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中等部編
第八話 ちっちゃいはかわいい。かわいいは正義。ゆえにちっちゃいは正義(2)
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神さま、わたしはいま留置所と呼ばれている部屋に入れられています。部屋っていうか牢屋です。
神さま、わたしが牢屋に入れられているのはおかしいと思います。
神さま、だからはやく助けて! 可能な限りはやく! シャバに帰りたいよお!
外はもうすっかり夜になっています。寮に門限は無いけど、さすがにこれはヤバイのでは?
クラリスちゃんはずっと涙目だ。正直、ゾクゾクします。
そんなわたしとクラリスとは対照的に、ヴィーさんは余裕そうだ。こんな状況に慣れちゃってるんですか? それは人としてどうなんですか?
そんな感じで何もできないまま時間が過ぎていたけど、足音が近づいてくるのが聞こえ始めた。
それは警察さんの気配では無かった。
だからわたしが期待感をこめた眼差しをその方向に向けると、救いの主は現れた。
ルイスさんだ! たすかった! やったあ!
わたしがキラキラした視線をルイスさんに向けると、ルイスさんは口を開いた。
「ヴィー、きみはまたやらかしたのかい……と言いたいところだが、どうやら今回は懐かしい人と一緒のようだ。オリバー、まさか君とこんなところで再会することになるとはね」
ルイスさんの視線は白衣のオジサンに注がれていた。ふーん、オリバーさんっていうんだ。
対し、オリバーさんはすぐには言葉を返さなかった。ゆえに先に口を開いたのはヴィーさんのほうであった。
「知り合いなのか?」
ルイスさんは答えた。
「うちの社員だよ。技術者として雇った。とても優秀な男だよ。だけど、『いまの世に本当に必要な技術がなにかを調べに行きたい』とかいう理由で、長期休職中になっていた男だ」
ゆえにルイスさんはオリバーさんに尋ねた。
「それで? 知りたかったことはわかったのかい?」
オリバーさんはようやく口を開いた。
「まず私をここから出してくれ。積もる話はそれからにしよう」
いい回答です! 賛成です! はやくわたし達をここから出してください!
◆◆◆
ルイスさんはオリバーさんが壊した車などの賠償金を(かなり上乗せして)払い、わたし達を釈放してくれた。
そしてルイスさんはわたし達を事前に予約しておいたホテルへと案内した。
部屋はダブルベッドが二つある広い部屋だった。高級感もある。高そう。
そして適当なルームサービスを取り、積もる話の準備を整えたルイスさんは尋ねた。
「じゃあオリバー、話してもらえるか?」
ルームサービスのシャンパンを飲みながらそう尋ねると、オリバーさんは口を開いた。
「ルイス、君は北で何が起きているか知っているか?」
ルイスさんは無難な答えを返した。
「普通の人より少し詳しいという程度には。北からの情報はめったに入ってこないからな。偵察用の精霊もすぐに撃墜されてしまう」
ふーん、危ないところなんですねえ、と、わたしはルームサービスを食べながら普通の感想を抱いた。このルームサービスのピザおいしい。もぐもぐ。
しかしオリバーさんはその答えでは満足できなかったらしく、再び尋ねた。
「もっと具体的に答えられるんじゃないか、ルイス? 中学生がいるから言葉を選んでるのか?」
言いながら、オリバーさんはわたしとクラリスちゃんのほうに視線を向けてきた。
あ、じゃあ、わたし達は廊下に出てますね。みなさんで大人な会話をどうぞごゆっくり。あ、待って! このピザ食べてから!
