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中等部編

第九話 ちっちゃくてかわいくてうわつよい(2)

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   ◆◆◆

 最初に案内されたのは階段だった。
 なんで一階を最初に案内しないんだろう? そんな疑問を抱きながら階段を上り始めると、バンセツさんが口を開いた。

「中は危ないからね。だからここは上から見下ろせるようになっているんだ」

 だから二階へあがるのかあ。ん? いや、この段数は二階の高さじゃない。三階ぐらいある?
 それになんかさっきからガチャンガチャンうるさい。外を歩いているパワーアーマーさんの音も混じってるけど、これは中から響いてる。なにしてるんだろ?
 そんなことを考えながら階段を上り終えると、そこには大量の座席が並んでいた。
 まるでスポーツの観戦場だ。いや、これはまるでじゃなくてそのものと言っていいだろう。
 そしてわたしがバンセツさんに導きかれるままに手すりから下を見下ろすと、そこにはすごい光景が広がっていた。
 たくさんのパワーアーマーさん達が動き回っている。パワーアーマーさん同士がぶつかり合っている。
 そしてめちゃくちゃ広い。学園の運動場くらいある。その広さの中で、パワーアーマーが動き回っている。
 その中には、学生だけじゃなく大人の姿も見える。軍人さんの姿もある。さらにはルナちゃんと同じくらいのちっこい子供もいる。子供もちっこいパワーアーマーを着てる。
 そのことにわたしが気付くと、バンセツさんが説明のために口を開いた。

「ここではパワーアーマー操縦訓練の講習も行っている。仕事で使うには資格がいるからね。私はその指導もかけもちしている。だからここにはいろんな人がいる」

 へえ、そうなんですねえ。
 ……ん? ということはもしかして、剣術部っていうのはパワーアーマーを着てやるっていうこと?
 そのことにわたしがようやく気付くと、バンセツさんは再び口を開いた。

「ご察しのとおり、君にもパワーアーマーを着てもらう」
 
 それにはちょっと疑問が湧いた。剣の練習だけならパワーアーマーを着る必要なんて無いのでは? と思ってしまった。
 そんな割とどうでもいい疑問に対してもバンセツさんは答えてくれた。

「たしかに君が思っているとおり、剣の練習をするだけならパワーアーマーを着る必要なんて無い。これはただの私のこだわりだよ」

 こだわり? その言葉にわたしはちょっと興味を引かれた。
 その好奇心に対しても、バンセツさんは答えてくれた。

「銃が戦いの主役になっている現代では、剣は既に腰からさげるだけのお飾りになりつつある。剣術は心身を鍛えるだけのスポーツになりつつある。だがひねくれものの私は、その流れに抵抗してみたくなってしまったのさ」

   ◆◆◆

 そして次に、わたし達は体育館の裏手へと案内された。
 表の体育館もちょっと工場っぽい感じだけど、裏側は完全に工場そのものだった。
 大量のパワーアーマーが並んでおり、整備士さん達が火花を散らしながらメンテナンスをしている。
 そしてあるパワーアーマーの前で、バンセツさんは足を止めた。
 そのパワーアーマーは明らかに初心者用の練習用といった感じだった。
 全身にモコモコとしたクッションがついている。これなら転んだり衝突したりしても平気そうだ。
 でもモコモコすぎるせいで二足歩行の羊のように見えちゃう。ちょっとかわいいからいいけど。
 そのモコモコなパワーアーマーのそばで作業じている人に向かって、バンセツさんは口を開いた。

「アイザック! 今から使いたいんだが、いけるか?」

 アイザックと呼ばれた人は笑みを作りながら答えた。
 
「もうとっくに終わってますよバンセツさん。すいぶん待たされたから、サービスに磨いてたくらいです」

 待たされたのはヴィーさんのせいだろう。クラリスちゃんに誘われたの一昨日だもんね。そのころにはわたしのことを連絡していたはず。
 しかしそのおかげでピカピカである。ピカピカな羊である。
 バンセツさんもそのピカピカな仕事ぶりに満足するように頷きを返しながら口を開いた。

「ところで、予定には無かった新入部員が一人いるんだ。この子がそうなんだが、子供用のパワーアーマーはあるか?」

 バンセツさんがそう言いながらルナちゃんのことを指し示すと、アイザックさんは答えた。

「子供用のやつならあまってはいますよ。ただ、サイズが合うやつがあるかどうかはわかりませんけど」

 ならば着てみるしかない。ゆえにバンセツさんはそのようにうながした。

「じゃあルナ、君に合うパワーアーマーを一緒に探しにいこう」

 これにルナが「うん」と頷きを返すと、バンセツさんはわたしとアイザックさんに向かって口を開いた。

「じゃあアイザック、アイリスのことを頼む。パワーアーマーの装着方法を教えてやってくれ」

 アイザックさんが「わかった」と答えると、バンセツさんはルナちゃんを連れて工場の奥へと歩き始めた。
 よし。じゃあアイザックさん、よろしくお願いします。わたしはそう言おうとしたけど、それよりも先にアイザックさんがクラリスちゃんに向かって口を開いた。

「っと、先にクラリスに見せたいものがある。すまないが、アイリスは少し待ってくれ」

 言いながら、アイザックさんはとなりにある物に視線をうながした。
 そこには、シーツで覆い隠された大きな何かがあった。
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