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第二話 其は狂おしく美しい花の女王なり (6)
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走って、食べて、素振りする、その繰り返しが一か月続いた。
体力はついた気がする。でも素振りのほうは――
(うーん……上達してる感じがあまりしないなあ)
魔力の調整技術のほうは、進歩してる実感があまり無かった。
素振りしながらそんな思いを響かせた直後、うしろからブルーンヒルデさんの声が響いた。
「あら? やっぱり気付いていないのね」
何のことですか? そんな疑問をにじませた目でわたしが振り返ると、ブルーンヒルデさんは答えた。
「あなたの上達に合わせて、難しい剣に変えてるのよ」
気付かぬうちにだんだん難しくなってた? ていうか、剣によってそんなに大きな違いがあるの?
そんな疑問に対してもブルーンヒルデさんはしっかりと答えてくれた。
「光の魔力は炭素と強く反応し、加速する。そしてその剣は炭素を含んだ鋼鉄の剣。炭素の含有量が増えるほどに反応は激しくなり、制御が難しくなる」
この説明はなんとか理解することができた。
でも自信が無かったから聞き直した。
「光の魔力が速くなってたから、振動が強くなってたってことですか?」
わたしが一言で理解したのがうれしかったのか、ブルーンヒルデさんは穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。
「その通りよ。それが一番難しい剣だから、それが安定したら次の訓練に移りましょう。あなたはよく頑張ってると思うわよ。上達も早い」
ステキな笑顔でほめられた! テンションあがるー! わたしはほめられると伸びる子なんです! だからもっとほめて!
わたしはさらなる称賛を求めたが、残念ながらそれは欲張りすぎのようであった。
ブルーンヒルデさんは背を向け、
「じゃあ、その調子で続けてね」
魚がいっぱい入った壺を持って家のほうへと歩き始めた。
今日も魚か……さすがに飽きてきたなあ……いや、それでも缶詰肉よりはぜんぜん良いんだけど。
いや、そんなことは今はどうでもいい! ステキな笑顔でほめられた! 今はその喜びをかみしめるべき!
だがしかし、喜びをかみしめてると調子に乗ってしまうわけで。
調子に乗るといつもと違うことをやってしまいがちなわけで。
そんなわけでわたしの素振りはおかしな感じになっていった。
まっすぐ縦に振るだけじゃない。娯楽小説に出てくる剣士のように、横にナナメに、カッコつけて振り回す。
でもしかし、こういう時のわたしは調子に乗りすぎてしまうわけで、
「あ」
結果、不測の事態を起こしてしまうのであった。
力みすぎたのと同時に、手から剣がすっぽぬけた、一瞬そう感じた。
でも違った。剣は手の中にあった。
飛んで行ったのは別のものだった。
三日月型の光る物体が前へ飛んで行っている。
それが剣から放たれたものであることは明らかだった。三日月の傾きが剣の軌跡の傾きと同じだったからだ。
放出された魔力が光の刃となって飛んで行った?
それを確かめるべく、わたしはもう一度振った。
正解だった。予想通り、銀色の三日月が剣から放たれた。
「カッコいい……」
思わず声が出た。
ほめられた上に、カッコいいことができるようになった! 今日という日を記念日にしよう。
そんなわけでさらに調子に乗ったわたしは海に向かって三日月を連射しまくったのであった。
◆◆◆
一時間後――
「あばばばばばばばば」
わたしは砂浜の上に倒れ、のたうち回っていた。
体に力がはいらな……おなかが熱くて痛い……
一体どうしてこんなことに? 熱い砂浜の上にずっといたから? これが熱中症というやつなのでしょうか?
わたしがそんなことを考えた直後、
「それは熱中症じゃないわよ」
いつの間にかそばに来ていたブルーンヒルデさんの声が響いた。
ブルーンヒルデさんはしゃがみ、わたしのお腹をナデナデしながら再び口を開いた。
「魔力を短時間で使い過ぎるとこうなるのよ。魔力を生む内臓が悲鳴を上げてるのがわかるでしょう? そして魔力は体を動かすためのエネルギー。それが枯渇しているからまともに動けないのよ」
なるほどそういうことですか、と返事をする余裕すら今のわたしには無かった。
そんなわたしに対し、ブルーンヒルデさんは「やれやれ」といった感じで声を響かせた。
「魔力の使い方は次から教える予定だったのに……しょうがない子ね。熱心なのはいいけど、熱中しすぎはよくないわよ。動けないだろうから、わたしがベッドまで運んであげるわ」
そう言って、ブルーンヒルデさんはわたしを抱きかかえ、家に向かって歩き始めた。
この日この時、わたしはお姫様だっこというものを始めて経験した。
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