118 / 120
中等部編
第十二話 エッジ(6)
しおりを挟む
「なんのことだ?」
エッジが尋ねると、ヴィーは数秒考えてから口を開いた。
「それを説明する前にひとつ教えてくれ。お前、この街にずっと住んでるのか?」
エッジが頷きと共に「ああ、そうだ」と返すと、ヴィーは少し困ったような顔で口を開いた。
「そうか。それはある意味良かったとも言えるが、面倒でもあるな」
どういうことだ? はやくちゃんと説明してくれ。
エッジがそんなことを考えた瞬間、視界の奥にあるものが映りこんだ。
路地の奥から、一人の女性が近づいてきている。
知っている顔だ。
それもそのはず。それは食堂の店員だった。
ヴィーは近づいてくる店員のほうに振り返りながら声を響かせた。
「来たぞ。あれが答えだ。口で説明するよりも見た方が早い。一応言っておくが、構えは解くなよ。戦闘態勢を維持しろ」
答えと表現されたその女性は、歩きながらエッジに向かって声を上げた。
「おつり! 忘れてますよ!」
「……?」
エッジは一瞬でおかしな部分に気付いた。
言葉と共に差し出された店員の手の平の上には何も無かった。
エッジがそのことを視線で誘導すると、店員もすぐに気付いて手の平を見た。
「……」
手の平を凝視。
しばらくして、店員は口を開いた。
「あれ? わたし、おつり、わすれ?」
呂律が回っていない。
さらに、店員の目は手の平を見てはいなかった。
そしてその目は異常だった。
カメレオンの目のように左右の目はバラバラに動いていた。
店員は左右の目を忙しなく動かしながら、口を開いた。
「おつり? つり、つり、つりつりつりつり、ツリツリツリツリツリ!」
狂気と共に言葉は激しくなり、そしてその激しさと狂気が頂点に達すると同時に店員は口からあるものを吐き出した。
それは触手だった。
間も無く、狂乱している目からも。
さらに耳と鼻からも。頭部の穴という穴から店員は触手を伸ばし、そして襲い掛かってきた。
店員が仕掛けてくると同時にヴィーは地面を蹴っていた。
一瞬で店員に向かって距離を詰める。
触手はヴィーの踏み込みに反応していた。
四方八方から包囲するように襲い掛かる。
次の瞬間、金属をハンマーで叩いたかのような甲高い音が響いた。
鞘の内部で魔力が爆発した音。
その爆発によって放たれた大太刀の刃は、瞬く間に三日月型の銀線を描いた。
さらに二閃、三閃。
瞬きと共に描かれる三日月が触手を切り飛ばす。
三度の瞬きの間に、双方の距離は互いの手が届く間合いに。
そして四度目の瞬きで放たれたのは刃では無かった。
牙をむいたヘビのように鋭く伸びたヴィーの左手が店員の首を掴む。
ヴィーはそのまま左手だけで店員の体を持ち上げたが、店員はヴィーの左腕を掴んで抵抗しようとはしなかった。
店員の体は痙攣していた。
ヴィーの左手から紫色の細い雷が伸び、店員の体の上を這うように走っていた。
ゆえに店員は体を動かせない。
だが、触手は違った。
再び伸び生え、ヴィーに向かって襲い掛かる。
しかしその攻撃はたまたま飛んできた紫電によって叩き落とされた。
二本目の触手も、三本目の触手も、紫電によって打ち払われる。
いや、それはたまたまでは無かった。
(あれは……!?)
一瞬だったが、エッジの目はそれをとらえていた。
紫電の先端がヘビのように形を変え、口を開き、触手に噛みついたのを。
あれはただの電撃魔法じゃない。雷で動く精霊だ。
エッジが尋ねると、ヴィーは数秒考えてから口を開いた。
「それを説明する前にひとつ教えてくれ。お前、この街にずっと住んでるのか?」
エッジが頷きと共に「ああ、そうだ」と返すと、ヴィーは少し困ったような顔で口を開いた。
「そうか。それはある意味良かったとも言えるが、面倒でもあるな」
どういうことだ? はやくちゃんと説明してくれ。
エッジがそんなことを考えた瞬間、視界の奥にあるものが映りこんだ。
路地の奥から、一人の女性が近づいてきている。
知っている顔だ。
それもそのはず。それは食堂の店員だった。
ヴィーは近づいてくる店員のほうに振り返りながら声を響かせた。
「来たぞ。あれが答えだ。口で説明するよりも見た方が早い。一応言っておくが、構えは解くなよ。戦闘態勢を維持しろ」
答えと表現されたその女性は、歩きながらエッジに向かって声を上げた。
「おつり! 忘れてますよ!」
「……?」
エッジは一瞬でおかしな部分に気付いた。
言葉と共に差し出された店員の手の平の上には何も無かった。
エッジがそのことを視線で誘導すると、店員もすぐに気付いて手の平を見た。
「……」
手の平を凝視。
しばらくして、店員は口を開いた。
「あれ? わたし、おつり、わすれ?」
呂律が回っていない。
さらに、店員の目は手の平を見てはいなかった。
そしてその目は異常だった。
カメレオンの目のように左右の目はバラバラに動いていた。
店員は左右の目を忙しなく動かしながら、口を開いた。
「おつり? つり、つり、つりつりつりつり、ツリツリツリツリツリ!」
狂気と共に言葉は激しくなり、そしてその激しさと狂気が頂点に達すると同時に店員は口からあるものを吐き出した。
それは触手だった。
間も無く、狂乱している目からも。
さらに耳と鼻からも。頭部の穴という穴から店員は触手を伸ばし、そして襲い掛かってきた。
店員が仕掛けてくると同時にヴィーは地面を蹴っていた。
一瞬で店員に向かって距離を詰める。
触手はヴィーの踏み込みに反応していた。
四方八方から包囲するように襲い掛かる。
次の瞬間、金属をハンマーで叩いたかのような甲高い音が響いた。
鞘の内部で魔力が爆発した音。
その爆発によって放たれた大太刀の刃は、瞬く間に三日月型の銀線を描いた。
さらに二閃、三閃。
瞬きと共に描かれる三日月が触手を切り飛ばす。
三度の瞬きの間に、双方の距離は互いの手が届く間合いに。
そして四度目の瞬きで放たれたのは刃では無かった。
牙をむいたヘビのように鋭く伸びたヴィーの左手が店員の首を掴む。
ヴィーはそのまま左手だけで店員の体を持ち上げたが、店員はヴィーの左腕を掴んで抵抗しようとはしなかった。
店員の体は痙攣していた。
ヴィーの左手から紫色の細い雷が伸び、店員の体の上を這うように走っていた。
ゆえに店員は体を動かせない。
だが、触手は違った。
再び伸び生え、ヴィーに向かって襲い掛かる。
しかしその攻撃はたまたま飛んできた紫電によって叩き落とされた。
二本目の触手も、三本目の触手も、紫電によって打ち払われる。
いや、それはたまたまでは無かった。
(あれは……!?)
一瞬だったが、エッジの目はそれをとらえていた。
紫電の先端がヘビのように形を変え、口を開き、触手に噛みついたのを。
あれはただの電撃魔法じゃない。雷で動く精霊だ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる