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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第二話 魔王軍主力戦(5)
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しかしこれも影は感じ取れていた。
ゆえに、
「疾ッ!」
影は正面に防御魔法を展開したまま、後方に回し蹴りを放った。
輝く足裏が空を裂くように水平に一閃し、三本の突きを弾き飛ばす。
さらに、影は地に残しておいたもう一本の足で地を蹴って兵士の一人に向かって跳躍し、
「がっ!?」
その顔面を蹴り上げた。
衝撃に兵士の背中が大きくそれ、突き上げられるように胸が天に向く。
倒れかけるその兵士を見下ろす影にとって、それはちょうどいい踏み台に見えた。
だから影は使うことにした。
「げはっ!」
踏みつけられた兵士の背中が地面に叩きつけられる。
その反動を利用して、影はシャロンのほうに跳躍。
シャロンの真上をぎりぎりで飛び越える、そんな軌道。
逃げるためのものでは無い、反撃のための跳躍。
上から急所を打ち砕く、影はそんな思いと共に両手両足を輝かせた。
が、瞬間、
(甘いわ!)
シャロンの心の叫びが影の心を打った。
これも読めていた。ゆえにシャロンの迎撃体勢は既に整っていた。
防御魔法ごと串刺しにする、シャロンはそんなイメージを心に映しながら、
「破ッ!」
糸を纏わせた針を突き上げた。
「破っ!」
影が同じ気勢と共にその一撃を迎え打つ。
右爪で針を叩き払うと同時に、左手で防御魔法を展開。
しかしその傘が広がるよりも、網が伸びるほうがわずかに速かった。
「っ!」
影の体に紫電が走る。
痛みと共に筋肉が痙攣する。
が、影はその痛みに抗った。
右腕の内部で光魔法を、星を爆発させる。
代償に、感電よりも強い痛みが関節と筋肉から生じた。
が、影の右腕はその星の眩さの通りに鋭く動いた。
一閃された右爪が纏わり付いている網を切り裂く。
そして自由を得た影は落下姿勢に入ったが、
(まだだ!)(まだよ!)
瞬間、二人の心の叫びは重なった。
着地の隙を突かれる、その隙を突く、ゆえの意識の交錯。
再び迎撃姿勢を取り始める影と、追撃姿勢を取るシャロン。
が、
「!」
横から攻撃の意識を感じ取ったシャロンは、反射的に身をそらした。
そして直後に目の前をよぎっていったのは感じ取った通りの攻撃であった。
高速の光弾。
その光が視界の端に消えるのと同時に、まだだ、という言葉がシャロンの心に再び響いた。
攻撃はまだ終わっていない。
ゆえにシャロンは光弾が飛んできた方向に向き直った。
瞬間、
「疾ィッヤ!」
シャロンの瞳に突っ込んでくる影の全身が映ったと同時に、影は気勢を響かせながら輝く爪を繰り出した。
その一撃を針で受け流しつつ、網で反撃するシャロン。
それが広がりきるよりも速く、距離を取り直す影。
その隙にもう一人はシャロンを挟み込むように移動。
そこにさらにもう一つの影が加わる。
そして三つの影がシャロンを中心とした三角の形を取った瞬間、一人が叫んだ。
「こいつは手強い!」
これに別の影が応えた。
「ならば『狼牙の陣』で!」
その言葉が響いた瞬間、影達は動き始めた。
シャロンを中心とした円運動。
明らかに多方向からの同時攻撃を狙った動き。心を読むまでも無くわかる。
ゆえに、
「でぇやぁっ!」
その動きを崩そうと、兵士の一人が斬りかかった。
が、
「がっ!」
まるでその回転力に弾き返されたかのように、兵士の体は爪の一閃で鮮血と共に散った。
その直後、シャロンは声を上げた。
「この程度、問題無いわ! 自分の身を守ることに集中して!」
見え透いた挑発を含んだ一声。
しかし影達はあえてその挑発に乗った。
ならば受けてみよ、という心の声を響かせながら、三つの影は同時にシャロンに向かって踏み込み、
「破ッ!」「蛇ッ!」「疾ッ!」
それぞれ違う気勢を響かせ、重ねた。
同時にシャロンも動いていた。
