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中等部編
第六話 わたし、中学生です! (8)
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◆◆◆
クラリスは見た目通りの人だった。
礼儀正しい、模範的なお嬢様という感じ。
この子がひとりぼっちだった理由は察しがつく。近づきがたかったからだろう。別世界の住人、孤高の花、そんな印象しか受けない。
午後の休み時間もそんなクラリスと過ごした。
話してみれば難しいことは何も無かった。クラリスはわたしの他愛無くバカバカしい話にもちゃんと耳を傾けてくれた。
そんなこんなで初日は終わった。部活動の見学をしようかなと思ったんだけど、友達作りで疲れたから今日はパス!
わたしは青春の二日目に期待をふくらませながらフカフカのベッドに入った。
この時、わたしは知る由も無かった。
あの悪魔がわたしの青春に土足で踏み入ろうとしているのを。
◆◆◆
翌朝――
わたしはクラリスと談笑しながら担任の先生の登場を待っていた。
だが、朝のホームルームの時間になっても先生は姿を現さなかった。遅刻かな? まあ、先生も人間なんだし、たまには遅刻くらいするよね。
しばらくして、先生の気配が近づいてくるのが感じ取れた。
一人では無かった。先生は誰かと並んで二人で歩いてきていた。
そして、その気配はわたしが知っているものだった。
え? なんで? その答えを考える間も無く、その人は担任の先生と一緒に教室に入ってきた。
やっぱり感じ取った通り、その人はブルーンヒルデさんだった。
え? なんで? わたしのその思いに答えるかのように、ブルーンヒルデさんは黒板の前に立って口を開いた。
「今日から新しい担任としてこのクラスを担当することになりましたブルーンヒルデです。みんな、これからよろしくね」
え?! 新しい担任?! ブルーンヒルデさんが?!
そんなわたしの驚きを感じ取ったクラリスは、小声でわたしに話しかけてきた。
「知り合いなの?」
うん、まあ、一応。わたしがそう適当に答えると、元担任の先生が口を開いた。
「短い間でしたけど、みんなとの毎日は刺激的で楽しかったです。新しい先生とも仲良く勉強に励んでくださいね?」
そう言って、元担任の先生は教室から出て行った。
その背を見送ったあと、ブルーンヒルデさんは担任としての最初の仕事を始めた。
「では、ホームルームを始めます」
◆◆◆
ずーん……
休み時間、わたしは落ち込んでいた。
ブルーンヒルデさんが担任になったことがショックだったからでは無い。あるもう一つの気配が学校内に存在することをわたしは感じ取れてしまっていたからだ。
「どうしたの? 元気が無いように見えるのだけど」
心配して声をかけてくれたクラリスに対し、わたしは答えた。
「あ、気にしないで。たぶん気のせいだと思うから」
そう、たぶんこれは気のせいなのです。わたしの感知能力の調子がおかしくなってるだけなのです。そうに決まってるのです!
わたしはそのように思い込もうとしていた。
だけど現実は残酷だった。
その気配は存在感を増しながら接近し、そして教室のドアを開けて姿を現した。
やっぱり感じ取った通り、それはヴィーさんだった。
服装が変わってる。黒っぽい皮のスーツを着ている。
そして相変わらずあちこち金ピカだ。黄金の装飾品をあちこちに着けている。
教師らしく見せるためにスーツに着替えたんでしょうけど、それならそのピカピカしたものは外すべきですよ?
わたしのそんな思いを無視するかのように、ヴィーさんは黒板の前に堂々と立って口を開いた。
「新しく物理と数学を担当することになったヴィー・エースだ」
言いながらヴィーさんは黒板にデカデカと「V・A」と書いた。
……ん? ちょっと待って? 物理?
そんな科目は中等部には無いはずなんですが……
その疑問についてわたしが手を上げるよりも早く、別の女生徒がヴィーさんに手を上げて尋ねた。
「先生、物理は高等部からでは?」
ヴィーさんは答えた。
「俺の名前がなぜVとAなのかわかるか?」
それは答えになってなかったが、ヴィーさんは勝手に言葉を続けた。
「Vは速さを、Aは加速度を表す記号として使われているからだ」
はあ、そうですか。
わたしはまったく興味が無かったが、ヴィーさんはさらに勝手に続けた。
「速さは力だ。そして物理と数学はその力を制御するための学問だ。だからお前達は物理学を学ぶ必要がある。そしてそれは早ければ早いほど良い」
え? ちょっと待って? 言葉の前後がちゃんと繋がっていないような気がするのはわたしだけ? 必要性がまったく感じられなかったんですけど?
そんなわたし達の思いもヴィーさんは無視してさらに口を開いた。
「俺のことはヴィーでもエースでも好きなほうで呼ぶといい。では物理の教科書を配るぞ」
そうして物理の授業が始まった。ちなみにわたしはチンプンカンプンでした。まったくわからないよう!
