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第五話 わたし、島を出ます! (17)

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   ◆◆◆

 わたしは夢を見ていた。
 夢の舞台は、すでに少し懐かしくなりつつある実家。
 そこでわたしはごはんを食べていた。
 パンと大きなハンバーグ、そしてコーンポタージュとサラダ。
 わたしの大好きな組み合わせだ。
 ナイフとフォークを使って口に運ぶ。
 ……うん、よく知っている味だ。お母さんの味だ。
 すごくおいしい。
 そして心地良い。
 この心地良さはおいしいものを食べているからだけじゃない。
 部屋全体が薄青く照らされている。台所の窓から光が差し込んでいるのを感じる。
 暖かい。そして幻想的。
 だからわたしは台所に視線を向けた。
 そこには人影があった。
 窓から差し込む薄青い日差しを背負っているせいか、人影の輪郭はぼやけており、はっきりとしない。
 奇妙なことに、窓の外は真っ白。そこにあるはずの景色は見えない。
 しかしそのことよりもわたしは人影のほうが気になった。
 台所にいるのはお母さんだと思い込んでいた。
 だけど、そのぼやけた輪郭はお母さんのものとは違う気がする――わたしがそう思った瞬間、その人影は声を響かせた。

「この台所は良い。使っていた人の性格を感じ取れる。清潔でキレイに整理されていて、よく使うものは手近なところにまとめられている」

 その声は男のものだった。知らない声だった。だからわたしはこれが夢だと気付いた。
 そしてその声を聞いた瞬間、わたしは奇妙な感覚に襲われた。
 その人に向かって頭を下げなければいけないような、ひざまずかなければならないような、強い敬意のような感覚。
 同時に別のものが胸の奥からあふれてくる。
 その人に対して強い親しみを感じる。家族に対して抱くものよりも強い。圧倒的な父性、いや、これは母性?
 身体が勝手に動き、自然とイスから立ちあがる。
 そしてわたしが頭を下げようとすると、その人は手の平を向けてわたしの行動を制止した。

「ここは君の家だ。楽にしてくれ」

 その声に、わたしは目の奥が熱くなるのを感じた。
 なんだかわからないけど、あまりの感情の強さに泣いてしまいそう。
 これは何?
 わたしは精霊による攻撃だと思った。
 だったらガードしなくちゃ。でも夢の中でどうやって?
 そんなことを考えた直後、その人は再び声を響かせた。
 
「すまない。突然のことで警戒させてしまったようだね。君の前に姿を現したのは、君にひとつ頼みごとがあるからなんだ」

 たのみごと? なんだかわからないけれど、断る気になれなかったわたしは頷きを返した。
 すると、

「では、ついてきてくれ」

 と、その人は言って、廊下へと歩き出した。
 廊下は窓から差し込んでいるのと同じ光で照らされていた。
 というより、真っ白だった。
 廊下の先がまったく見えない。
 男の人は、躊躇なくその光の中に入っていった。
 大丈夫なのかな? わたしは一瞬そう思ったけど、ここに残っていてもしょうがないので、勇気を出して光の中へと足を踏み入れた。
  
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