雪山のペンションで、あなたひとり

Ep1 あなたひとりの章(11)

　　　◆◆◆

「！」

　突如、耳に届いた「ガタガタ」という音に、あなたは飛び起きた。
　時間の感覚が無い。
　ゆえにか、あなたは慌てる必要は無かったのだが、飛び起きた勢いのまま立ち上がった。
　その意味の無い焦りが一つの事故を生んだ。足を勢いよくテーブルにぶつけてしまったのだ。

「っ！」

　そしてあなたはさらなる焦りに目を見開いた。
　痛かったからでは無い。
　足をぶつけた衝撃でテーブルの上に置いてあったガラスのコップが落ち、割れてしまったのだ。
　不幸なことに、下は絨毯の無いフローリングであった。
　しまった、どうしよう、焦りが次の焦りを生む。
　だが、次にどうすべきかはすぐに思いついた。
　素直に謝ればいいのだ。
　だが、こんな物音に対して誰の反応も無いということは、まだ二人とも帰ってきていないのだろう。
　ならば次にやることは決まっていた。片付けだ。
　テーブルの上にあった備え置きのティッシュでこぼれた飲料を拭き取る。
　しかし素手で割れたガラスを触りたくは無い。
　ほうきのようなものと、ちり取りを借りよう、そう思ったあなたは歩き出した。
　どこにあるかは見当がついていた。掃除用具がある場所なんて大体決まっている。
　そしてあなたのその見当は正解であった。
　トイレの横の用具入れに入っていた。
　早速拝借して戻る。
　そしてあなたはほうきを使ってガラスを回収しようとしたが。

「っ！」

　突如真上から響いた「ガン！」という音と同時に手に伝わった衝撃に、あなたは思わず音がした方向を見上げた。