クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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中等部編

第十話 突然のニンジャ!(6)

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   ◆◆◆

 目的の美術館は隣町にあった。
 シノブとヴィーの足であれば列車を待たずとも走ったほうが早い距離。急ぎであったため、二人はそのようにして現場に到着した。
 少し離れた屋根の上から様子をうかがう。
 そして双眼鏡であるものを見つけたシノブは口を開いた。

「上空を鳥型の精霊が巡回してますね」

 ヴィーは双眼鏡を使っていないが、事前にその存在を知っていたため即座に答えた。

「警備の精霊だ。全体を薄く広く監視する精霊を中心に、指向性を高めた複数の精霊が周囲を巡回している」

 ヴィーが言った通り、精霊はそのように配置されていた。
 それを遠目に見ながらヴィーはシノブに尋ねた。

「どう攻める?」

 シノブは即答した。

「まずは全体を監視している中央の精霊を気付かれずに制圧し、続けて他の精霊を速攻します」
「具体的にはどうやって?」
「幸いなことに、上空には通信用の精霊が多く頻繁に飛び交っています。それに紛れ込ませれば接近は容易でしょう」

 この答えに、ヴィーは満足した表情で口を開いた。

「定番であり、模範的な回答だ。新鮮さと面白みに欠けるやり方だが、さすがと言っておこう」  

 それは少しひねくれた称賛の言葉であったが、シノブはまったく嬉しがること無く、言葉を返した。

「ですが問題がまだ残っています。確実に内部にも警備の精霊が配置されているでしょう。そして恐らく、いや、これも確実に、内部の精霊は外にいる精霊とリンクしているはず。同時に制圧する必要があります」

 それについての対処法をヴィーはすでにいくつか考えていた。だからヴィーは即答した。

「まだ閉店までに少し時間がある。だから客として堂々と侵入して内部から工作すればいい。それは俺が一人でやる。制服のお前は目立つからここで待っていろ」

 そう言うと同時にヴィーは屋根から飛び降り、美術館へと向かっていった。

   ◆◆◆

 ヴィーの仕事は早く、入ってから出てくるまで10分もかからなかった。 
 シノブもその10分の間に準備をすませていた。
 だからヴィーは戻ってくると同時に口を開いた。

「よし、やるぞ。タイミングはお前に任せる。俺は合わせるから、好きなタイミングでいけ」

 言われたシノブは即座に始めた。
 複数の鳥型の精霊を飛ばし、一般の精霊の群れの中にまぎれこませる。
 そして警備の真上を通過する直前、バランスを崩したように見せかけながら、急降下させた。
 事故を装う形で警備と衝突。
 接触と同時に攻撃を開始。
 それは瞬時に終わった。
 二羽の鳥型の精霊は融合して一羽となり、そして主導権をシノブが握った。
 周囲に旋回している他の警備も同じように制圧。
 シノブの仕事は完璧だった。
 あとは、ヴィー先生の仕事がどうなったか。
 それを尋ねるより早く、ヴィーは答えた。

「よくやった。こっちも終わった」

 言葉通り、警報が鳴る気配は無かった。
 その事実にシノブが心の中で胸を撫で下ろすと、ヴィーは再び口を開いた。

「潜入は夜だ。人の気配が無くなるまでここで待つぞ」
 
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