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Ep5 コモリガミ様の章(9)
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まるで中から押し破ろうとしているかのように。
それは正解だった。
生えている腕は四本に増え、その二対の両腕は互いに裂け目をつかみ合い、引き裂き始めた。
まるで双子の胎児が母親の腹を破って外に出ようとしているかのように。
あなたが抱いたそのイメージは正解だった。間も無く、中から二人の真っ赤な女が生まれ出た。
片方はあの写真に写っていた老婆であった。
そして二人の赤い女はゆっくりとあなたとオーナーに向かって一歩を踏み出した。
直後、
「許してくれ!」
オーナーが叫んだ。
「俺が悪かった!」
それは極限の恐怖から生じた謝罪と降伏宣言であった。
「本当にすまないと思ってる!」
が、二人の赤い女の足は止まる気配を見せなかった。
とにかく離れないと、そう思ったあなたは窓からの脱出をあきらめ、赤い女から出来るだけ距離を取るように部屋の角に移動した。
オーナーはその移動についてこなかった。
オーナーはまだ窓に固執していた。
両手で窓枠を掴み、必死に開けようとしていた。
だが、びくともしない。本当に揺れもしない。
そしてオーナーは何も出来ないまま距離を詰められ、
「ひっ!」
赤い腕に体を掴まれた。
「ぐ、ぎゃああぁっ!」
そしてオーナーは悲鳴を上げ始めた。
よく聞くと、ボキボキという、骨を握り砕く音が混じっていた。
見かけの細さからはありえない腕力。
オーナーはその赤い二匹の怪物の腕に、抱きしめられた。
「いた、やめ、おねが、ああぁっ!」
悲鳴は懇願に変わり、倒れたオーナーはそのままゴミ袋のほうに引きずられ始めた。
「たすけ、いたい、ああぁ! 助けて!」
だからオーナーはあなたのほうに向かって必死に手を伸ばした。
だが、あなたにはその手を掴むことは出来なかった。
「ああああぁっ!」
そしてオーナーはあなたの見ている目の前で、ゴミ袋の中に引きずり込まれていった。
まるでプレス機に巻き込まれているかのような、体がメチャクチャにされる音と共に、オーナーの体が飲み込まれていく。
あなたはそれを見ていることしか出来なかった。
「――ッ!」
そして最後には聞き取れない声を残して、オーナーは二匹の怪物と共にゴミ袋の中に消えた。
……。
そして後には静寂だけが残った。
……。
ゴミ袋は動かない。
終わった? あなたはそう思った。
が、直後、
「!」
がさがさと、ゴミ袋は再び蠢き始めた。
そして間も無く、またしても四本の腕が生えた。
しかしその腕はこれまでとは別人のものに見えた。
すぐにあなたは気付いた。誰のものか見覚えがあった。
それは正解だった。
直後に、中から先の二人と同じように真っ赤に染まった友人とオーナーが這い出てきた。
あなたは思った。
そんな、まさか、と。
自分は何も悪いことはしていない。襲われる理由は無いはずだ。
だが、そのまさかは正解にしか思えなかった。
二人はゆっくりと近づいてきた。
だから、そのまさかは言葉になって心の中で響いた。
まさか、これは見境の無い、ただただ理不尽で無差別な、そんな純粋な悪意の塊なのではないか、と。
それは正解だった。
生えている腕は四本に増え、その二対の両腕は互いに裂け目をつかみ合い、引き裂き始めた。
まるで双子の胎児が母親の腹を破って外に出ようとしているかのように。
あなたが抱いたそのイメージは正解だった。間も無く、中から二人の真っ赤な女が生まれ出た。
片方はあの写真に写っていた老婆であった。
そして二人の赤い女はゆっくりとあなたとオーナーに向かって一歩を踏み出した。
直後、
「許してくれ!」
オーナーが叫んだ。
「俺が悪かった!」
それは極限の恐怖から生じた謝罪と降伏宣言であった。
「本当にすまないと思ってる!」
が、二人の赤い女の足は止まる気配を見せなかった。
とにかく離れないと、そう思ったあなたは窓からの脱出をあきらめ、赤い女から出来るだけ距離を取るように部屋の角に移動した。
オーナーはその移動についてこなかった。
オーナーはまだ窓に固執していた。
両手で窓枠を掴み、必死に開けようとしていた。
だが、びくともしない。本当に揺れもしない。
そしてオーナーは何も出来ないまま距離を詰められ、
「ひっ!」
赤い腕に体を掴まれた。
「ぐ、ぎゃああぁっ!」
そしてオーナーは悲鳴を上げ始めた。
よく聞くと、ボキボキという、骨を握り砕く音が混じっていた。
見かけの細さからはありえない腕力。
オーナーはその赤い二匹の怪物の腕に、抱きしめられた。
「いた、やめ、おねが、ああぁっ!」
悲鳴は懇願に変わり、倒れたオーナーはそのままゴミ袋のほうに引きずられ始めた。
「たすけ、いたい、ああぁ! 助けて!」
だからオーナーはあなたのほうに向かって必死に手を伸ばした。
だが、あなたにはその手を掴むことは出来なかった。
「ああああぁっ!」
そしてオーナーはあなたの見ている目の前で、ゴミ袋の中に引きずり込まれていった。
まるでプレス機に巻き込まれているかのような、体がメチャクチャにされる音と共に、オーナーの体が飲み込まれていく。
あなたはそれを見ていることしか出来なかった。
「――ッ!」
そして最後には聞き取れない声を残して、オーナーは二匹の怪物と共にゴミ袋の中に消えた。
……。
そして後には静寂だけが残った。
……。
ゴミ袋は動かない。
終わった? あなたはそう思った。
が、直後、
「!」
がさがさと、ゴミ袋は再び蠢き始めた。
そして間も無く、またしても四本の腕が生えた。
しかしその腕はこれまでとは別人のものに見えた。
すぐにあなたは気付いた。誰のものか見覚えがあった。
それは正解だった。
直後に、中から先の二人と同じように真っ赤に染まった友人とオーナーが這い出てきた。
あなたは思った。
そんな、まさか、と。
自分は何も悪いことはしていない。襲われる理由は無いはずだ。
だが、そのまさかは正解にしか思えなかった。
二人はゆっくりと近づいてきた。
だから、そのまさかは言葉になって心の中で響いた。
まさか、これは見境の無い、ただただ理不尽で無差別な、そんな純粋な悪意の塊なのではないか、と。
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