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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第二話 魔王軍主力戦(4)

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「「「――っ!」」」

 影達の悲鳴が銃声の中に掻き消え、蜂の巣になった体から血しぶきが派手に舞い散る。
 そして影達は全身を赤く染めながら、鉄条網の上に寝るように倒れた。

「!」

 瞬間、それを後ろから見ていたある影はひらめき、再び走り出した。
 さらにそのひらめきは伝染した。他の影達も感じ取り、走り出した。
 何をひらめいたのか、サイラスはそれが読み取れたゆえに、

「全員、抜剣しろ!」

 叫んだ。
 接近戦になるという警告を含んだ命令。
 その指示が全体に伝わった直後、サイラスの感知は的中した。
 次の影達は鉄条網に引っ掛からなかったのだ。
 飛び越えたわけでは無い。
 鉄条網の上に倒れた仲間の死体を足場にして踏み越えたのだ。
 そして影達は最前に並ぶ大盾兵達に対し、

「「「破ッ!」」」

 気勢と共に輝く手の平を、掌底打ちを叩き込んだ。
 体重が乗っている分、光弾よりもはるかに強烈なその一撃に、

「「「っ!」」」

 大盾兵の列は崩れた。
 そして生じた隙間から、影達は鋭く隊列の中に飛び込み、

「疾ッ!」

 大盾兵達に守られていた銃兵に対し、踏み込みの勢いを乗せた一撃を繰り出した。

「あがっ!?」

 輝く爪が銃兵の胸元に突き刺さり、喉下まで突き上げられる。
 噴出した血しぶきを身に纏いながら、影は次の標的へ。
 陽炎を纏いながら兵士達の斬撃をかわし、輝く爪を振るう。

「ぐえっ!」「ぎゃっ!」

 シャロンの部隊の各所から悲鳴が響き始める。
 瞬間、その声の中に影達の心の声が混じった。
 やはり、と。
 こいつらは接近戦は弱い、と。
 確かにそれは事実であったが、直後、

「がぁっ!?」

 悲鳴の中に、影の誰かのものが混じった。
 誰がやられた? と、悲鳴がした方向へ、ある影が視線を流す。
 瞬間、

「!?」

 その方向から突進してくるシャロンと目が合った。
 そしてシャロンはその勢いのまま、

「鋭ぃっや!」

 右手にある得物を突き出した。
 それは兵士と同じ剣では無かった。
「刺突剣」と呼ばれる代物。
 見た目はただの巨大な針。
 その形状を最大限に活かした突進突きを、影は同じ速度で後退しつつ、輝く左手で左に叩き払った。
 しかしシャロンの攻勢は止まらず。
 体当たりするような勢いで続けて繰り出されたのは輝く左手。
 掌底打ち、それはそのように思えた。
 ゆえに影は同じ形で、右掌底打ちで迎え打った。
 輝く双方の手の平がぶつかり合う。
 瞬間、

「!」

 影は目を見開いた。
 ぶつかり合った両手から生じた閃光と音が、光魔法のそれでは無かったからだ。
 電撃魔法特有の青白い閃光と炸裂音。
 ゆえに、影は判断を誤ったことに気付いた。
 魔力消費が大きくとも、ここは防御魔法を選択すべきだったのだ。
 しかしその後悔が生まれるよりも早く、

「ぐぅぅっ!?」

 影の体は紫電に包まれた。
 シャロンの左手から網のように伸びた糸が繭(まゆ)のように影の体を包みこみ、その身に電流を流し込む。
 糸の形状を取る電撃魔法ならではの攻め。
 そして、その紫電によって相手の動きを完全に封じたことを、悲鳴を漏らすことすら出来なくなったのを確認したシャロンは、

「――っ!」

 とどめという形でその苦しみを終わらせてやった。
 が、直後、

「蛇ッ!」

 その隙を背後から別の影が奇襲した。
 気勢の文字通り、蛇のような緩い弧を描く一撃。
 だがシャロンは感じ取れていた。この奇襲を予想出来ていた。
 ゆえに、シャロンは刺した得物を抜くと同時に振り返り、その勢いを乗せた回転の一撃を放った。
 しかし影もただ者では無かった。
 影もこの迎撃を読めていた。自分の奇襲が間に合わないことを計算出来ていた。
 ゆえに踏み込みは浅め。
 なぜなら、それは普通の迎撃では無いからだ。
 針に糸が纏わり付いている。
 ゆえに影は蛇の型を選んだのだ。
 光る糸を纏った針と、輝く牙を持つ蛇がぶつかり合う。
 蛇の牙が糸を切り裂き、切断部から青白い火花が散る。
 弧を描く蛇の型を選んだのはこのため。
 電撃魔法の糸を切断しながら引きちぎるため。さらに針とのぶつかり合いで不利にならないようにするためだ。
 そして、爪と針本体との衝突により生じた赤い火花が先の青色と混ざり合い、それは美しい花火となって二人を照らした。
 金属の衝突音と共に、二人の体が硬直する。
 このぶつかり合いは五分、影はそう思った。
 が、瞬間、

(いいえ、あなたが不利よ)

 と、シャロンの声が影の心に響いた。

「!?」

 直後、その理由が影の目に映った。
 切断し、引きちぎった糸が瞬く間に伸び、再生したのだ。
 切っても意味が無い?! そう判断した影は焦りと共に後方に地を蹴った。

(逃がさない)

 その声と共に、シャロンが突きを繰り出す。
 その一撃を背をそらして回避する影。
 が、

「!」

 瞬間、針にまとわりついていた糸がほどけ、網となって影に襲い掛かった。
 これに対し、この影は判断を誤らなかった。
 防御魔法を最大に展開して網を防ぐ。
 しかし、

「っ!?」

 網はさらに、防御魔法ごと飲み込む勢いで広がった。
 避けるためにさらに後方に地を蹴る影。
 だが、もう後が無い。
 後ろでは影の逃げ道を塞ぐように、三人の兵士が剣を構えていた。
 そして三人は近づいてくる影の背中に向かって、

「「「ぅ雄ぉっ!」」」

 同時に三本の剣を突き出した。
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