赤く散る。
直後に反撃の光弾が放たれ、少し遅れて矢の雨が大盾兵達と銃兵達に降り注ぐ。
防御魔法を展開出来ないのが当たり前のシャロンの軍。
ゆえに、
「うっ!」「ぐっ!」
上からの攻撃で被害が発生する。
あれは無視出来ない、そう思ったシャロンは即座に声を上げた。
「砲兵、狙え!」
何を、と聞き返すまでも無かった。砲兵達もその脅威の重要性に気付いていた。
ゆえに砲兵は弓兵がいる家屋に照準を合わせ、
「点火!」
その砲身から轟音を響かせた。
家屋に穴が開き、柱が折れ、崩れ落ちる。
「「「うわああぁっ!」」」
崩落の音の中に弓兵達の悲鳴が混じる。
「……」
しかしそれに対してシャロンは小さなため息を吐いた。
悲鳴は上がったが、それは落下に対する恐怖から出たもので、大きな被害を与えられたようには感じられなかったからだ。
さらに先ほどから、周囲の路地裏でいくつもの小さな集団が動いている気配を感じる。
余計な被害は出したくない、少し調べましょうか、そう思ったシャロンは上に向けた手の平を前に出した。
その手にはとても小さなものが乗っていた。
それを知覚できる者はこの場にはほとんどいなかった。
それは彼女の脳から産み出されたもの。
魂の一部を削って創り出されたもの。
それは『虫』と呼ばれていた。
虫は次々とあふれるようにシャロンの手の平から生まれた。
それがうごめく群れと呼べるほどに増えるのを待ってから、シャロンは「ふう」と息を吹きかけた。
粉雪が舞うように虫が飛び散っていく。
だが、風任せでは無かった。
羽の生えた小さな虫と同じように宙を舞い、路地裏に滑り込んでいく。
「……」
そしてシャロンは『虫のしらせ』を待った。
第一報はすぐにきた。
やはり先の弓兵達に大した被害は無かった。
一人が着地に失敗して足をくじいただけだ。
無事だった他の者達は別の家屋の屋根に移動し始めている。
その移動先も既に見当がついていた。
第一報を発した虫が尾行しているからだ。
定期的に信号を発し、位置を報せ続けている。
その信号を受け取った別の虫がさらに信号を発し……その繰り返しでシャロンのところまで情報が伝達されている。
そして直後に第二報が伝達され、そこからは洪水のように次々と間を置かずに情報がなだれ込んできた。
シャロンの脳内に地図が作成され、それに敵の印がつけられていく。
数と位置、その動きまで手に取るようにわかる。
その印の数が増えなくなったのを確認してから、シャロンは声を上げた。
「サイラス!」
ちょうど真後ろに追いついたばかりのサイラスであったが、既に委細承知していた。
しかし全体にはっきりと伝えるためにシャロンは叫んだ。
「ここの指揮は任せるわ!」
そしてシャロンは「わかった」というサイラスの声を背中に受けながら走り出し、狭い路地に飛び込んだ。
サイラス達が追いついた時には既に次の戦いが始まっていた。
舞台は雪原から市街戦に。
追いかけていた仲間達の足は遅くなっていた。
大通りには周辺の家屋から運び出された家具が山積みにされ、ちょっとした壁が構築されていた。
その裏からは次の壁が構築されている音が聞こえてくる。
何も考えずに踏み越えるのは愚手。反対側には魔法使い達が列をなして待ち構えている。下手に体を晒せば即座に蜂の巣にされる。
さらに左右に建ち並んでいる家屋の屋根には弓兵が配置されており、既に射ち始めている。
部隊を分けて狭い路地裏を進ませるか、シャロンは一瞬そう思ったが、もっと安全な手を取る事にした。
「大砲、点火!」
爆音と共に家具の壁が砕け散り、崩れる。
「よし、行け! 前進射撃!」
「「「う雄雄おぉっ!」」」
隊長の命令に、兵士達が気勢を持って応える。
大盾兵が迎撃の光弾を受け止めながら残骸を踏み越える。
そして後に続く銃兵達が一斉射撃。
「ぎゃぁっ!」「がぁっ!」
次の壁の後ろに逃げ込むのが間に合わなかった敵兵達が赤く散る。
直後に反撃の光弾が放たれ、少し遅れて矢の雨が大盾兵達と銃兵達に降り注ぐ。
防御魔法を展開出来ないのが当たり前のシャロンの軍。
ゆえに、
「うっ!」「ぐっ!」
上からの攻撃で被害が発生する。
あれは無視出来ない、そう思ったシャロンは即座に声を上げた。
「砲兵、狙え!」
何を、と聞き返すまでも無かった。砲兵達もその脅威の重要性に気付いていた。
ゆえに砲兵は弓兵がいる家屋に照準を合わせ、
「点火!」
その砲身から轟音を響かせた。
家屋に穴が開き、柱が折れ、崩れ落ちる。
「「「うわああぁっ!」」」
崩落の音の中に弓兵達の悲鳴が混じる。
「……」
しかしそれに対してシャロンは小さなため息を吐いた。
悲鳴は上がったが、それは落下に対する恐怖から出たもので、大きな被害を与えられたようには感じられなかったからだ。
さらに先ほどから、周囲の路地裏でいくつもの小さな集団が動いている気配を感じる。
余計な被害は出したくない、少し調べましょうか、そう思ったシャロンは上に向けた手の平を前に出した。
その手にはとても小さなものが乗っていた。
それを知覚できる者はこの場にはほとんどいなかった。
それは彼女の脳から産み出されたもの。
魂の一部を削って創り出されたもの。
それは『虫』と呼ばれていた。
虫は次々とあふれるようにシャロンの手の平から生まれた。
それがうごめく群れと呼べるほどに増えるのを待ってから、シャロンは「ふう」と息を吹きかけた。
粉雪が舞うように虫が飛び散っていく。
だが、風任せでは無かった。
羽の生えた小さな虫と同じように宙を舞い、路地裏に滑り込んでいく。
「……」
そしてシャロンは『虫のしらせ』を待った。
第一報はすぐにきた。
やはり先の弓兵達に大した被害は無かった。
一人が着地に失敗して足をくじいただけだ。
無事だった他の者達は別の家屋の屋根に移動し始めている。
その移動先も既に見当がついていた。
第一報を発した虫が尾行しているからだ。
定期的に信号を発し、位置を報せ続けている。
その信号を受け取った別の虫がさらに信号を発し……その繰り返しでシャロンのところまで情報が伝達されている。
そして直後に第二報が伝達され、そこからは洪水のように次々と間を置かずに情報がなだれ込んできた。
シャロンの脳内に地図が作成され、それに敵の印がつけられていく。
数と位置、その動きまで手に取るようにわかる。
その印の数が増えなくなったのを確認してから、シャロンは声を上げた。
「サイラス!」
ちょうど真後ろに追いついたばかりのサイラスであったが、既に委細承知していた。
しかし全体にはっきりと伝えるためにシャロンは叫んだ。
「ここの指揮は任せるわ!」
そしてシャロンは「わかった」というサイラスの声を背中に受けながら走り出し、狭い路地に飛び込んだ。
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