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中等部編
第九話 ちっちゃくてかわいくてうわつよい(11)
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それはすごく続きが気になる出会いに感じられた。
あの怪物の種がこの星に降り立った、その言葉が不安感を煽るからだろう。物語性が強い。
顔のわからない人はわたしの好奇心に応えるように言葉を続けてくれた。
“出会ってからしばらくは問題は起きなかった。彼らは侵略者のようには振舞わなかった。だが、それは時間の問題だった。わたしの望みと彼らの望みはあまりに違いすぎた。いつかぶつかり合うことになるのは明らかだった”
肉の神々の望みはなんとなく予想がつく。
でもこの人の望みはなんなんだろう?
残念ながらわたしのこの疑問に答えは返ってこず、顔のわからない人は物語を先へ進めた。
“だからわたしはその準備を進めた。だが、私がこのような存在になってしまっているということは、私は道なかばで倒れてしまったということだろう”
え? 道なかばで倒れた? じゃあ、いまのあなたは?
顔のわからない人はその疑問に即答した。
“私は肉の神々と同じことをしたのだろう。種をばらまいたのだ。君たちの脳の中に寄生させるというやり方でね”
寄生かあ……わたしはあなたに嫌悪感を抱いたことは無いですけど、その言い方はちょっとイヤな感じだなあ。共生とか、そういう感じに訂正してください!
ん? ちょっと待って? ばらまいた? ということは?
わたしが気付くと、顔のわからない人はそれを言葉にして響かせた。
“そうだ。私のような存在は他にもいる。他の人間の脳内にもいるはずだ。だからキミにひとつ頼みがある”
頼み? なんでしょう? わたしが心の声で尋ねると、顔のわからない人は響かせた。
“私のような存在を探すのを手伝ってほしい。と言っても、キミになにか特別なことをやってもらうわけじゃない。近づけばそれっぽい気配がするからね。その時が来れば私がキミの体を操縦して調査を行う。その許可をほしい。もうすでにひとり目星をつけてあるんだ”
わたしの体を操縦? まあ、べつにかまいませんよ。
わたしがそう答えると、顔のわからない人は笑顔を浮かべた。感情が明るくなったのを感じたからそんな気がした。
“よかった。断られたらどうしようかと不安だったんだ。たすかるよ”
◆◆◆
翌朝――
あの夢を見たせいか、いつもよりも寝坊してしまったわたしは早歩きと駆け足の中間の速度で教室のドアを開けた。
ふう~。ギリギリセーフ。
わたしは安堵しながら自分の席へと歩み、友達といつもの挨拶を交わした。
「クラリスちゃんルナちゃん、おはよう!」
「おはよう、アイちゃん」
「アイリスおはよー」
ルナちゃんは今日もクラリスちゃんのひざの間に座っている。先生は注意しないんだよね。なんでだろう。やはりちっこいからなのか。
そして、友達との朝の挨拶を終えたわたしは席に座り、一時間目の授業の準備をしようとしたのだけど、
「……!!?」
あれ? うごけな……体の自由がきかないんですが?
あ、もしかしてこれが夢で言われたアレですか?!
どうやら正解らしく、わたしの口は勝手に動き始めた。
「ねえクラリス、お願いがあるの」
ちゃんをつけない、いつもと違う口調のわたしの言葉。
声の主はお姉ちゃんだった。気配を自分の中に感じる。
ええっと、つまり、あの顔のわからない人がお姉ちゃんに指示を出して、お姉ちゃんがわたしの体を操縦してるってこと?
なんでそんな回りくどいことを? まあ、いいけど。
そして声をかけられたクラリスちゃんはそんなわたしの異変に気付いたらしく、
「どうしたの? アイリスちゃん」
少し心配そうな顔でそう言った。
対し、お姉ちゃんはわたしの声で答えになっていない返事を返した。
「これを受け入れてほしいの」
その言葉と共に、わたしは少しの頭痛と、鼻の奥が熱くなるのを感じた。
そしてその熱さとともに、飴玉のような精霊がわたしの口から吐き出される形で出てきた。
お姉ちゃんはそれを右手の平に乗せ、クラリスちゃんに差し出した。
「え? あ、え?」
突然のことにクラリスちゃんは明らかに動揺している。
そんなクラリスちゃんにお姉ちゃんは近づき、肩に手を回して抱き寄せた。
「大丈夫。怖がらないで」
お姉ちゃんは甘いささやき声をかけながら、まるでキスしようとするかのような体勢で、飴玉のような精霊をクラリスちゃんに食べさせた。
瞬間、
「……!」
クラリスちゃんは鼻の奥に広がる熱さに、目を細めた。それが感じ取れた。
そして間も無く鈍い痛みが広がり、
「ん……!」
クラリスちゃんは短い声を響かせながらその痛みに耐えた。
なんか色っぽいなあ。
そして数秒後、クラリスちゃんはその飴玉を吐き出した。
お姉ちゃんはその吐き出された飴玉を受け取り、自分の口の中に入れた。
……ん? え? ちょっと? なにしてるの? この一連の行為には何の意味が?
