クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
52 / 120

第五話 わたし、島を出ます! (17)

しおりを挟む

   ◆◆◆

 わたしは夢を見ていた。
 夢の舞台は、すでに少し懐かしくなりつつある実家。
 そこでわたしはごはんを食べていた。
 パンと大きなハンバーグ、そしてコーンポタージュとサラダ。
 わたしの大好きな組み合わせだ。
 ナイフとフォークを使って口に運ぶ。
 ……うん、よく知っている味だ。お母さんの味だ。
 すごくおいしい。
 そして心地良い。
 この心地良さはおいしいものを食べているからだけじゃない。
 部屋全体が薄青く照らされている。台所の窓から光が差し込んでいるのを感じる。
 暖かい。そして幻想的。
 だからわたしは台所に視線を向けた。
 そこには人影があった。
 窓から差し込む薄青い日差しを背負っているせいか、人影の輪郭はぼやけており、はっきりとしない。
 奇妙なことに、窓の外は真っ白。そこにあるはずの景色は見えない。
 しかしそのことよりもわたしは人影のほうが気になった。
 台所にいるのはお母さんだと思い込んでいた。
 だけど、そのぼやけた輪郭はお母さんのものとは違う気がする――わたしがそう思った瞬間、その人影は声を響かせた。

「この台所は良い。使っていた人の性格を感じ取れる。清潔でキレイに整理されていて、よく使うものは手近なところにまとめられている」

 その声は男のものだった。知らない声だった。だからわたしはこれが夢だと気付いた。
 そしてその声を聞いた瞬間、わたしは奇妙な感覚に襲われた。
 その人に向かって頭を下げなければいけないような、ひざまずかなければならないような、強い敬意のような感覚。
 同時に別のものが胸の奥からあふれてくる。
 その人に対して強い親しみを感じる。家族に対して抱くものよりも強い。圧倒的な父性、いや、これは母性?
 身体が勝手に動き、自然とイスから立ちあがる。
 そしてわたしが頭を下げようとすると、その人は手の平を向けてわたしの行動を制止した。

「ここは君の家だ。楽にしてくれ」

 その声に、わたしは目の奥が熱くなるのを感じた。
 なんだかわからないけど、あまりの感情の強さに泣いてしまいそう。
 これは何?
 わたしは精霊による攻撃だと思った。
 だったらガードしなくちゃ。でも夢の中でどうやって?
 そんなことを考えた直後、その人は再び声を響かせた。
 
「すまない。突然のことで警戒させてしまったようだね。君の前に姿を現したのは、君にひとつ頼みごとがあるからなんだ」

 たのみごと? なんだかわからないけれど、断る気になれなかったわたしは頷きを返した。
 すると、

「では、ついてきてくれ」

 と、その人は言って、廊下へと歩き出した。
 廊下は窓から差し込んでいるのと同じ光で照らされていた。
 というより、真っ白だった。
 廊下の先がまったく見えない。
 男の人は、躊躇なくその光の中に入っていった。
 大丈夫なのかな? わたしは一瞬そう思ったけど、ここに残っていてもしょうがないので、勇気を出して光の中へと足を踏み入れた。
  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア
ファンタジー
お料理や世話焼きおかんなお姫様シャルロット✖️超箱入り?な深窓のイケメン王子様グレース✖️溺愛わんこ系オオカミの精霊クロウ(時々チワワ)の魔法と精霊とグルメファンタジー プリンが大好きな白ウサギの獣人美少年護衛騎士キャロル、自分のレストランを持つことを夢見る公爵令息ユハなど、[美味しいゴハン]を通してココロが繋がる、ハートウォーミング♫ストーリーです☆ エブリスタでも掲載中 https://estar.jp/novels/25573975

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...