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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第二話 魔王軍主力戦(9)
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「っ!」
間一髪でそれを避ける影。
だが、
「シィィッヤァ!」
直後の大男の攻撃に対しては反応が遅れた。
投げると同時に雪を蹴って踏み込んでいたのだ。
「!」
反射的に両手を前に構えて防御の姿勢を取る影。
対し、繰り出されたのは爪では無く、手の平を叩き付けるような掌底打ち。
これを影は両手で受け止めた。
影の両手の平から広がり始めた光の傘が大男の手の平を押しとめる。
が、
「!?」
大男の腕の中で星が爆発したのを感じ取ったのと同時に、光の傘は逆に押し返された。
その勢いに影の背が勢いよくのけぞり、視界に空が映り込む。
「ぐっ!」
背中が埋まる感触と共に視界が揺れる。
馬鹿みたいな力で押し倒された、それを言葉で認識した直後、
「ヤアァァリャアァァッ!」
大男の気勢と共に、視界の揺れは激しさを増した。
押し倒されたまま、雪の上を押し運ばれている。
だが下はただの雪。硬い地面とは違う。痛みは無い。
ゆえに、片手の中に反撃の光弾を練る余裕があった。
が、
「ぐぇっ?!」
突如、雪の中に埋めようとするかのように、一層強く押し込まれた感触と同時に影の視界は閃光に包まれた。
壁に押しつぶされているような感触。
防御魔法? その答えが脳裏に浮かび上がると同時に、その苦しみは消え、
「っ!?」
そして代わりに影の身を包んだのは浮遊感。
防御魔法で押さえ込んでいる間に影の頭側に移動し、襟首を掴んで上に投げ飛ばしたのだ。
そして影が空中で姿勢を制御しながら視線を下に向けると、
(何!?)
大男は斜め上に構えた銃で影を狙っていた。
影を押さえつけたまま押し運んだのはこのため。
銃が落ちているところまで移動して拾うためだ。
そしてわざわざ上に投げ飛ばしたのにも理由があった。
火挟みの火が消えてしまっているのだ。
だから大男は火蓋を開きながらサイラスと目を合わせていた。
何を期待しているのか、サイラスはそれが感じ取れていたゆえに既にそれを実行していた。
伸ばした糸を火皿に結びつける。
それを見た影は咄嗟に防御魔法を展開。
が、
「っ!」
直後に響いた銃声と共に光の傘は割れ、影の心臓部に穴が開いた。
赤い尾を残しながら雪の上に落ち沈む。
「ぅ雄雄ぉ!」
その派手さに喜びの気勢を上げるフレディ。
「まだ終わってない」
大男が直後に警告を発する。
まだ一つ影が残っている。
さらに二つ、いや、三つの影の攻撃意識が新たに向けられた。
それを最も早く感じ取ったサイラスが声を上げた。
「来るぞ、構えろ!」
◆◆◆
「ぐぁっ!」
胸を針に突かれた影が苦悶の声を上げる。
心臓を抜かれた、もう助からない、それを感じ取った影は、
(ならば!)
ならばせめて一撃、そう叫びながら針がより深く刺さることを躊躇せずに踏み込もうとした。
が、
「がっ!?」
それよりも速くシャロンは針を引き、即座に今度は影の喉に突きたてた。
閉塞感と共に影の口内に鉄の味が広がる。
(なんの、まだ……!)
されどなお踏み込もうとする影。
しかし、
「っっっ!?」
サイラスのそれと互角の連続突きによって、影の踏み込みは完全に止まってしまった。
「――っ」
そして止まったのは足だけでは無かった。影の思考もであった。
命を賭けても何も起こせない、そんなあきらめが表情に浮かび始めていた。
シャロンはそういう顔が好きでは無かったゆえに、
「うっ!」
直後に額から頭蓋を貫いて、その絶望感を終わらせてやった。
そしてシャロンは赤く染まった針を引き抜きながら、周囲の気配を探った。
(こっちはこいつで最後のようね)
近くに敵はいない。
だからシャロンはサイラスのほうに視線を向けた。
サイラス達はまだ奮戦していた。
そしてその戦いは終わりかけているように見えた。
(私の助けが必要かと思ったけど……)
途中、サイラスが危機に陥った時はそうしようとした。走り出した。
だがその窮地はあの大男の助力によって乗り切ることが出来た。
しかしそれを減点として扱っても、今のサイラスはそれなりに戦えている。評価出来る。
ゆえにシャロンは、
(……それなりにやるようになったじゃない)
本人に聞こえないように、賞賛を贈った。
そしてそれ以外の場所の戦いも同じであった。
仕掛けてきた影は全滅寸前だ。
だからシャロンは声を上げた。
「右翼と左翼は前へ!」
温存しておいた両翼を前に出し、正面にいる敵部隊にぶつける。
そしてその後は――シャロンはそれもあえて声に出した。
「残った雑魚を蹴散らして、城下街まで制圧前進よ!」