いやそれよりも! よく考えたらヤバいことをしたのでは?!
落ち着いて整理してみよう!
①キスするような体勢
②口から出した飴玉をクラリスちゃんの口に入れる
③「ん……!」(色っぽい)
④クラリスちゃんが吐き出した飴玉を自分の口に戻す
いやいやいやいや、ちょっとちょっと、これはすこし、いや、かなりマズいのでは!? とんでもない誤解を生んでしまっているのでは!?? わたしの体を使ってなにしてくれちゃってるの?!
だってこれ、傍から見たら――ハッ!
瞬間、大量の視線が注がれていることにようやく気付いたわたしは振り返った。
うわあああああ! クラスのみんなからすっごい見られてる!
ドキドキした視線を向けられてる! 違います! 今のはそういうんじゃないんです! わたしにもどういう意味がある行為なのかわからなかったので説明はできませんけど!
おいそこ! なにをノートに書いてるの! そういうんじゃないから! 違うの!
「アイちゃん……?」
クラリスちゃんも胸を押さえながらドキドキした視線をわたしに向けてる。うわああああ!
そして気付けばいつの間にかブルーンヒルデ先生がもう来ている! もしかして見ていた!?
ブルーンヒルデ先生はわたしの疑問に答えた。
「えーっと、まあ、その、わたしから言うことは特になにも無いわ。恋愛は自由にすればいいと思うから。はい、じゃあ授業を始めます。ドキドキするのはわかるけど、みんな勉強に集中して」
あーーー! 誤解を晴らすチャンスも無く授業が始まってしまった! どうするのコレ! どうしたらいいの!
ちなみにあとから受けた説明によると、あの飴玉は調査のために送り込まれたものらしいです。そしてクラリスちゃんはハズレだったようです。なんじゃそりゃ! どうしてくれるのコレ!
第十話 突然のニンジャ! に続く
あの怪物の種がこの星に降り立った、その言葉が不安感を煽るからだろう。物語性が強い。
顔のわからない人はわたしの好奇心に応えるように言葉を続けてくれた。
“出会ってからしばらくは問題は起きなかった。彼らは侵略者のようには振舞わなかった。だが、それは時間の問題だった。わたしの望みと彼らの望みはあまりに違いすぎた。いつかぶつかり合うことになるのは明らかだった”
肉の神々の望みはなんとなく予想がつく。
でもこの人の望みはなんなんだろう?
残念ながらわたしのこの疑問に答えは返ってこず、顔のわからない人は物語を先へ進めた。
“だからわたしはその準備を進めた。だが、私がこのような存在になってしまっているということは、私は道なかばで倒れてしまったということだろう”
え? 道なかばで倒れた? じゃあ、いまのあなたは?
顔のわからない人はその疑問に即答した。
“私は肉の神々と同じことをしたのだろう。種をばらまいたのだ。君たちの脳の中に寄生させるというやり方でね”
寄生かあ……わたしはあなたに嫌悪感を抱いたことは無いですけど、その言い方はちょっとイヤな感じだなあ。共生とか、そういう感じに訂正してください!
ん? ちょっと待って? ばらまいた? ということは?
わたしが気付くと、顔のわからない人はそれを言葉にして響かせた。
“そうだ。私のような存在は他にもいる。他の人間の脳内にもいるはずだ。だからキミにひとつ頼みがある”
頼み? なんでしょう? わたしが心の声で尋ねると、顔のわからない人は響かせた。
“私のような存在を探すのを手伝ってほしい。と言っても、キミになにか特別なことをやってもらうわけじゃない。近づけばそれっぽい気配がするからね。その時が来れば私がキミの体を操縦して調査を行う。その許可をほしい。もうすでにひとり目星をつけてあるんだ”
わたしの体を操縦? まあ、べつにかまいませんよ。
わたしがそう答えると、顔のわからない人は笑顔を浮かべた。感情が明るくなったのを感じたからそんな気がした。
“よかった。断られたらどうしようかと不安だったんだ。たすかるよ”
◆◆◆
翌朝――
あの夢を見たせいか、いつもよりも寝坊してしまったわたしは早歩きと駆け足の中間の速度で教室のドアを開けた。
ふう~。ギリギリセーフ。
わたしは安堵しながら自分の席へと歩み、友達といつもの挨拶を交わした。
「クラリスちゃんルナちゃん、おはよう!」
「おはよう、アイちゃん」
「アイリスおはよー」
ルナちゃんは今日もクラリスちゃんのひざの間に座っている。先生は注意しないんだよね。なんでだろう。やはりちっこいからなのか。
そして、友達との朝の挨拶を終えたわたしは席に座り、一時間目の授業の準備をしようとしたのだけど、
「……!!?」
あれ? うごけな……体の自由がきかないんですが?
