クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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中等部編

第十一話 お金ってステキですよね? あ、違いますよ? そういう意味じゃないです。お金って生活に必要じゃないですか。それ以外のry(3)

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 お金のため、お金のため、わたしは自分にそう言い聞かせながらリングの方へ足を向けた。
 ……うう、すっごく視線を感じる。めちゃくちゃ注目されてる。そりゃそうだよね。子供がこんなのに出場なんておかしいもん。
 がんばるとは言ったけど、恥ずかしいなあ。緊張する。
 直後、ヴィーさんの声が背に響いた。

「……お前をこれに誘ったのは、お金が理由じゃ無いぞ? どちらかというとそれはオマケだ」

 え? じゃあなんで? わたしが振り返ると、ヴィーさんは答えた。

「お前を襲ってくる敵が同年代の子供である可能性は極めて低い。間違い無く、体格で有利な大人を差し向けてくるだろう。だからこれはそのための訓練だ」

 たしかに、それはその通りだとしか思えなかった。
 むしろ、刺客が人間ならまだマシなほうかもしれない。
 船で襲ってきたときのようなバケモノだったら――うん、これは今は考えたくない。考えてもどうせ答えは一つだ。逃げるしかない。
 そっか、ヴィーさんはわたしのことを考えてここへ連れてきてくれたんだ。ちょっとだけ見直したかも。
 そしていつの間にか、わたしの恥ずかしさと緊張感は消えていた。
 心にあるのはやる気だけ。
 そうだ。わたしは強くならなくちゃいけないんだ!
 心の中でそう叫ぶと同時に、わたしは自然と走り出し、リングに飛び込んだ。
 リングに上がると同時に、右拳を大きく突き上げてやる気を示す。
 わたしのこのパフォーマンスに会場がどよめき、対戦相手がリングに上がってくる。
 さっき戦っていた人とは違うけど、この人もガチムチだ。
 細身のわたしと比べると、まさに大人と子供って感じ。
 だからか、対戦相手の男の人は言った。

「お嬢ちゃんみたいな子がこんなところに来るなんて、なにか事情があるんだろう。ならば手加減が必要だね?」

 手加減? そんなものは必要無いです! それじゃ訓練にならないんです!
 だからわたしは戦闘態勢を取りながら答えた。

「いいえ、全力でお願いします!」

 直後に開始のゴングが鳴り、わたしは同時に踏み込んだ。
 相手はわたしを格下だと思ってる。だから待っていても相手はなかなか動かないはず。
 わたしの予想は的中し、わたしの突進に対して相手が取った選択肢はガードだった。
 わたしは迷い無く、ガードの上から魔力をこめた拳を叩きつけた。

「!」

 相手の動揺が伝わってくる。
 わたしの踏み込みの速さに対してか、それとも魔力の強さに対してか、いまはどっちでもいい。
 その動揺をさらに揺さぶるために連打、連打、連打。
 全部ガードされてるけど関係無い。相手が何もしなければこのまま押し切れる。
 しかしさすがにこのまま終われるほど甘い相手では無かった。
 相手は体勢を崩される前に反撃の構えを取った。
 でも甘い! いつか反撃するだろうと読んでいたし、タイミングも感知できてる!
 そして繰り出された反撃は、事前に感じ取ったものよりも遅い攻撃だった。
 いくらなんでも手加減しすぎ! それが間違いだということをすぐに教えてあげる!
 わたしは姿勢を低くして反撃を避けながら相手の背後に回り込んだ。

「!?」

 相手の背中から大きな動揺が伝わってくる。 
 いま手を出せば勝利が確定する。
 でも、背後からの攻撃って反則になったりしない? ルールちゃんと聞いておけばよかった……。
 まあいいか! 今回はこっちも手加減ということで! 手加減のお返し!
 わたしは相手が振り返るのを待った。
 相手は振り返りの回転動作と同時に拳を繰り出した。
 回転の勢いを利用した裏拳だ。
 でもわたしはこれも読めていた。ていうか、感じ取れていた。焦りのせいか、相手は心の声が筒抜けになっちゃってる。
 わたしは再び身をかがめて裏拳を回避。
 焦りのせいか、裏拳は大振り。ボディががら空きだ。
 全力で打ち込む余裕がある。だけど全力で魔力を込めた拳を当てたら大けがしちゃうんじゃ? さっきの試合でも、ある程度の手加減はされてたのを感じたし。
 だからわたしは手加減のために魔力量を調整した。
 しかしその調整に時間がかかったせいで、相手はガード体勢を取るのが間に合った。
 あ、でもこれなら――ガード体勢はむしろ都合が良かった。これなら遠慮無く全力で打ち込んでもいいと思えた。
 だからわたしは全力で拳を輝かせ、ジャンピングアッパーの要領で叩きこんだ。
 ガチムチさんの輝く手の平と、わたしの拳がぶつかり合う。
 
「っ?!」

 わたしの拳の力強さに動揺したのか、ガチムチさんは手の平から防御魔法の展開を開始。
 でももう遅い! わたしの拳の勢いはもう止まらない!
 わたしは手ごたえからそれを確信した。
 だから、

「どりゃああああ!」

 わたしは気勢を上げながら相手の防御魔法を突き破った。
 胸を突き上げられたガチムチさんは大きくのけぞり、そのまま仰向けに倒れた。
 油断せず、わたしはすぐに構え直す。
 直後、

「勝者、アイリス!」

 ゴングの音と共に試合は終わった。
 え? わたしの勝ち? 相手はまだやれそうだけど。
 その予想は的中し、相手はすぐに立ち上がった。
 あれ? なんで? わたしの疑問にヴィーさんが答えた。

「防御魔法のような大きなガードは禁止だ。光弾のような飛び道具も反則だぞ」

 なるほど。この人は焦りのあまり反則をやってしまったということですか。
 でもそういうことは事前に教えておいてほしいなあ。ルールを確認せずにリングに上がったわたしもダメな感じだけど。
 まあとにかく、勝ちは勝ちです! 賞金ゲットなのです!
 わたしが心の中でそんな感じの喜びの声を上げると、ヴィーさんはニヤつきながら口を開いた。

「連勝すれば大きく稼げるぞ。まだいけるよな?」

 わたしは即答した。

「もちろんです!」

 武器はダメ、防御魔法と飛び道具も禁止、実戦からは遠い条件だけど、それでも良い訓練になる! 
 しかもお金までかせげちゃう! 最高ですね!
 わたしはやる気を再びみなぎらせながら、次の相手がリングに上がるのを待った。
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