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第二話 其は狂おしく美しい花の女王なり (7)

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   ◆◆◆

 翌日――

 体調が回復したわたしは今日も砂浜の木陰で素振りをしていた。
 潮風に包まれながら剣を振る。
 心地良かった。
 自分の成長を実感できているからだ。
 日焼けした肌が熱い日差しの中でがんばった勲章のように思える。
 わたしはがんばっている自分を誇らしく感じていた。
 が、

「いいや、俺からすれば足りない。何もかも」

 突如、背後から響いた男の声にわたしは振り返った。

 ――それは異様な風貌の男であった。
 たとえるならば、西部劇から出てきた薄着のガンマンと表せる服装。腰のホルスターには本物の銃が入っている。
 しかし西部劇のような埃っぽい印象は受けない。
 服のあちこちに細かな装飾がほどこされている。手が込んでいる。
 そして身に着けている宝飾品は派手の一言。
 ネックレス、指輪、ベルトの装飾など、数多く、すべてが金色。カウボーイハットには小さな宝石がちりばめられている。
 しかしそのいずれよりも目立つものがあった。
 銃以外にもう一つ、腰からぶら下がっているものがあった。
 長く大きな剣。
 男の背丈は2mほどあったが、その高さと比べてもその刀身の長さは五角に見えた。
 その長さよりもさらに目を引くのは、刀身から放たれる独特の雰囲気。 
 その雰囲気をアイリスは知らなかった。初めてみるデザインであった。
 それは和の国で生み出された、刀と呼ばれる剣であった。
 大太刀に分類されるそれを見せつけるように腰の横で揺らしながら、男は口を開いた。

「だから俺が鍛えてやる。ついてこい」

   ◆◆◆

 時は少しさかのぼり、前日の夜――

「……」

 赤く染まった口元をぬぐいながら、ブルーンヒルデはベッドから立ち上がった。
 疲れているアイリスはよく眠っている。
 その寝顔を再確認しながら、ブルーンヒルデはポケットの中から試験管を取り出し、その中に口にたまった血を吐き出した。
 ワインに使えそうなコルクの栓で試験管にフタをする。
 赤く満たされた試験管をポケットに戻すと同時に、ブルーンヒルデは口を開いた。

「入ってきて大丈夫よ」

 直後、ドアが開いた。
 ドアの向こうにいたのはガンマンのような風貌のあの男であった。
 背の高い男は少しかがみながらドアをくぐり、口を開いた。

「その子が例の少女か?」

 ブルーンヒルデは答えた。

「そうよ。今はわたしの善意で保護しているけれど、そちらに引き渡す際には相応の対価はもらうわよ。この子はタダでは渡せない」

 この言葉に、男は薄く笑みを浮かべながら口を開いた。

「善意による保護ねえ……血の匂いがするその口でよく言う。保護の対価はもうしっかりともらってるみたいじゃないか」

 ブルーンヒルデは表情をまったく乱さずに答えた。

「これは毒消しに必要なことなのよ。この子はひどく攻撃を受けていたから体内にすばやく精霊を流し込む必要があった。そして残念ながら、私の家に注射器なんてものは無いの」

 ポケットの中の試験管の存在がバレているにもかかわらず、ブルーンヒルデは堂々とそう言ってのけた。
 その堂々とした態度に、男は笑みを強めながら口を開いた。

「そういうことにしておこうか。今はそれよりも大事な話がある。本題に移ろう」

 そう言って男は笑みを消し、再び口を開いた。

「先の報酬の話だが、ルイステクノロジーは言い値で払うと言ってる。だがその前にひとつお前の口から確認しておきたいことがある」

 ブルーンヒルデは頷き、答えた。

「もちろんわかっているわ。この子のことでしょう? わたしが調べて知ったことはすべて隠さず明かすつもりよ」

 男はアイリスのほうに視線を向けながら尋ねた。

「やはりこの子はあの血族の者なのか?」

 ブルーンヒルデは再び頷いて答えた。

「99%の確率で私はそうだと考えているわ。年齢に対して不相応に発育した体、その発育をうながしているであろう優秀な血をこの子は持ってる」

 ブルーンヒルデは回答を続けた。

「遺伝子まではわたしには調べられないけど、それも優秀なはずよ。その根拠に精霊に対しての抵抗力が強かった。魔力の回復力も異常に高い。今日の夕方ごろ魔力の使いすぎで倒れたのだけど、家で少し休ませるだけですぐに回復したわ」

 それは普通の人間の平均と比べると明らかに異常であった。

「なるほど。基本性能はウワサ通りに優秀というわけだ。だが、この子にはまだ鍛えが足りないな」

 言いながら、男はアイリスの値踏みをするように視線の色を変えた。
 男はその色のまま続けて口を開いた。

「俺はどっちかというと、この子はこの島に残っている方が安全だと思うんだがな。しかしルイス達はこの子を厳重な監視下に置きつつ人間らしい生活を送らせようと考えているようだ。まったくもってめんどうくさい」

 そう言ったあと、男はブルーンヒルデのほうに向きなおり、口を開いた。

「ブルーンヒルデ、お前の指導方法は正しいが、俺からすれば甘い。だから俺が教育係を交代してやろう。明日から俺がこの子を鍛えてやる」

 この言葉に、

「……っ」

 一瞬だが、ブルーンヒルデは悔しさの色をにじませた。
 この男はやりすぎる傾向がある。だから反論したい。でもできないからだ。
 理由は単純。男のほうがはるかに強いからであった。

   第三話 V・A に続く 
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