あ、もしかしてこれが夢で言われたアレですか?!
どうやら正解らしく、わたしの口は勝手に動き始めた。
「ねえクラリス、お願いがあるの」
ちゃんをつけない、いつもと違う口調のわたしの言葉。
声の主はお姉ちゃんだった。気配を自分の中に感じる。
ええっと、つまり、あの顔のわからない人がお姉ちゃんに指示を出して、お姉ちゃんがわたしの体を操縦してるってこと?
なんでそんな回りくどいことを? まあ、いいけど。
そして声をかけられたクラリスちゃんはそんなわたしの異変に気付いたらしく、
「どうしたの? アイリスちゃん」
少し心配そうな顔でそう言った。
対し、お姉ちゃんはわたしの声で答えになっていない返事を返した。
「これを受け入れてほしいの」
その言葉と共に、わたしは少しの頭痛と、鼻の奥が熱くなるのを感じた。
そしてその熱さとともに、飴玉のような精霊がわたしの口から吐き出される形で出てきた。
お姉ちゃんはそれを右手の平に乗せ、クラリスちゃんに差し出した。
「え? あ、え?」
突然のことにクラリスちゃんは明らかに動揺している。
そんなクラリスちゃんにお姉ちゃんは近づき、肩に手を回して抱き寄せた。
「大丈夫。怖がらないで」
お姉ちゃんは甘いささやき声をかけながら、まるでキスしようとするかのような体勢で、飴玉のような精霊をクラリスちゃんに食べさせた。
瞬間、
「……!」
クラリスちゃんは鼻の奥に広がる熱さに、目を細めた。それが感じ取れた。
そして間も無く鈍い痛みが広がり、
「ん……!」
クラリスちゃんは短い声を響かせながらその痛みに耐えた。
なんか色っぽいなあ。
そして数秒後、クラリスちゃんはその飴玉を吐き出した。
お姉ちゃんはその吐き出された飴玉を受け取り、自分の口の中に入れた。
……ん? え? ちょっと? なにしてるの? この一連の行為には何の意味が?
いやそれよりも! よく考えたらヤバいことをしたのでは?!
落ち着いて整理してみよう!
①キスするような体勢
②口から出した飴玉をクラリスちゃんの口に入れる
③「ん……!」(色っぽい)
④クラリスちゃんが吐き出した飴玉を自分の口に戻す
いやいやいやいや、ちょっとちょっと、これはすこし、いや、かなりマズいのでは!? とんでもない誤解を生んでしまっているのでは!?? わたしの体を使ってなにしてくれちゃってるの?!
だってこれ、傍から見たら――ハッ!
瞬間、大量の視線が注がれていることにようやく気付いたわたしは振り返った。
うわあああああ! クラスのみんなからすっごい見られてる!
ドキドキした視線を向けられてる! 違います! 今のはそういうんじゃないんです! わたしにもどういう意味がある行為なのかわからなかったので説明はできませんけど!
おいそこ! なにをノートに書いてるの! そういうんじゃないから! 違うの!
「アイちゃん……?」
クラリスちゃんも胸を押さえながらドキドキした視線をわたしに向けてる。うわああああ!
そして気付けばいつの間にかブルーンヒルデ先生がもう来ている! もしかして見ていた!?
ブルーンヒルデ先生はわたしの疑問に答えた。
「えーっと、まあ、その、わたしから言うことは特になにも無いわ。恋愛は自由にすればいいと思うから。はい、じゃあ授業を始めます。ドキドキするのはわかるけど、みんな勉強に集中して」
あーーー! 誤解を晴らすチャンスも無く授業が始まってしまった! どうするのコレ! どうしたらいいの!
ちなみにあとから受けた説明によると、あの飴玉は調査のために送り込まれたものらしいです。そしてクラリスちゃんはハズレだったようです。なんじゃそりゃ! どうしてくれるのコレ!
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