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第五話 わたし、島を出ます! (8)
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直後、変化が起きた。
背中のふくらみにある、排気口から出る蒸気の動きが変わった。
少し液体に近づいたような、粘り気を感じさせる動き。
さらに、その蒸気は魔力を含んでいるらしく、キラキラと七色に光っていた。
そして輝く蒸気の動きはさらに変化し、生物的な動きになった。
うごめくアメーバのような、明らかに周囲の流れを無視した動き。
間も無く、アメーバのような蒸気は一つの形に収束した。
それは鳥であった。
サイズ感と形状からして、ハトに見える。
ハトに見えるそれは次々と生み出され、戦士達の周りを旋回し始めた。
襲い掛かってくる敵の精霊に食らいつき、戦士達を守る。
その攻防を見ていたヴィーは、近づいてくる精霊を剣で切り刻みながらブルーンヒルデに向かって口を開いた。
「よく戦えている。悪く無い。そう思わないか?」
ブルーンヒルデは答えた。
「まあ、そうね。悪くは無い。でも、相手が弱すぎるだけかも」
その言葉を、ヴィーは戒めた。
「強い態度を取りたくなる気持ちはわかるが、あまり油断するな。あれだけの戦力を投入してきてるんだ、このまま何事も無く終わるとは思えない」
言いながら、ヴィーはアイリスがいる部屋のほうに視線を向け、再び口を開いて尋ねた。
「アイリスの部屋の周囲にも精霊を配置してあるんだよな?」
「ええ、もちろん」
「他は? ブリッジや機関室は?」
「置いてあるけど、アイリスの周囲ほどじゃ無いわね」
「……」
ブルーンヒルデの答えに、ヴィーは難しい表情を返した。
悪くは無い。しかしなぜか不安を感じる。
その理由を言葉にできないゆえに、ヴィーは沈黙しか返せなかった。
◆◆◆
わたしはみんなの戦いを感知能力と窓を利用して見ていた。
すごすぎる。激しすぎてわけがわからない。
何もかも情報量が多すぎる。
けれど、そんな激しさの中でもヴィーさんとブルーンヒルデさんは余裕を持って立ち回ってる。やっぱりこの人達はすごい。
とても頼もしい。他の兵士さん達もみんな強い。ブルーンヒルデさんの精霊が近くに配置されているのもあって、ぜんぜん怖くな――
「!?」
瞬間、「それ」を感じ取ったわたしは思わず振り返り、ドアの横の壁を見た。
とても小さなものが集合する感覚。
その感覚はすぐに形を成した。
壁に黒い点が現れ、インクをかけたかのように広がっていく。
なぜ?! どこから!? 気配が直前まで感じ取れなかった!
反射的にわたしの体は動いた。
黒い染みに魔法を叩きこもうと、右手が突き出される。
が、直後、
“アイリス”
その染みから、わたしの頭の中に声が響いた。
背中のふくらみにある、排気口から出る蒸気の動きが変わった。
少し液体に近づいたような、粘り気を感じさせる動き。
さらに、その蒸気は魔力を含んでいるらしく、キラキラと七色に光っていた。
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うごめくアメーバのような、明らかに周囲の流れを無視した動き。
間も無く、アメーバのような蒸気は一つの形に収束した。
それは鳥であった。
サイズ感と形状からして、ハトに見える。
ハトに見えるそれは次々と生み出され、戦士達の周りを旋回し始めた。
襲い掛かってくる敵の精霊に食らいつき、戦士達を守る。
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「よく戦えている。悪く無い。そう思わないか?」
ブルーンヒルデは答えた。
「まあ、そうね。悪くは無い。でも、相手が弱すぎるだけかも」
その言葉を、ヴィーは戒めた。
「強い態度を取りたくなる気持ちはわかるが、あまり油断するな。あれだけの戦力を投入してきてるんだ、このまま何事も無く終わるとは思えない」
言いながら、ヴィーはアイリスがいる部屋のほうに視線を向け、再び口を開いて尋ねた。
「アイリスの部屋の周囲にも精霊を配置してあるんだよな?」
「ええ、もちろん」
「他は? ブリッジや機関室は?」
「置いてあるけど、アイリスの周囲ほどじゃ無いわね」
「……」
ブルーンヒルデの答えに、ヴィーは難しい表情を返した。
悪くは無い。しかしなぜか不安を感じる。
その理由を言葉にできないゆえに、ヴィーは沈黙しか返せなかった。
◆◆◆
わたしはみんなの戦いを感知能力と窓を利用して見ていた。
すごすぎる。激しすぎてわけがわからない。
何もかも情報量が多すぎる。
けれど、そんな激しさの中でもヴィーさんとブルーンヒルデさんは余裕を持って立ち回ってる。やっぱりこの人達はすごい。
とても頼もしい。他の兵士さん達もみんな強い。ブルーンヒルデさんの精霊が近くに配置されているのもあって、ぜんぜん怖くな――
「!?」
瞬間、「それ」を感じ取ったわたしは思わず振り返り、ドアの横の壁を見た。
とても小さなものが集合する感覚。
その感覚はすぐに形を成した。
壁に黒い点が現れ、インクをかけたかのように広がっていく。
なぜ?! どこから!? 気配が直前まで感じ取れなかった!
反射的にわたしの体は動いた。
黒い染みに魔法を叩きこもうと、右手が突き出される。
が、直後、
“アイリス”
その染みから、わたしの頭の中に声が響いた。
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