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Ep2 友人とオーナーの章(10)
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「!」
そしてその音を聞いたオーナーは驚きに身をすくませた。
携帯の着信音。
二階からだ。
かけてくるやつなんて一人しか思い浮かばない。
あいつが生きている。しかも携帯が通じるところにいる、それはオーナーにとって絶望でしかなかった。
そして状況はオーナーにとってさらに悪い方向に進み始めた。
あなたが立ち上がり、階段を上がり始めたのだ。
(マズい!)
何かしないと、その一心でオーナーも動き始めた。
しかし何をすればいいのか、なにをすべきなのか、思考の整理は出来なかった。
とにかく携帯をなんとかしよう、そう思ったオーナーは雪の坂を登った。
着信音が鳴り響く窓に手をかける。
だが、窓は開かなかった。
鍵がかかっている。当たり前だ。
腕力で開くものでは無い、ならば思いつく手は一つしか無かった。
斧を力任せに叩き付ける。
派手な音と共にガラスが飛び散る。
そしてオーナーは割れたガラスで体を切る危険性も無視して、中に入った。
携帯を掴んで外に出る。
その勢いのまま、オーナーは雪の坂をくだった。
それは本当に勢いだけの行動だった。
いま一階のほうに降りて良いのか、あいつが客室に入ってくるのかどうか耳をすましておくべきなのでは、そんな言葉が脳裏をよぎったが、その結論を出す思考力はいまのオーナーには無かった。
でも何かしなくては、そんな焦りだけがオーナーを突き動かしていた。
いや、もう直接対決するしかないのでは? そんな考えもあった。
オーナーはやけくそになりかけていた。
だからオーナーは窓から確認もせず、開いたままの玄関から中へと入った。
音は立てないほうがいい、鈍った頭でもそれだけは分かった。だからオーナーはそうした。
広間に入ったが誰もいない。
やはりあいつは客室に入ったのか? そんなことを考えながら階段のほうへと歩み寄る。
が、直後、オーナーはあなたを見つけた。
後ろ歩きで客室のドアを凝視しながら、ゆっくりと廊下を進むその背中を下から見つけることが出来た。
このまま背後を突く? いやだめだ。この階段は軋む。
鉢合わせになる前に身を隠さないと。
そう思ったオーナーはカーテンの裏に身を潜めた。
階段が軋む音が近づき、ソファーの上に腰を下ろした気配が耳に伝わる。
やるしかない、オーナーはそう思った。
これ以上のチャンスは無い、そう思ってオーナーは斧を振り上げた。
こうして、あなたと友人の物語は幕を閉じたのであった。
だから思う。
あの時こうしていれば、と。
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