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中等部編
第十話 突然のニンジャ!(7)
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警備の精霊を乗っ取るという工作が気付かれることはなかった。
夜になり人の気配が消えると、美術館はほぼ無防備になった。
最後に残された守りは施錠されたドアだけであったが、開錠技術を有するシノブに対してはその守りは意味を成さなかった。
暗い美術館の中を、ヴィーについていく形で進む。
そして従業員用の通路に入ってからしばらくすると、ヴィーはあるドアの前で止まった。
展示していない美術品を保管している倉庫らしき部屋に見えた。
ヴィーはそのドアに静かに右手を当てた。
ほんの少しだけ魔力を流す。
魔力の波を流し、その反響から内部の構造などを調べる。
数秒後、ヴィーは口を開いた。
「警報の仕掛けはおろか鍵もかかってないな。入るぞ」
そう言った直後にヴィーはドアを開けた。
言った通り、警報は起きなかった。
窓が無いゆえに部屋の中は真っ暗であったが、ヴィーもシノブも感知能力者の上に魔法使いでもあるので、何の問題も無かった。
手を発光させて視界を確保しつつ、感知を使って部屋の様子を探る。
ところせましと物が置かれている。整理されているとは言い難い。
そんな部屋に、ヴィーは声を響かせた。
「手分けしよう。お前はムラマサを探せ」
言われるまでも無く、シノブはそうした。
感知能力を使ってそれらしいものを探す。
まず調べるべきは細長いケース、それが無ければ箱をかたっぱしから調べるしか無い。
が、幸運にも、一目でわかるほどにそれらしいものが部屋の奥にあった。
壁際に配置されたショーケース。その中に細長いものがある。
シノブがそれを照らすと、そこには目的のものがあった。
刀だ。鞘に入れられた状態でケースの中にある。
ケースに歩み寄り、ヴィーがやったのと同じように手を当てる。
鍵はかかってない。警報装置などの仕掛けも無い。
それを確認すると同時にシノブはケースを開け、刀を手に取った。
少し抜き、刀身に魔力を流して反応を調べる。
すると、ヴィーが声をかけてきた。
「どうだ? ムラマサか?」
シノブは答えた。
「……妖刀ではありますが、断じてムラマサでは無いですね」
「そうか。ハズレだったか」
瞬間、シノブは違和感を抱いた。
まるで、ヴィーはこれがムラマサでは無いことを最初から知っていたかのような。
ヴィーの返事から、そんな感覚を覚えた。
シノブはそれについて聞き返そうとしたが、
「!?」
直後、シノブは気付いた。
(数多くの気配が高速で近づいてくる!)
しかも囲まれている!
だがまだ距離がある。今すぐに逃げ出せば包囲の隙間を突破できる。
シノブはそれを声に出そうとしたが、それよりも先にヴィーが口を開いた。
「逃げようとするな。そんなことをしても疲れるだけだ。心配しなくていい。『今回は問題無い』。じっとしていろ」
言いながらヴィーは両手を上げ、捕まる準備をととのえた。
しかしそうは言われてもシノブの焦りは消えない。
どうする? この男を信用していいのか?
そう迷っているうちに、ドアから声が響いた。
「軍警察だ! 開けろ!」
その声の直後にドアは蹴破られ、軍警察達が部屋になだれこんできた。
ヴィーは無抵抗のまま捕まり、やむを得ずシノブも同じようにした。
そして拘束される時、ヴィーは軍警察に対して言った。小さな声だったがシノブは聞き逃さなかった。
「左の壁際にある大きな木箱の中だ」
どういうことだ?
わたしはハメられたのか?
いや、というよりも何かのダシに使われた? そんな気がする。
その真実を尋ねることなどできるはずもなく、シノブはヴィーと一緒に警察に連行されることになった。
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