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中等部編
第十話 突然のニンジャ!(1)
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◆◆◆
第十話 突然のニンジャ!
◆◆◆
時は遡り、アイリスがまだブルーンヒルデの島で暮らしていたころ。
はるか東方の島国にその少女の姿はあった。
名は志乃舞と書いてシノブ。
明るく快活な性格。その点ではアイリスと似ている。
しかし彼女の家柄はまったく違っていた。
忍者と呼ばれる特殊な家に彼女は生まれた。
スパイなどの隠密活動や工作活動を主な仕事とする者、それが忍者。
ゆえに彼女は幼い頃から特殊な教育を受けてきた。
礼儀作法から始まり、話術や感知を含めた読心術など、相手の心を誘導し掌握する術を学んできた。
そして教育は隠密や工作に関することだけでは無かった。実戦的な戦闘訓練もあった。
身体能力を鍛えるために野山を駆け巡り、道場で剣を学び、射撃場で銃の扱い方を習得した。パワーアーマーも既に乗りこなせている。
特殊な境遇にあるゆえに、彼女の本来の明るさは表に出ない。
少女は自分の心を殺してきた。それが忍びの者の正しき心構えであると教わってきたからだ。
少女はその教えがキライでは無かった。少女は幼いながらも自らの家に誇りをもっていた。
刃の下に心と書いて忍。自分もその字にふさわしい者になりたい、そう思っていた。
そんな彼女にある日、師から呼び出しがかかった。
なんだろう? 訓練でなにか失敗しただろうか? それとも――
シノブが不安と期待をめぐらせながら道場におもむくと、師は笑顔で待っていた。
薄く笑っている。ということはもしかして――
シノブの予想は正解だった。師はシノブが期待した通りの言葉を響かせた。
「シノブよ、お前に初の任務を与える」
その言葉にシノブは満面の笑みを浮かべそうになったが、瞬時に心を殺して尋ねた。
「任務の内容はどのような?」
師は表情から笑みを消しながら答えた。
「情報収集だ。ある国の学園にもぐりこんでもらう。学生としてふるまいながら、周辺国の軍事力のパワーバランスと政治状況を調べてほしい」
シノブが頷きを返すと、師は言葉を続けた。
「現地に着いたらバンセツという男を訪ねるがよい。学園の近くで水鏡流の道場を開いている男だ。その男が入学の手配などの準備をしてくれている」
バンセツ……聞いたことがある名前だ。たしか、若くして水鏡流の奥義を極めたという。剣聖とも互角以上に戦ったというウワサがある。
シノブはバンセツに関する記憶をさらに探ろうとしたが、師はそれをさえぎるように言葉を響かせた。
「以上だ。子細は追って通達する。そしてこれより通常の訓練は休みとする。任務の準備に専念せよ」
これに対し、シノブは一礼してその場から鋭く忍者らしく立ち去った。
その足取りは軽かった。ルンルンだった。忍者らしくなかった。
でも仕方のないことであった。まだ子供なのもあるが、なによりも理由として大きいのは任務を与えられたからだ。それは忍者の世界では一人前として認められることと同義なのであった。
第十話 突然のニンジャ!
◆◆◆
時は遡り、アイリスがまだブルーンヒルデの島で暮らしていたころ。
はるか東方の島国にその少女の姿はあった。
名は志乃舞と書いてシノブ。
明るく快活な性格。その点ではアイリスと似ている。
しかし彼女の家柄はまったく違っていた。
忍者と呼ばれる特殊な家に彼女は生まれた。
スパイなどの隠密活動や工作活動を主な仕事とする者、それが忍者。
ゆえに彼女は幼い頃から特殊な教育を受けてきた。
礼儀作法から始まり、話術や感知を含めた読心術など、相手の心を誘導し掌握する術を学んできた。
そして教育は隠密や工作に関することだけでは無かった。実戦的な戦闘訓練もあった。
身体能力を鍛えるために野山を駆け巡り、道場で剣を学び、射撃場で銃の扱い方を習得した。パワーアーマーも既に乗りこなせている。
特殊な境遇にあるゆえに、彼女の本来の明るさは表に出ない。
少女は自分の心を殺してきた。それが忍びの者の正しき心構えであると教わってきたからだ。
少女はその教えがキライでは無かった。少女は幼いながらも自らの家に誇りをもっていた。
刃の下に心と書いて忍。自分もその字にふさわしい者になりたい、そう思っていた。
そんな彼女にある日、師から呼び出しがかかった。
なんだろう? 訓練でなにか失敗しただろうか? それとも――
シノブが不安と期待をめぐらせながら道場におもむくと、師は笑顔で待っていた。
薄く笑っている。ということはもしかして――
シノブの予想は正解だった。師はシノブが期待した通りの言葉を響かせた。
「シノブよ、お前に初の任務を与える」
その言葉にシノブは満面の笑みを浮かべそうになったが、瞬時に心を殺して尋ねた。
「任務の内容はどのような?」
師は表情から笑みを消しながら答えた。
「情報収集だ。ある国の学園にもぐりこんでもらう。学生としてふるまいながら、周辺国の軍事力のパワーバランスと政治状況を調べてほしい」
シノブが頷きを返すと、師は言葉を続けた。
「現地に着いたらバンセツという男を訪ねるがよい。学園の近くで水鏡流の道場を開いている男だ。その男が入学の手配などの準備をしてくれている」
バンセツ……聞いたことがある名前だ。たしか、若くして水鏡流の奥義を極めたという。剣聖とも互角以上に戦ったというウワサがある。
シノブはバンセツに関する記憶をさらに探ろうとしたが、師はそれをさえぎるように言葉を響かせた。
「以上だ。子細は追って通達する。そしてこれより通常の訓練は休みとする。任務の準備に専念せよ」
これに対し、シノブは一礼してその場から鋭く忍者らしく立ち去った。
その足取りは軽かった。ルンルンだった。忍者らしくなかった。
でも仕方のないことであった。まだ子供なのもあるが、なによりも理由として大きいのは任務を与えられたからだ。それは忍者の世界では一人前として認められることと同義なのであった。
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