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Ep1 あなたひとりの章(9)
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やんわりと断られるんだろうなあ、あなたがそんな未来を予想していると、友人の足音は止まった。
ノックの音が廊下から響く。
そしてドアが開いた音と同時に、友人の無謀な交渉は始まった。
「何か御用でしょうか?」
「広間にある大きなディスプレイで映画を観たいんですが……」
直後の答えは意外なものだった。
「かまいませんよ」
なんで? あなたが抱いたその当然の疑問を友人は尋ねた。
「もう一組、客がいますよね? その人達の迷惑にならないですかね? 大丈夫ですか?」
本当にそう思っているのならばこんなことを聞きに来ること自体がおかしいと思うのだが、それよりも友人は自分の欲求を満たしたいという思いのほうが強いのだろう。
そして直後に返ってきたオーナーの答えは、至極わかりやすいものであった。
「それなら大丈夫ですよ! その方達は直前にキャンセルされましたので!」
なーんだあ、恥をかかないか心配して損した。道理で自分達以外に人の気配が無いわけだ、あなたはそう思い、気が抜けるのを感じた。
そしてあなたが肩の力を抜くと、オーナーは再び廊下の奥でその声を響かせた。
「広間を使うのでしたら。何かお飲み物をお持ちいたしましょうか?」
それはありがたい申し出だった。
それは友人も同じだったらしく、あなたが何をするまでも無く、友人は「いただきます」と答えた。
「すぐに用意出来るものでしたら、ウーロン茶かオレンジジュース、またはコーヒーか紅茶がございますが、どれにいたしますか?」
友人は「じゃあ自分はコーヒーで」と即答した。
そして友人は廊下に足音を響かせ、広間の入り口から顔だけを覗かせてあなたに尋ねた。
「聞こえてただろ? 何にする?」
のどがそこまで渇いているわけでは無かったが、あなたは好みのものを注文した。
伝言リレーのように友人がそれをオーナーに伝える。
そして友人は再び広間に姿を見せ、あなたの隣に座った。
「じゃあ、遠慮は必要無いな。どれ観る?」
遠慮なんて最初から無かったような気がするが、あなたは心に浮かんだその言葉を飲み込みながら、友人が持ってきた映画のほうに意識を移した。
アクションにホラーにコメディ、友人らしいチョイスだなと思った。
この中からならこれがいいな、と、あなたが指で示すと、友人は「気が合うな。俺もそれが見たいと思ってた」と、笑顔を返した。
だが、直後に友人はその笑みを消して口を開いた。
「あ、しまった」
何がどうしたのと、あなたが尋ねると、友人は答えた。
「お菓子買ってくるの忘れてた」
別にいらないけど? と、あなたは言ったが、それは友人には譲れないことだったようだ。
「ちょっと行ってくる。山を降りたところにコンビニがあったよな?」
この寒いのにそこまでしなくても、と、あなたは言ったが、やはり友人の決意は揺るがなかった。
「車なら一時間くらいだし大丈夫。それにお楽しみの本番は夜だからな。夜食も買い込んでおきたい」
やっぱりこいつは映画でオールナイトするつもりなのかと、あなたはあきれたが、その思いは吐き出さずに飲み込んだ。
まあ、たしかに。夕食までにはまだまだ時間がある。余裕で戻ってこられるだろう。
「映画は先に観てていいぞ」
そして友人はそう言いながら、ベッドの上に脱ぎ捨てたジャケットを取りに階段を登っていった。
ノックの音が廊下から響く。
そしてドアが開いた音と同時に、友人の無謀な交渉は始まった。
「何か御用でしょうか?」
「広間にある大きなディスプレイで映画を観たいんですが……」
直後の答えは意外なものだった。
「かまいませんよ」
なんで? あなたが抱いたその当然の疑問を友人は尋ねた。
「もう一組、客がいますよね? その人達の迷惑にならないですかね? 大丈夫ですか?」
本当にそう思っているのならばこんなことを聞きに来ること自体がおかしいと思うのだが、それよりも友人は自分の欲求を満たしたいという思いのほうが強いのだろう。
そして直後に返ってきたオーナーの答えは、至極わかりやすいものであった。
「それなら大丈夫ですよ! その方達は直前にキャンセルされましたので!」
なーんだあ、恥をかかないか心配して損した。道理で自分達以外に人の気配が無いわけだ、あなたはそう思い、気が抜けるのを感じた。
そしてあなたが肩の力を抜くと、オーナーは再び廊下の奥でその声を響かせた。
「広間を使うのでしたら。何かお飲み物をお持ちいたしましょうか?」
それはありがたい申し出だった。
それは友人も同じだったらしく、あなたが何をするまでも無く、友人は「いただきます」と答えた。
「すぐに用意出来るものでしたら、ウーロン茶かオレンジジュース、またはコーヒーか紅茶がございますが、どれにいたしますか?」
友人は「じゃあ自分はコーヒーで」と即答した。
そして友人は廊下に足音を響かせ、広間の入り口から顔だけを覗かせてあなたに尋ねた。
「聞こえてただろ? 何にする?」
のどがそこまで渇いているわけでは無かったが、あなたは好みのものを注文した。
伝言リレーのように友人がそれをオーナーに伝える。
そして友人は再び広間に姿を見せ、あなたの隣に座った。
「じゃあ、遠慮は必要無いな。どれ観る?」
遠慮なんて最初から無かったような気がするが、あなたは心に浮かんだその言葉を飲み込みながら、友人が持ってきた映画のほうに意識を移した。
アクションにホラーにコメディ、友人らしいチョイスだなと思った。
この中からならこれがいいな、と、あなたが指で示すと、友人は「気が合うな。俺もそれが見たいと思ってた」と、笑顔を返した。
だが、直後に友人はその笑みを消して口を開いた。
「あ、しまった」
何がどうしたのと、あなたが尋ねると、友人は答えた。
「お菓子買ってくるの忘れてた」
別にいらないけど? と、あなたは言ったが、それは友人には譲れないことだったようだ。
「ちょっと行ってくる。山を降りたところにコンビニがあったよな?」
この寒いのにそこまでしなくても、と、あなたは言ったが、やはり友人の決意は揺るがなかった。
「車なら一時間くらいだし大丈夫。それにお楽しみの本番は夜だからな。夜食も買い込んでおきたい」
やっぱりこいつは映画でオールナイトするつもりなのかと、あなたはあきれたが、その思いは吐き出さずに飲み込んだ。
まあ、たしかに。夕食までにはまだまだ時間がある。余裕で戻ってこられるだろう。
「映画は先に観てていいぞ」
そして友人はそう言いながら、ベッドの上に脱ぎ捨てたジャケットを取りに階段を登っていった。
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