そして魔王の喉元に食らいつく、その燃えるような思いを覇気としながら、シャロンは魔王の城を睨み付けた。
第三話 魔王の城へ に続く
間一髪でそれを避ける影。
だが、
「シィィッヤァ!」
直後の大男の攻撃に対しては反応が遅れた。
投げると同時に雪を蹴って踏み込んでいたのだ。
「!」
反射的に両手を前に構えて防御の姿勢を取る影。
対し、繰り出されたのは爪では無く、手の平を叩き付けるような掌底打ち。
これを影は両手で受け止めた。
影の両手の平から広がり始めた光の傘が大男の手の平を押しとめる。
が、
「!?」
大男の腕の中で星が爆発したのを感じ取ったのと同時に、光の傘は逆に押し返された。
その勢いに影の背が勢いよくのけぞり、視界に空が映り込む。
「ぐっ!」
背中が埋まる感触と共に視界が揺れる。
馬鹿みたいな力で押し倒された、それを言葉で認識した直後、
「ヤアァァリャアァァッ!」
大男の気勢と共に、視界の揺れは激しさを増した。
押し倒されたまま、雪の上を押し運ばれている。
だが下はただの雪。硬い地面とは違う。痛みは無い。
ゆえに、片手の中に反撃の光弾を練る余裕があった。
が、
「ぐぇっ?!」
突如、雪の中に埋めようとするかのように、一層強く押し込まれた感触と同時に影の視界は閃光に包まれた。
壁に押しつぶされているような感触。
防御魔法? その答えが脳裏に浮かび上がると同時に、その苦しみは消え、
「っ!?」
そして代わりに影の身を包んだのは浮遊感。
防御魔法で押さえ込んでいる間に影の頭側に移動し、襟首を掴んで上に投げ飛ばしたのだ。
そして影が空中で姿勢を制御しながら視線を下に向けると、
(何!?)
大男は斜め上に構えた銃で影を狙っていた。
影を押さえつけたまま押し運んだのはこのため。
銃が落ちているところまで移動して拾うためだ。
そしてわざわざ上に投げ飛ばしたのにも理由があった。
火挟みの火が消えてしまっているのだ。
だから大男は火蓋を開きながらサイラスと目を合わせていた。
何を期待しているのか、サイラスはそれが感じ取れていたゆえに既にそれを実行していた。
伸ばした糸を火皿に結びつける。
それを見た影は咄嗟に防御魔法を展開。
が、
「っ!」
直後に響いた銃声と共に光の傘は割れ、影の心臓部に穴が開いた。
赤い尾を残しながら雪の上に落ち沈む。
「ぅ雄雄ぉ!」
その派手さに喜びの気勢を上げるフレディ。
「まだ終わってない」
大男が直後に警告を発する。
まだ一つ影が残っている。
さらに二つ、いや、三つの影の攻撃意識が新たに向けられた。
それを最も早く感じ取ったサイラスが声を上げた。
「来るぞ、構えろ!」
◆◆◆
「ぐぁっ!」
胸を針に突かれた影が苦悶の声を上げる。
心臓を抜かれた、もう助からない、それを感じ取った影は、
(ならば!)
ならばせめて一撃、そう叫びながら針がより深く刺さることを躊躇せずに踏み込もうとした。
が、
「がっ!?」
それよりも速くシャロンは針を引き、即座に今度は影の喉に突きたてた。
閉塞感と共に影の口内に鉄の味が広がる。
(なんの、まだ……!)
されどなお踏み込もうとする影。
しかし、
「っっっ!?」
サイラスのそれと互角の連続突きによって、影の踏み込みは完全に止まってしまった。
「――っ」
そして止まったのは足だけでは無かった。影の思考もであった。
命を賭けても何も起こせない、そんなあきらめが表情に浮かび始めていた。
シャロンはそういう顔が好きでは無かったゆえに、
「うっ!」
直後に額から頭蓋を貫いて、その絶望感を終わらせてやった。
そしてシャロンは赤く染まった針を引き抜きながら、周囲の気配を探った。
(こっちはこいつで最後のようね)
近くに敵はいない。
だからシャロンはサイラスのほうに視線を向けた。
サイラス達はまだ奮戦していた。
そしてその戦いは終わりかけているように見えた。
(私の助けが必要かと思ったけど……)
途中、サイラスが危機に陥った時はそうしようとした。走り出した。
だがその窮地はあの大男の助力によって乗り切ることが出来た。
しかしそれを減点として扱っても、今のサイラスはそれなりに戦えている。評価出来る。
ゆえにシャロンは、
(……それなりにやるようになったじゃない)
本人に聞こえないように、賞賛を贈った。
そしてそれ以外の場所の戦いも同じであった。
仕掛けてきた影は全滅寸前だ。
だからシャロンは声を上げた。
「右翼と左翼は前へ!」
温存しておいた両翼を前に出し、正面にいる敵部隊にぶつける。
そしてその後は――シャロンはそれもあえて声に出した。
「残った雑魚を蹴散らして、城下街まで制圧前進よ!」
そして魔王の喉元に食らいつく、その燃えるような思いを覇気としながら、シャロンは魔王の城を睨み付けた。
第三話 魔王の城へ に続く
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