クラリスは見た目通りの人だった。
礼儀正しい、模範的なお嬢様という感じ。
この子がひとりぼっちだった理由は察しがつく。近づきがたかったからだろう。別世界の住人、孤高の花、そんな印象しか受けない。
午後の休み時間もそんなクラリスと過ごした。
話してみれば難しいことは何も無かった。クラリスはわたしの他愛無くバカバカしい話にもちゃんと耳を傾けてくれた。
そんなこんなで初日は終わった。部活動の見学をしようかなと思ったんだけど、友達作りで疲れたから今日はパス!
わたしは青春の二日目に期待をふくらませながらフカフカのベッドに入った。
この時、わたしは知る由も無かった。
あの悪魔がわたしの青春に土足で踏み入ろうとしているのを。
◆◆◆
翌朝――
わたしはクラリスと談笑しながら担任の先生の登場を待っていた。
だが、朝のホームルームの時間になっても先生は姿を現さなかった。遅刻かな? まあ、先生も人間なんだし、たまには遅刻くらいするよね。
しばらくして、先生の気配が近づいてくるのが感じ取れた。
一人では無かった。先生は誰かと並んで二人で歩いてきていた。
そして、その気配はわたしが知っているものだった。
え? なんで? その答えを考える間も無く、その人は担任の先生と一緒に教室に入ってきた。
やっぱり感じ取った通り、その人はブルーンヒルデさんだった。
え? なんで? わたしのその思いに答えるかのように、ブルーンヒルデさんは黒板の前に立って口を開いた。
「今日から新しい担任としてこのクラスを担当することになりましたブルーンヒルデです。みんな、これからよろしくね」
え?! 新しい担任?! ブルーンヒルデさんが?!
そんなわたしの驚きを感じ取ったクラリスは、小声でわたしに話しかけてきた。
「知り合いなの?」
うん、まあ、一応。わたしがそう適当に答えると、元担任の先生が口を開いた。
「短い間でしたけど、みんなとの毎日は刺激的で楽しかったです。新しい先生とも仲良く勉強に励んでくださいね?」
そう言って、元担任の先生は教室から出て行った。
その背を見送ったあと、ブルーンヒルデさんは担任としての最初の仕事を始めた。
「では、ホームルームを始めます」
◆◆◆
ずーん……
休み時間、わたしは落ち込んでいた。
ブルーンヒルデさんが担任になったことがショックだったからでは無い。あるもう一つの気配が学校内に存在することをわたしは感じ取れてしまっていたからだ。
「どうしたの? 元気が無いように見えるのだけど」
心配して声をかけてくれたクラリスに対し、わたしは答えた。
「あ、気にしないで。たぶん気のせいだと思うから」
そう、たぶんこれは気のせいなのです。わたしの感知能力の調子がおかしくなってるだけなのです。そうに決まってるのです!
わたしはそのように思い込もうとしていた。
だけど現実は残酷だった。
その気配は存在感を増しながら接近し、そして教室のドアを開けて姿を現した。
やっぱり感じ取った通り、それはヴィーさんだった。
服装が変わってる。黒っぽい皮のスーツを着ている。
そして相変わらずあちこち金ピカだ。黄金の装飾品をあちこちに着けている。
教師らしく見せるためにスーツに着替えたんでしょうけど、それならそのピカピカしたものは外すべきですよ?
わたしのそんな思いを無視するかのように、ヴィーさんは黒板の前に堂々と立って口を開いた。
「新しく物理と数学を担当することになったヴィー・エースだ」
言いながらヴィーさんは黒板にデカデカと「V・A」と書いた。
……ん? ちょっと待って? 物理?
そんな科目は中等部には無いはずなんですが……
その疑問についてわたしが手を上げるよりも早く、別の女生徒がヴィーさんに手を上げて尋ねた。
「先生、物理は高等部からでは?」
ヴィーさんは答えた。
「俺の名前がなぜVとAなのかわかるか?」
それは答えになってなかったが、ヴィーさんは勝手に言葉を続けた。
「Vは速さを、Aは加速度を表す記号として使われているからだ」
はあ、そうですか。
わたしはまったく興味が無かったが、ヴィーさんはさらに勝手に続けた。
「速さは力だ。そして物理と数学はその力を制御するための学問だ。だからお前達は物理学を学ぶ必要がある。そしてそれは早ければ早いほど良い」
え? ちょっと待って? 言葉の前後がちゃんと繋がっていないような気がするのはわたしだけ? 必要性がまったく感じられなかったんですけど?
そんなわたし達の思いもヴィーさんは無視してさらに口を開いた。
「俺のことはヴィーでもエースでも好きなほうで呼ぶといい。では物理の教科書を配るぞ」
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