13 / 120
第二話 其は狂おしく美しい花の女王なり (2)
しおりを挟む◆◆◆
お風呂場も花でいっぱいだった。
壁に設置された棚の上に花瓶が並んでいる。
湯船の上にはバラの花が浮かんでいる。
天井からも花がぶらさがっている。
ここまでするんだ、と、わたしは驚いたけど、その驚きよりも別の感情のほうが強かった。
お姫様になったような感覚で湯船に浸かる。
はぁ~。気持ちいい……。
お花の匂いが充満しているおかげですごく落ち着く……。
だけど、こういう何もしない時というのは余計な考えが浮かんでしまうもの。
わたしはまた船で起こったことを思い出そうとした。
けど、
「いっ……った!」
今度は嗚咽感では無く、頭痛によってその思考は強制的に止められてしまった。
痛みによって思考が船から離れる。
だけど、その痛みが別のイヤな記憶を呼び起こした。
そういえば、あのとき感じたアレはなんだったんだろう、と。
シャワーを浴びていた時に感じた、足首を掴まれたようなあの感覚。
排水口に黒い何かが流れていったようにも見えた。
アレは何か関係があるのではないか、なぜだかそう思える。いいや、そう感じる。わたしの心の中にある何かが同じ感覚だったと訴えている。
その感覚は再び船の記憶を引っ張り出そうとしたが、
「!」
突如、後ろから響いた音にわたしは振り返った。
見ると、すりガラスのドアには服を脱ぐ人影が映っていた。
間も無くドアが開き、タオルだけを持ったブルーンヒルデさんが入ってくる。
ブルーンヒルデさんは入ると同時にわたしに向かって口を開いた。
「一人だと余計なことを考えてしまうでしょう? だから私が背中を流してあげる」
断る理由は無かった。だからわたしはその親切に甘えることにした。
やさしい感触が背中を往復し始める。
絹と思われるその感触に、わたしは思った。
そういえばこの人はどんな人なんだろう、と。
一人暮らしのように見える。そして間違いなくお金持ちだ。
この風呂場に来るまでの間に、高級そうな家具をいくつも見た。
あちこちに金色の装飾が光っている。メッキでは無い本物の金のように見える。
森の中で一人で暮らすお金持ちの美人、ミステリー小説か何かでありそうな設定だ。
だからわたしはブルーンヒルデさんに質問をしてみようと思った。
だけど、ブルーンヒルデさんも似たようなことを考えていた。
そしてブルーンヒルデさんのほうが口を開くのが早かった。
「アイちゃんはおいくつ?」
わたし名乗ったっけ? あ、もしかしたら思い出せない記憶の中で名乗ったのかな? まあいいか。
わたしは12歳であることを正直に答えると、ブルーンヒルデさんは続けて尋ねてきた。
「じゃあまだ小等部なのね。学校はどんな感じ?」
わたしが答えるとすぐに次の質問が、そんなやりとりが続いた。
わたしはすべての質問の正直に答えた。勉強はあまり得意では無いこと、大好きな友達のこと、全部答えた。
嘘をつく必要は感じなかったし、なによりブルーンヒルデさんと話すのは楽しかった。声が安心する。ブルーンヒルデさんは容姿だけじゃなくて声までスゴイ。完璧すぎる。
完璧なのに不思議さも持ってる。こんな場所に一人で住んでいること。お金持ちであること。家から出た貴族の令嬢なのだろうか? そんな想像がかきたてられるほどに非現実的な人だ。
だけどそれを質問することは結局できないまま、わたしはお風呂から出ることになったのであった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる