上 下
93 / 120
中等部編

第十話 突然のニンジャ!(2)

しおりを挟む

   ◆◆◆

 師の客人はシノブだけでは無かった。そしてすでにその客人は来ていた。
 師が客室に入ると、そこには精悍(せいかん)な男が座って待っていた。
 男は師が部屋に入ってくると同時に、声を響かせた。

「よろこんでおりましたな。必死に感情を隠していたところが微笑ましい」

 そう言いながら男が笑みを作ると、習うように師も笑みを浮かべた。
 師はその笑みのまま口を開いた。

「喜びのあまり、根を詰め過ぎられては困るがな」
 
 これに、男は笑みをそのままに言った。

「師匠もお人が悪い。そう思うのであれば、これは任務では無く本当は休暇のようなものであると正直に言ってやればよろしいではありませんか」

 師は首を振った。

「それはさすがに、な。この老いた身にもまだ面目というものがある」

 師は男から視線を外し、遠くを見るような目で言葉を続けた。

「この国の中ではあやつはどこにいても忍びの者。だが、外国では違う。外であれば、あやつは年頃の少女らしく過ごすことができる」

 師は男のほうに視線を戻し、さらに言った。

「しかし皮肉なものよ。神はあやつに忍びとしての才能を授けていた。それが無ければ……せめて凡才であれば、普通の女として生きる道を選ばせることもできたのだが」

 その言葉からは師と弟子以上の深いつながりを感じられた。
 だから男は進言した。

「それほどまでに思ってらっしゃるのであれば、あなたが実の父親であることをシノブに明かしてみては? きっとよろこびますよ。今回以上に」

 今回以上によろこぶ、その言葉に心を揺らされながら師は答えた。

「それは……ふむ……そうだな、それが正しいのかもしれぬ。だが、まだはやい。いずれ、な」

 しかしその揺れは決断にいたるほどでは無かった。

   ◆◆◆

 そしてシノブは船に乗り、遠く海を渡ってアイリス達がいる国へとたどりついた。
 師から言われた通りにバンセツと顔合わせをし、今後どうすればいいのかについて話を聞く。
 数日ほどバンセツの家で寝泊まりしたあと、シノブは学園の寮に入ることになった。
 バンセツの手筈は良くできていたらしく、キーラ学園長との面談も問題無く終わった。
 そして学園での新生活が始まる前日、シノブは高い屋根の上に登って街を見渡した。
 立派な街だ。活気に満ちている。そう思った。
 ゆえにか、夕焼けに照らされる街並みがより美しいものに感じられる。
 ……おっといけない。わたしは任務のためにこの街に滞在するのだから。余計な感情を抱くべきでは無い。
 ……でもキレイだな~。ちょっとくらい見とれてもいいよね?

「にゃ~ん」

 ん? いつの間にかネコがとなりに。
 野良ネコ? それにしては人懐っこいなあ。
 ちょっとなでてみよう。
 ……う~ん、いいなあ。適度なモフモフ感だあ。ずっとなでていられるなあ。
 ……おっといけない。忍者たるものいかなるときも――まあ、今はいいか。今は例外!
 ネコをナデナデしながら街の奥に沈んでいく夕日をながめる。
 ……いいなあ。日が沈むまでこうしてようかなあ。あ、もしかしたら星空もキレイかも。
 シノブがそんなことを考えた直後、

「おねえちゃん、ニンジャなの?」

 となりのネコがしゃべった。

「はうあ!」

 忍者にあるまじき驚きの声と共に視線を向けると、いつの間にかネコはいなくなっており、かわりに少女(ルナ)がなでられていた。
 え? 変わり身の術? 
 いつ入れ替わったのかまったくわからなかったシノブは言葉を失った。そんなシノブにルナは再び尋ねた。

「ねえねえニンジャなの? あ、ナデナデはそのままつづけてもらっていいですか?」

 シノブはナデナデしながら考えた。
 忍者であることが一般人にバレた! 油断したやってしまった!
 どうしよう!
 えーーーっと、ん-ーーーっと、うん、とりあえず逃げよう!
 決断と同時にシノブは脱兎のごとく逃げ出した。
 屋根から屋根へ飛び移り、流れる影のように走り続ける。
 が、

「あ、おいかけっこする? じゃあわたしがオニね!」

 ちっちゃい子は余裕な感じでついてきていた。
 なんだこの子は?! この国の子供はこんなに身体能力が高いの!?
 なんとか振り切らないと! 顔は見られたけど、子供だから発言力は低いはず。わたしのことを親に話されても真面目に相手はされないだろう。逃げ切ればこの失態はチャラにできる!
 シノブはそう信じて己の足に活を入れた。

 結局、ルナが飽きてやめるまでシノブは走り続けることになった。終わるころには日が昇り始めていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...