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Ep3 あの時こうしていれば、そんな二人の章(5)
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友人とオーナーの取っ組み合いは互角では無かった。
オーナーのほうが体重、筋力ともに少し上回っていた。
だから友人は逆に組み倒され、馬乗りにされていた。
心臓に向かって包丁を振り下ろそうとするオーナーの両手を、同じ両手で必死に押し止めている。
だがそれは時間の問題に見えた。
友人の腕力は既に限界を迎えつつあった。
そこにあなたは駆けつけた。戻ってきた。
その手に食堂の椅子を持って。
高級感のある、しっかりとしてそれなりの重量のある椅子。
これで思いっきり殴ったら死んじゃうんじゃないか、そんな迷いが頭の中をよぎったが、それは一瞬のことだった。
あなたはゴルフスイングの要領で、馬乗りになっているオーナーの顔面に椅子を叩き込んだ。
「――っ!」
声にならない悲鳴を上げながら、オーナーの体が吹き飛ぶ。
しかしあなたの心には余裕が無かった。
椅子を振り上げ、倒れたオーナーに何度も叩き付ける。
包丁を振り回して反撃の意思を見せているが、倒れているゆえに届いていない。
それでも余裕の無いあなたにとっては恐怖だった。
だからあなたは包丁を狙って椅子を叩き付けた。
何かが折れたような感触と共に、その手から包丁が落ちる。
「あああっ?!」
腕の骨が折れたその痛みにオーナーがはっきりとした悲鳴を上げる。
しかしその叫びをもってしても、あなたの心に余裕は生まれなかった。
全ての力を振り絞る勢いで椅子を振り続ける。
間も無く、そこに友人の加勢が加わった。
「……っ」
そしていつの間にかオーナーはほとんど動かなくなっていたが、あなたと友人の攻撃は文字通り力尽きるまで続けられた。
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