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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第一話 魔王討伐作戦開始(2)

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   ◆◆◆

 その後、シャロン達はその場で野営することにした。
 テントの中で疲れた体を横たえる。
 下に毛皮を敷いているがそれでも冷たい。
 なのでテントの中で小さな火が焚かれていた。
 薪は近くの森から取ってきたもの。
 当然湿っている。雪国で乾燥した木材は滅多に手に入らない。誰かが注意して火の番をしていなければ消えてしまう。
 が、

「……」

 シャロンは安心して目を閉じていた。
 そばで火を守っているのがサイラスだからだ。
 シャロンは彼のことを信用していた。あらゆる意味で。
 燃える薪の音が子守唄のようで心地良い。
 ゆえに、シャロンの意識はすぐに暗闇の中に沈んだ。

   ◆◆◆

 そしてシャロンは夢を見た。
 場面は見知らぬ森の中。
 しかし暗さは無い。木々の隙間から差し込む日の光は眩しいほど。
 そして足元に雪は無い。
 だから、シャロンはこれが夢であることに気付いた。
 そして直後にもう一つ気付いた。夢の中なのに意識がはっきりとしていることを。
 これは面白い、シャロンは純粋にそう思った。
 せっかくだから夢の世界を楽しむことにしよう。そう考えたシャロンは足を前に出した。

   ◆◆◆

 すると間も無く、シャロンは一軒の家を見つけた。
 人気の無い森の建造物にしては妙に大きい。
 一階の窓から中で何かの作業をしている初老の男の姿が見える。
 それを見たシャロンは中に入ろうと思った。
 しかし直後にシャロンの理性が待ったをかけた。
 見知らぬ人の家に入ってどうするつもりだ? とても面白いとは思えない、と。

「……?」

 そしてシャロンは混乱した。
 知らないわけが無い。自分はあの人を誰よりもよく知っている。あの人も私のことを誰よりも知っている。だから入っても大丈夫だ、という確信の思いが同時に沸きあがったからだ。
 混乱が理解不能の迷いとなってシャロンの体を縛る。
 そうして足を止めていると、背後から声がかかった。

「どうした? 今日は中に入らないのか?」

 振り返ると、そこには『猟師』がいた。
 見た目はただの男だ。
 屈強だが武器は何も持っていない。だが、それでもこいつは『猟師』だ、異物や害になるものを排除するのが仕事だ、という意味不明の確信がシャロンにはあった。

「……」

 そして混乱が続くシャロンが何も言い返せないでいると、

「……?」

 同じ混乱が伝染したかのように男はいぶかしげな表情を作った。
 だが理解した男は表情を戻し、口を開いた。

「ああ、今日は『シャロンのまま』ここに来てしまったのか。どうりで、脳がまだ活発に動いているわけだ」

 どういうこと? シャロンはそう尋ね返そうとしたが、

「アリス!」

 直後、ドアを開く音と共に響いた声に、シャロンは振り返った。
 そこには、先ほど窓から見えた初老の男がいた。
 そして彼はシャロンの方に駆け寄りながら声を上げた。

「何をしているんだ『アリス』! 危ないから離れなさい!」

 アリス? 危ない?
 わけがわからないシャロンは聞き返そうと口を開いたが、その喉奥から声を響かせるよりも早く、初老の男はシャロンの手首を掴んだ。
 そのまま引き摺るようにシャロンを家のほうへ導く。

「ちょっと……!」

 その強引な行いに対して不満を述べながら、シャロンは気付いた。
 自分の夢にしてはおかしいことを。まったく思い通りに、自由にならないことを。
 そうしてシャロンはされるがままに家の中へと連れ込まれた。

「……」

 そして中を見た瞬間、シャロンの認識は戻った。
 やはりこれは夢だ、と。
 明らかに広すぎるからだ。外から見た時の大きさとまったく合っていない。
 しかしその広さの割に開放感は無い。
 長机や何かの作業台が並んでいるからだ。
 机の上には何かの材料や道具、そして本が山積みになっている。
 そして、シャロンの意識はある机の上に並び置かれているものに惹かれた。
 それはただの大量の仮面のように見えた。
 が、

「……っ!」

 瞬間、シャロンはぞっとした。
 それら全てが自分と同じ顔をしているように見えたからだ。
 しかしそれは一瞬。
 ただの錯覚? それともこれは悪夢?
 そんな思いにシャロンは戸惑っていたが、初老の男はお構い無しに喋り始めた。

「ちょうど新しいのが出来たところだ。これで少しはマシに――」

 初老の男は喋りながらシャロンの戸惑いを察し、

「……?」

 先の猟師と同じような表情を浮かべ、

「ああ、君はまだシャロンなのか」

 すぐに同じ答えに辿り着いた。
 そして初老の男はシャロンの目の前に立ち、

「じっとして。すぐに剥がしてあげよう」

 シャロンの頭を両手で挟み込んだ。

「?!」

 何を、シャロンはそう叫ぼうとしたが、その口は開かなかった。
 体も動かない。
 やはりこれは悪夢!?
 シャロンが心の中でそんな言葉を響かせた直後、事態は正にその通りになっていった。
 男の指が頭蓋に食い込む。
 いや、突き刺さっているといったほうが正しい。
 もう第一関節まで入った。
 しかし出血はしていない。痛みも無い。
 そしておぞましい。
 まるで自分というものが少しずつ失われていくような、先の言葉通り剥がされているような感覚。
 そしてその感覚はさらにおぞましいものになっていった。
 食い込んでいる指から裂け目が広がっていく。
 このままだと本当に顔面が引き剥がされる。

「……っ!」

 シャロンはそのおぞましさに抗うために歯を食いしばり、目を閉じた。
 そして何かの繋がりが切れる感覚と共に、シャロンの意識は消えた。

   第二話 魔王軍主力戦 に続く
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