クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
17 / 120

第二話 其は狂おしく美しい花の女王なり (6)

しおりを挟む
 
   ◆◆◆

 走って、食べて、素振りする、その繰り返しが一か月続いた。
 体力はついた気がする。でも素振りのほうは――

(うーん……上達してる感じがあまりしないなあ)

 魔力の調整技術のほうは、進歩してる実感があまり無かった。
 素振りしながらそんな思いを響かせた直後、うしろからブルーンヒルデさんの声が響いた。

「あら? やっぱり気付いていないのね」

 何のことですか? そんな疑問をにじませた目でわたしが振り返ると、ブルーンヒルデさんは答えた。

「あなたの上達に合わせて、難しい剣に変えてるのよ」

 気付かぬうちにだんだん難しくなってた? ていうか、剣によってそんなに大きな違いがあるの?
 そんな疑問に対してもブルーンヒルデさんはしっかりと答えてくれた。

「光の魔力は炭素と強く反応し、加速する。そしてその剣は炭素を含んだ鋼鉄の剣。炭素の含有量が増えるほどに反応は激しくなり、制御が難しくなる」

 この説明はなんとか理解することができた。
 でも自信が無かったから聞き直した。

「光の魔力が速くなってたから、振動が強くなってたってことですか?」

 わたしが一言で理解したのがうれしかったのか、ブルーンヒルデさんは穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。

「その通りよ。それが一番難しい剣だから、それが安定したら次の訓練に移りましょう。あなたはよく頑張ってると思うわよ。上達も早い」

 ステキな笑顔でほめられた! テンションあがるー! わたしはほめられると伸びる子なんです! だからもっとほめて!
 わたしはさらなる称賛を求めたが、残念ながらそれは欲張りすぎのようであった。
 ブルーンヒルデさんは背を向け、

「じゃあ、その調子で続けてね」

 魚がいっぱい入った壺を持って家のほうへと歩き始めた。
 今日も魚か……さすがに飽きてきたなあ……いや、それでも缶詰肉よりはぜんぜん良いんだけど。
 いや、そんなことは今はどうでもいい! ステキな笑顔でほめられた! 今はその喜びをかみしめるべき!
 だがしかし、喜びをかみしめてると調子に乗ってしまうわけで。
 調子に乗るといつもと違うことをやってしまいがちなわけで。
 そんなわけでわたしの素振りはおかしな感じになっていった。
 まっすぐ縦に振るだけじゃない。娯楽小説に出てくる剣士のように、横にナナメに、カッコつけて振り回す。
 でもしかし、こういう時のわたしは調子に乗りすぎてしまうわけで、

「あ」

 結果、不測の事態を起こしてしまうのであった。
 力みすぎたのと同時に、手から剣がすっぽぬけた、一瞬そう感じた。
 でも違った。剣は手の中にあった。
 飛んで行ったのは別のものだった。
 三日月型の光る物体が前へ飛んで行っている。
 それが剣から放たれたものであることは明らかだった。三日月の傾きが剣の軌跡の傾きと同じだったからだ。
 放出された魔力が光の刃となって飛んで行った?
 それを確かめるべく、わたしはもう一度振った。
 正解だった。予想通り、銀色の三日月が剣から放たれた。

「カッコいい……」

 思わず声が出た。
 ほめられた上に、カッコいいことができるようになった! 今日という日を記念日にしよう。
 そんなわけでさらに調子に乗ったわたしは海に向かって三日月を連射しまくったのであった。

   ◆◆◆

 一時間後――

「あばばばばばばばば」

 わたしは砂浜の上に倒れ、のたうち回っていた。
 体に力がはいらな……おなかが熱くて痛い……
 一体どうしてこんなことに? 熱い砂浜の上にずっといたから? これが熱中症というやつなのでしょうか?
 わたしがそんなことを考えた直後、

「それは熱中症じゃないわよ」

 いつの間にかそばに来ていたブルーンヒルデさんの声が響いた。
 ブルーンヒルデさんはしゃがみ、わたしのお腹をナデナデしながら再び口を開いた。

「魔力を短時間で使い過ぎるとこうなるのよ。魔力を生む内臓が悲鳴を上げてるのがわかるでしょう? そして魔力は体を動かすためのエネルギー。それが枯渇しているからまともに動けないのよ」

 なるほどそういうことですか、と返事をする余裕すら今のわたしには無かった。
 そんなわたしに対し、ブルーンヒルデさんは「やれやれ」といった感じで声を響かせた。

「魔力の使い方は次から教える予定だったのに……しょうがない子ね。熱心なのはいいけど、熱中しすぎはよくないわよ。動けないだろうから、わたしがベッドまで運んであげるわ」

 そう言って、ブルーンヒルデさんはわたしを抱きかかえ、家に向かって歩き始めた。
 この日この時、わたしはお姫様だっこというものを始めて経験した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

忘れたあなたを拾うのは

ベアリーサ
ファンタジー
幼い頃ハヴォルス侯爵家の養子となったミアナ 膨大な魔力をもち、成績も良いミアナは日常の記憶がすぐに抜け落ちてしまうことに悩んでいた。 そんなミアナを義兄のアルによって支えられて過ごす学園生活 そんな中、学園に留学生がやってくることに

処理中です...