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第五話 わたし、島を出ます! (16)

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   ◆◆◆

 船から降りたあとは、ルイスさんと別れて列車による移動となった。
 わたしは列車の個室で一日を過ごすことになった。こんなに長く列車に乗ることになったのは初めて。
 旅のお供はヴィーさんとブルーンヒルデさんと軍人さん達。ヴィーさんとブルーンヒルデさんとは同じ部屋だ。
 ヴィーさんは帽子を深くかぶってずっと目を閉じてる。ブルーンヒルデさんは持ち込んだ本をずっと読んでる。
 でもわたしは感じ取れた。ヴィーさんは寝てないし、ブルーンヒルデさんの意識は本に向いていない。
 二人ともずっと周囲を警戒してる。二人ともわたしの護衛のために同行しているのだ。
 だから遊び相手にも話し相手にもなってくれない。でも退屈じゃ無かった。窓の外に流れる景色を見ているだけでワクワクした。
 それに食堂車のごはんもおいしかった。列車に食堂があるなんてスゴイ。
 二段ベッドは狭くて、寝心地が良いものではなかったけど、そんなマイナス点は軽くチャラになるくらいだった。
 わたしはまだ聞かされていない目的地について期待感を抱きながら目を閉じ、眠りについた。

   ◆◆◆

「……」

 ある者が動き出した気配に、ヴィーは目を覚ました。
 いや、目を覚ましたというのは正しくない。ヴィーは完全に眠っていない。半分寝て半分起きている。完全な眠りなどもう何十年も経験していない。
 そしてその者が廊下に出て、ドアが閉まる音が響いたあと、ヴィーは口を開いた。

「起きろヒルデ」

 これに、ヒルデは少し不服そうに答えた。

「起きてるわよ」

 その不服さは、面倒事が発生したことに対してなのか、熟睡しているとヴィーに思われたことに対してなのかわからなかったが、ヴィーはただ問題解決のためだけに再び口を開いた。

「追うぞ」

   ◆◆◆

 アイリスは部屋を出てすぐのところで立ち止まっていた。
 窓の外を見ている。月を見ているのか、空を見上げている。
 軍人達も既に部屋から出てきていた。
 ヴィーとヒルデ、そして軍人達とでアイリスをはさむ形になっていた。
 が、ヴィーはそれをアイリスだとは認識していなかった。
 だからヴィーは次のように尋ねた。

「お前、アイリスでは無いな?」
「……」

 アイリスの形をした何者かはちらりと視線を返したが、口を開くことはしなかった。
 だからヴィーは強く言葉をぶつけた。

「答えろ」

 さもなくば――その意を示すように、ヴィーは大太刀の鯉口を切った。
 この威圧に対し、アイリスの形をした何者かは目を閉じた。
 どう説明すべきか、それを考えているようであった。それが感じ取れた。何者かは思考を隠してはいなかった。
 そしてその思考がまとまる気配が見えたのと同時に、何者かはヴィーの方へ向き直り、視線を合わせた。
 これから中等部に入る少女のものとは思えない、包容力を感じさせる目つき。
 その優しい瞳のまま、何者かは口を開いた。

「私は――」
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