自分から踏み込んで一点を突破する、それだけで同時攻撃が成立しなくなるからだ。
そしてシャロンがその相手として選んだのは、蛇の型を放とうとしている影。
こいつが一番弱そうで簡単そうだ、理由はそれだけ。
そしてそれは正解だった。
感じ取った通りにその蛇は軽く、針で叩き払いながら脇を通り抜けることは造作も無いことだった。
それがあまりに簡単すぎたゆえに、シャロンは一手付け加えることが出来た。
影の真横を抜けながら針を逆手持ちに切り替え、背後に回ると同時に針を真後ろに突き出して串刺す。
「ぐあっ!?」
わき腹を貫かれた影の口から苦悶の叫びが飛び出す。
その声に弾かれるように、他の二つの影が救助のために地を蹴り直す。
シャロンはそれを感じ取ると同時に針を引き抜き、二人から距離を取るように地を蹴って針を持ち直す。
双方の距離があっという間に詰まり、目の前にまで迫った影の一人が爪を構える。
そして、
「「疾っ!」」
同じ気勢で二人はぶつかり合った。
閃光と共に放たれた針と爪が、火花と共に弾き合う。
シャロンは即座に網で反撃するが、影はもう一方の爪で切り裂きながら後退。
瞬間、その攻防に横からもう一つの影が襲い掛かる。
再生を始めた網を迎撃として振り回すが、その影はこれをさらに切り裂いて突破し、
「破っ!」
気勢と共に爪を一閃。
再び針から火花が散る。
そこへ再び先の影が。
「いぃっや!」
立て続けにもう一つの影が。
「せぇやっ!」
そこにさらに三人目が復帰する。
わき腹に出来た蛇口から赤い水を垂れ流しながら一閃。
三つの影がシャロンの周りを目まぐるしく往復しながら、爪を振るう。
その輝く軌跡が嵐のように折り重なり、
「破ァァッ!」「蛇ァッ!」「疾ィィッ!」
三つの気勢と共にその攻めがさらに激しさを増す。
絶え間の無い、濁流のような攻め。
影達の中で星が数え切れないほどに次々と爆発し、その身を加速させる。
その様は、まるで煌く(きらめく)星空のよう。
シャロンを中心に天の川が回転している、満天の星々が踊っているかのよう、感知能力者にはそのように見えた。
爪が描く銀色の軌跡はまるでほうき星。
それを受け流しているシャロンの針から生じる火花はもはや花火のよう。
美しい地獄。であったが、
「……」
シャロンの心は一切揺れてはいなかった。
ゆえに、
「疾ッ!」
影は正面に防御魔法を展開したまま、後方に回し蹴りを放った。
輝く足裏が空を裂くように水平に一閃し、三本の突きを弾き飛ばす。
さらに、影は地に残しておいたもう一本の足で地を蹴って兵士の一人に向かって跳躍し、
「がっ!?」
その顔面を蹴り上げた。
衝撃に兵士の背中が大きくそれ、突き上げられるように胸が天に向く。
倒れかけるその兵士を見下ろす影にとって、それはちょうどいい踏み台に見えた。
だから影は使うことにした。
「げはっ!」
踏みつけられた兵士の背中が地面に叩きつけられる。
その反動を利用して、影はシャロンのほうに跳躍。
シャロンの真上をぎりぎりで飛び越える、そんな軌道。
逃げるためのものでは無い、反撃のための跳躍。
上から急所を打ち砕く、影はそんな思いと共に両手両足を輝かせた。
が、瞬間、
(甘いわ!)
シャロンの心の叫びが影の心を打った。
これも読めていた。ゆえにシャロンの迎撃体勢は既に整っていた。
防御魔法ごと串刺しにする、シャロンはそんなイメージを心に映しながら、
「破ッ!」
糸を纏わせた針を突き上げた。
「破っ!」
影が同じ気勢と共にその一撃を迎え打つ。
右爪で針を叩き払うと同時に、左手で防御魔法を展開。
しかしその傘が広がるよりも、網が伸びるほうがわずかに速かった。
「っ!」
影の体に紫電が走る。
痛みと共に筋肉が痙攣する。
が、影はその痛みに抗った。
右腕の内部で光魔法を、星を爆発させる。
代償に、感電よりも強い痛みが関節と筋肉から生じた。
が、影の右腕はその星の眩さの通りに鋭く動いた。
一閃された右爪が纏わり付いている網を切り裂く。
そして自由を得た影は落下姿勢に入ったが、
(まだだ!)(まだよ!)
