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中等部編
第十話 突然のニンジャ!(8)
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署に連行されたシノブとヴィーは尋問室で話をすることになった。
ヴィーが最近入ったばかり尋問室。もはや馴染みの部屋だ。
話す相手も同じだった。
だからヴィーは友人のように話しかけた。
「俺は人の顔を覚えるのが苦手だが、お前のことは知ってるぞ。えーっと、ここで会うのはこれで何度目だ? 4回目か?」
軍人はめんどくさそうに答えた。
「5回目です」
対照的に、ヴィーは笑顔で口を開いた。
「そうか。もうそんなになるか。お前とは縁があるようだな。どうだ? これが終わったら飲みにでもいかないか?」
軍人は首を振った。
「申し訳ありませんが、このあとも仕事がありますので」
「そうか、残念だ」
ヴィーがぜんぜん残念じゃなさそうにそう言うと、軍人はヴィーから視線を外してシノブに向かって口を開いた。
「君から話を聞こう。この男とはどういう関係だい?」
シノブは正直に答えた。
「生徒と教師の関係です」
あれ? なんかいかがわしく聞こえるな……言葉選びを間違えた?
シノブが心の中で首をかしげると、軍人は再び尋ねた。
「ただの生徒と教師なら、美術館に盗みになんて入らないと思うけど?」
「……」
そう言われると何も言い返せない。
黙るシノブに、軍人はさらに口を開いた。
「君には黙秘権があるし、弁護士を雇う権利もある。話しにくいのであれば――」
そこまで言ったところで、ヴィーが割り込んだ。
「イジワルはそこまでにしておけ。話すべきことが他にあるだろう?」
軍人が視線をヴィーに戻すと、ヴィーは本題に入った。
「箱の中は確認したな? 持ってきているな?」
軍人は頷きを返し、ポケットの中からそれを取り出して机の上に置いた。
それはいわゆるラビットフットと同じ類の、幸運のお守りに見えた。
動物のしっぽにキーホルダーがついたもの、言葉で表現すればそれだけであり、それ以上の言葉は出てこない。
が、「アレ」を見た軍人にとっては違った。
ヴィーはその「アレ」について声を響かせた。
「このまえ捕まえた男について、素顔を見るためにフードをとったはずだよな? ならばコレがどういうものかは言わずともわかるだろう?」
軍人は頷きを返しながら口を開いた。
「あなたが美術館に泥棒に入ることを、事前に我々に連絡していたのはこのためですか?」
ヴィーが「そうだ」と答えると、軍人はさらに尋ねた。
「これが私の想像通りのものであるならば、連中にはかなり原始的で過酷な階級制度があるということですか?」
ヴィーは即答した。
「正解だ。連中の理想から遠いものは奴隷のように扱われる。こんな風に『切り売り』されることも珍しくないということだ」
言いながらヴィーはソレを手に取り、ねこじゃらしとして扱うようにブラつかせながら言葉を重ねた。
「美術館のオーナーを尋問して、これを売ったやつについて吐かせろ。おそらく、武器商人かマフィアの名前が出るはずだ。そいつを捕まえて情報源として最大限に利用しろ」
そう言って、ヴィーは飽きたかのようにしっぽを机の上に投げ捨てた。
そうして取り調べは終わり、シノブとヴィーは解放された。
最初、シノブの頭には「?」が浮かんでいたが、言葉の裏を読むことは難しくなかった。
本当に自分が思っているような、そんな存在がいるのだろうか?
いや、これは疑う必要は無いだろう。軍人は真剣だった。あれが演技には見えないし、演じる必要性はまったく感じられない。
そして階級制度まであるということは、そんな存在がなにかしらの社会を構築しているということ。
調べたい。調べるべきだ。シノブはそう思った。
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