クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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中等部編

第十一話 お金ってステキですよね? あ、違いますよ? そういう意味じゃないです。お金って生活に必要じゃないですか。それ以外のry(4)

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   ◆◆◆

 アイリスは危なげなく試合を運び、勝ち続けた。
 ヴィーはアイリスの動きにダメな癖が無いか確認しつつ、その戦いぶりをながめていた。
 そしてアイリスが三連勝を達成したところで、ヴィーの背に声がかかった。

「あれはあなたの選手ですかな? いい動きをしている」

 ヴィーは振り返らなかったが、その声の主がどんな人間かはわかっていた。感知できていた。
 老いた男だ。
 だが、戦士の匂いが少しだけ残っている。
 それだけでヴィーはこの老人がどういう人間なのかを理解し、なぜ話しかけてきたのかまで把握した。
 だから返すべき言葉も決まった。

「いや、まだまだ動きが荒い。だが、才能は悪くないと俺は思ってる」

 これに、老人は頷きながら答えた。

「なかなか厳しい評価ですな。ですが、少し動きに無駄がある点については同感です。これからが楽しみな選手ですな」

 ヴィーはここで口を閉じた。
 老人が勝手にしゃべりだすだろうと思っていたからだ。
 そしてそれは正解だった。

「しかし……まったく、おかしな世の中になったものです。最近は特にそう感じる」

 それは、目の前でアイリスが屈強な男達に勝利しているという事実に対しての言葉だった。
 それを老人は「おかしな世の中」と表現した。
 しかしこれは言葉足らずゆえに誤解を生んでいる。
 だから老人はそこを訂正しつつ補足した。

「たしかに、大人よりも強い子供というのは、昔からいました。強力な魔力を持って生まれる子供などがそうだ」

 そして老人は魔力をこめ、手を輝かせながら言葉を続けた。

「だが、数は今ほど多くは無かった。光、炎、冷気、雷、これら四種の魔法を使えるものは魔王などと呼ばれて恐れられていたらしいですが、現代ではそんな魔法使いはそうめずらしいものではなくなってきている」

 戦士の匂いがする、ヴィーのその感知もまた正解だった。
 老人はしゃべりながら、手の輝きの中から小さな火を生み出し、それを霜をまとった冷気で吹き消し、冷たくなり始めた指から紫電を走らせた。
 老人はしゃべりながら自身も魔王と呼べる存在であると自己紹介したのだ。
 しかし老人は自信の力についてそれ以上は語ろうとはせず、アイリスを見ながら再び口を開いた。

「……まったく、本当に良い動きをする子だ。いや、良い動きなんてものじゃない。さっきのは、相手が攻撃動作に入るより速く回避行動をとっていた。あの子は感知能力者ですかな?」

 ヴィーが「そうだ」と答えると、老人はうんざりした表情を作りながらアゴを触り始めた。
 老人のアゴには大きな古傷があった。
 その傷とうんざりした表情ゆえに、感知を使うまでも無く把握できた。
 この老人もかつては選手だったのだ。
 魔法使いとしての強さに自負があったが、感知能力者によってそのプライドを砕かれたのだろう。
 ヴィーのその予想は正解であり、ゆえに老人はこんどは感知能力者について語りだした。

「……感知能力者についても同じだ。昔は強力な感知能力者というのは能力者の中で2割いるかいないかくらいだったと聞く。それが今じゃどうだ。感知能力者そのものの数も増えてきている。剣を振り回していた時代では、魔法も感知も使えない無能力者が全体の五割ほどを占めていたらしいが、いまの状況を見ているとまったく信じられない」

 老人がそう言い終えたのとほぼ同時に、アイリスは四連勝を達成した。
 ヴィーはアイリスの勝利ポーズに目を向けていなかった。
 昔話はもう終わり。そろそろ本題を切り出すだろうとわかっていたからだ。
 そしてそれも正解だった。

「だから私は引退し、選手を育てる側に立つことにしたわけですが……なんの因果か、私のところにも転がり込んで来たのですよ。あの子みたいな、強い子供がね」

 やっぱりそういうことか、やれやれ、と、ヴィーは少しだけ顔に出した。
 次の言葉は簡単に予想できる。それに対しての返答も決まっている。
 そして老人はヴィーが予想した通りの言葉を響かせた。

「どうです? 私の選手とあなたの選手、どちらが強いか戦わせてみるというのは」
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