瞬間、二人の心の叫びは重なった。
着地の隙を突かれる、その隙を突く、ゆえの意識の交錯。
再び迎撃姿勢を取り始める影と、追撃姿勢を取るシャロン。
が、
「!」
横から攻撃の意識を感じ取ったシャロンは、反射的に身をそらした。
そして直後に目の前をよぎっていったのは感じ取った通りの攻撃であった。
高速の光弾。
その光が視界の端に消えるのと同時に、まだだ、という言葉がシャロンの心に再び響いた。
攻撃はまだ終わっていない。
ゆえにシャロンは光弾が飛んできた方向に向き直った。
瞬間、
「疾ィッヤ!」
シャロンの瞳に突っ込んでくる影の全身が映ったと同時に、影は気勢を響かせながら輝く爪を繰り出した。
その一撃を針で受け流しつつ、網で反撃するシャロン。
それが広がりきるよりも速く、距離を取り直す影。
その隙にもう一人はシャロンを挟み込むように移動。
そこにさらにもう一つの影が加わる。
そして三つの影がシャロンを中心とした三角の形を取った瞬間、一人が叫んだ。
「こいつは手強い!」
これに別の影が応えた。
「ならば『狼牙の陣』で!」
その言葉が響いた瞬間、影達は動き始めた。
シャロンを中心とした円運動。
明らかに多方向からの同時攻撃を狙った動き。心を読むまでも無くわかる。
ゆえに、
「でぇやぁっ!」
その動きを崩そうと、兵士の一人が斬りかかった。
が、
「がっ!」
まるでその回転力に弾き返されたかのように、兵士の体は爪の一閃で鮮血と共に散った。
その直後、シャロンは声を上げた。
「この程度、問題無いわ! 自分の身を守ることに集中して!」
見え透いた挑発を含んだ一声。
しかし影達はあえてその挑発に乗った。
ならば受けてみよ、という心の声を響かせながら、三つの影は同時にシャロンに向かって踏み込み、
「破ッ!」「蛇ッ!」「疾ッ!」
それぞれ違う気勢を響かせ、重ねた。
同時にシャロンも動いていた。
自分から踏み込んで一点を突破する、それだけで同時攻撃が成立しなくなるからだ。
そしてシャロンがその相手として選んだのは、蛇の型を放とうとしている影。
こいつが一番弱そうで簡単そうだ、理由はそれだけ。
そしてそれは正解だった。
感じ取った通りにその蛇は軽く、針で叩き払いながら脇を通り抜けることは造作も無いことだった。
それがあまりに簡単すぎたゆえに、シャロンは一手付け加えることが出来た。
影の真横を抜けながら針を逆手持ちに切り替え、背後に回ると同時に針を真後ろに突き出して串刺す。
「ぐあっ!?」
わき腹を貫かれた影の口から苦悶の叫びが飛び出す。
その声に弾かれるように、他の二つの影が救助のために地を蹴り直す。
シャロンはそれを感じ取ると同時に針を引き抜き、二人から距離を取るように地を蹴って針を持ち直す。
双方の距離があっという間に詰まり、目の前にまで迫った影の一人が爪を構える。
そして、
「「疾っ!」」
同じ気勢で二人はぶつかり合った。
閃光と共に放たれた針と爪が、火花と共に弾き合う。
シャロンは即座に網で反撃するが、影はもう一方の爪で切り裂きながら後退。
瞬間、その攻防に横からもう一つの影が襲い掛かる。
再生を始めた網を迎撃として振り回すが、その影はこれをさらに切り裂いて突破し、
「破っ!」
気勢と共に爪を一閃。
再び針から火花が散る。
そこへ再び先の影が。
「いぃっや!」
立て続けにもう一つの影が。
「せぇやっ!」
そこにさらに三人目が復帰する。
わき腹に出来た蛇口から赤い水を垂れ流しながら一閃。
三つの影がシャロンの周りを目まぐるしく往復しながら、爪を振るう。
その輝く軌跡が嵐のように折り重なり、
「破ァァッ!」「蛇ァッ!」「疾ィィッ!」
三つの気勢と共にその攻めがさらに激しさを増す。
絶え間の無い、濁流のような攻め。
影達の中で星が数え切れないほどに次々と爆発し、その身を加速させる。
その様は、まるで煌く(きらめく)星空のよう。
シャロンを中心に天の川が回転している、満天の星々が踊っているかのよう、感知能力者にはそのように見えた。
爪が描く銀色の軌跡はまるでほうき星。
それを受け流しているシャロンの針から生じる火花はもはや花火のよう。
美しい地獄。であったが、
「……」
シャロンの心は一切揺れてはいなかった。
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