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第五話 わたし、島を出ます! (20)

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「なあ、お前は昔のことをまだ覚えているか?」

 ブルーンヒルデは正直めんどくさかったが、その話に付き合ってあげることにした。

「なに? 昔話がしたくなったの?」
「まあ、そんなところだ」
「昔ってどれくらい昔?」
「故郷のことは覚えているか?」

 ブルーンヒルデは少し考えてから答えた。

「……あそこは故郷じゃ無いわよ。そんな気持ちはまったく無い。それについてはあなただって同じでしょう? わたし達にとって故郷と呼べる場所はあまりにも遠すぎる。そしてあの場所については、はっきりとは思い出せない」

 ヴィーは「ああ、そうだな」と返したあと、再び尋ねた。

「もし可能ならば、里帰りしたいと思うか?」

 ブルーンヒルデは首を振った。

「全然。ここの居心地は悪くない。なにより、この星で人間と呼ばれているこの種はとても大きな可能性を秘めている。それを捨てて離れる気にはなれない」

 まったく同意見であったゆえに、ヴィーは「まあ、そうだよな」と相槌を打った。
 そしてヴィーも少し考えたあと、再び口を開いた。

「なあ、もしも親……と言っていいのかな? かつての本体と再会できたらどうなると思う?」
「もしもの話が多いわね」
「たまにはいいだろう?」
「……そうねえ。間違い無く、仲良くはなれないと思うわ」

 まったく同意見であったゆえに、ヴィーは再び同じ言葉を返した。

「まあ、そうだよなあ。そうなって当然だ。まったく違うこの環境で、まったく違う進化を歩んでいる俺達は、もはやかつての本体とは別物と呼べる存在になってしまった」

 そう言ったあと、ヴィ―の口は閉じてしまった。
 何かを考えこんでいるようであった。
 だからブルーンヒルデはこの会話を終わりにすることにした。

「じゃあ、わたしの夜更かしはこれで終わりとさせてもらうわよ。……あなたはまだ寝ないの?」

 ヴィーは頷いてから答えた。

「もう少し考えてからにする」

 この夜、ヴィーがベッドに戻ることは無かった。

   ◆◆◆

 わたしが目を覚ますと、窓の外に流れる景色は一変していた。
 森や山の景色じゃない。窓の外にはキレイな街の景色が流れていた。
 わたしがその知らない街並みに釘付けになっていると、ヴィーさんが口を開いた。

「もうすぐ着くぞ」

 その言葉にわたしのワクワクはさらに強くなったけど、よく考えたら大事なことを知らなかったので、それを尋ねた。

「そういえばまだ聞いてませんでしたけど、どこに向かってるんです?」

 だけどヴィーさんはちょっとイジワルだった。

「窓から見えたら教えてやる。もうすぐだ」

 わたしがイジワルにめげずに窓の外を見続けていると、特徴的なものが目に映った。
 大きいお城だ。
 中世のものっぽい雰囲気。
 だけどキラキラはしていない。古いお城だなあ、という感想のほうが強い。
 そのお城を指して、ヴィーさんは言った。

「あれがそうだ。誰でも知ってる名門中の名門、キーラ魔法学園だ」

   第六話 わたし、中学生です! に続く
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