そう思ったわたしが爆速でピザを口にほうりこみ、リスのごとき見た目になった直後、ルイスさんは口を開いた。
「そんなつもりは無いよオリバー。この二人には知っておいてもらったほうがいいかもしれないと考えているよ。北の国で非人道的なことが日常的に行われていることは知っている」
え? そんな話ききたくないんですけど? わたしはそう抗議しようとしたが、リス状態であるゆえに何も言えなかった。
そしてオリバーさんはまだ納得できなかったらしく、さらに尋ねた。
「知っていることはそれだけか?」
――ルイスはオリバーほどでは無いが、同じ知識を共有している。
ゆえにルイスはオリバーが望む答えを知っている。オリバーがどんな人間かも含めて、オリバーが待ち望んでいる答えを理解できている。
オリバーは一言で言えばマッドサイエンティスト寸前の男だ。マッドサイエンティストになりかけのギリギリのところで踏みとどまっている男だ。
会社で開発者として従事していたころ、オリバーはいくつもの問題作を完成させた。
それは強力な精霊使い用の武器であるが、使用者にとてつもない負荷を強いるものばかりであった。ゆえに、その技術の高度さと精巧さに反し、オリバーの評価は低い。
オリバーはその評価を不満に思い、会社を飛び出した。飛び出す理由はなんでもよかったのだ。そのなんでもいいランダムに選ばれた理由によって、オリバーは旅をすることになり、北のことを知ったのだろう。
ならばオリバーが望む答えは単純だ。オリバーは大義名分がほしいのだ。過去の自分の開発の方向性が正しかったということも含めた、同意がほしいのだ。
ゆえにこの男は危険な状況に立っている。答えは慎重に選ばなければならない。この場での回答によって、オリバーの未来が決まる可能性がある。
だから中学生の二人を部屋に残した。子供はその場にいるだけで一種のブレーキとして機能するからだ。
なんにしても、この場を上手く乗り切ってもこの男は放置するには危なっかしい存在だ。我が社で管理すべきだろう。
――そんなことを考えながら、ルイスは次の言葉を選んだ。
「君が言いたいことのすべては、君がつれているその子と関係があるんだろう?」
言いながら、ルイスさんはちっちゃいかわいい子に視線を向けた。
たしかに! わたしも二人の関係が気になります!
わたしが好奇の視線を向けると、オリバーさんは答えた。
「ルナ、見せてあげなさい」
ルナと呼ばれたちっちゃい子は頷きを返し、壁のほうへ向いてわたし達に背中を向けた。
そして、オリバーさんは部屋の電気を消した。
窓から入る月の光のおかげで、かろうじてルナの後ろ姿が見える。
その暗さから勇気をもらったルナは上着を脱ぎ始めた。
見せたいものは服の下にあるの? その疑問の答えは直後に明らかになり、
「「……?!」」
わたしとクラリスは同じ驚きの表情を浮かべることになった。
見間違いかと思って目をこすってみるけども、そこにあるものは変わらない。
どういうこと?! そんな言葉をわたしが心の中で響かせると、ルイスさんが口を開いた。
「……この子は迫害されていたのか?」
オリバーさんは答えた。
「ああ、『半端者』だからな。奴隷扱いされていたのを私が保護した」
半端者、その言葉から、わたしはあるものを思い浮かべた。
彼女が半端者ならば、完全なる者がわたしの想像通りに存在するのだろうか?
このわたしの疑問の心の声に、オリバーさんは答えた。
「そうだよお嬢ちゃん。君の想像通りのものが北には存在する」
その言葉に、ルイスさんは共感の意を示すために口を開いた。
「これはとても大きな可能性を秘めた存在だ。だが、同じくらい大きな脅威も秘めている」
この言葉に、オリバーさんは視線を返した。
その視線に応えるために、ルイスさんは続けて口を開いた。
「この脅威に対して我々は準備を進めなくてはならない。……だからオリバー、会社に戻ってきてはくれないか? 君の能力が必要だ」
それは無難な回答であり、かつ、オリバーさんの望みを満たす答えでもあった。
だからオリバーさんはルイスさんが予想していた通りの言葉を返した。
「ああ、もちろんだ。そのためにわたしはここに帰ってきたのだから」
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