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中等部編
第十話 突然のニンジャ!(2)
しおりを挟む◆◆◆
師の客人はシノブだけでは無かった。そしてすでにその客人は来ていた。
師が客室に入ると、そこには精悍(せいかん)な男が座って待っていた。
男は師が部屋に入ってくると同時に、声を響かせた。
「よろこんでおりましたな。必死に感情を隠していたところが微笑ましい」
そう言いながら男が笑みを作ると、習うように師も笑みを浮かべた。
師はその笑みのまま口を開いた。
「喜びのあまり、根を詰め過ぎられては困るがな」
これに、男は笑みをそのままに言った。
「師匠もお人が悪い。そう思うのであれば、これは任務では無く本当は休暇のようなものであると正直に言ってやればよろしいではありませんか」
師は首を振った。
「それはさすがに、な。この老いた身にもまだ面目というものがある」
師は男から視線を外し、遠くを見るような目で言葉を続けた。
「この国の中ではあやつはどこにいても忍びの者。だが、外国では違う。外であれば、あやつは年頃の少女らしく過ごすことができる」
師は男のほうに視線を戻し、さらに言った。
「しかし皮肉なものよ。神はあやつに忍びとしての才能を授けていた。それが無ければ……せめて凡才であれば、普通の女として生きる道を選ばせることもできたのだが」
その言葉からは師と弟子以上の深いつながりを感じられた。
だから男は進言した。
「それほどまでに思ってらっしゃるのであれば、あなたが実の父親であることをシノブに明かしてみては? きっとよろこびますよ。今回以上に」
今回以上によろこぶ、その言葉に心を揺らされながら師は答えた。
「それは……ふむ……そうだな、それが正しいのかもしれぬ。だが、まだはやい。いずれ、な」
しかしその揺れは決断にいたるほどでは無かった。
◆◆◆
そしてシノブは船に乗り、遠く海を渡ってアイリス達がいる国へとたどりついた。
師から言われた通りにバンセツと顔合わせをし、今後どうすればいいのかについて話を聞く。
数日ほどバンセツの家で寝泊まりしたあと、シノブは学園の寮に入ることになった。
バンセツの手筈は良くできていたらしく、キーラ学園長との面談も問題無く終わった。
そして学園での新生活が始まる前日、シノブは高い屋根の上に登って街を見渡した。
立派な街だ。活気に満ちている。そう思った。
ゆえにか、夕焼けに照らされる街並みがより美しいものに感じられる。
……おっといけない。わたしは任務のためにこの街に滞在するのだから。余計な感情を抱くべきでは無い。
……でもキレイだな~。ちょっとくらい見とれてもいいよね?
「にゃ~ん」
ん? いつの間にかネコがとなりに。
野良ネコ? それにしては人懐っこいなあ。
ちょっとなでてみよう。
……う~ん、いいなあ。適度なモフモフ感だあ。ずっとなでていられるなあ。
……おっといけない。忍者たるものいかなるときも――まあ、今はいいか。今は例外!
ネコをナデナデしながら街の奥に沈んでいく夕日をながめる。
……いいなあ。日が沈むまでこうしてようかなあ。あ、もしかしたら星空もキレイかも。
シノブがそんなことを考えた直後、
「おねえちゃん、ニンジャなの?」
となりのネコがしゃべった。
「はうあ!」
忍者にあるまじき驚きの声と共に視線を向けると、いつの間にかネコはいなくなっており、かわりに少女(ルナ)がなでられていた。
え? 変わり身の術?
いつ入れ替わったのかまったくわからなかったシノブは言葉を失った。そんなシノブにルナは再び尋ねた。
「ねえねえニンジャなの? あ、ナデナデはそのままつづけてもらっていいですか?」
シノブはナデナデしながら考えた。
忍者であることが一般人にバレた! 油断したやってしまった!
どうしよう!
えーーーっと、ん-ーーーっと、うん、とりあえず逃げよう!
決断と同時にシノブは脱兎のごとく逃げ出した。
屋根から屋根へ飛び移り、流れる影のように走り続ける。
が、
「あ、おいかけっこする? じゃあわたしがオニね!」
ちっちゃい子は余裕な感じでついてきていた。
なんだこの子は?! この国の子供はこんなに身体能力が高いの!?
なんとか振り切らないと! 顔は見られたけど、子供だから発言力は低いはず。わたしのことを親に話されても真面目に相手はされないだろう。逃げ切ればこの失態はチャラにできる!
シノブはそう信じて己の足に活を入れた。
結局、ルナが飽きてやめるまでシノブは走り続けることになった。終わるころには日が昇り始めていた。
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