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第一話 The Black Ones (10)
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「ルイス社長、おはようございます」
その男の一日はいつも通り始まった。
秘書と挨拶を交わし、いつものイスに腰を下ろす。
机の上には既に書類が積まれている。
だが、今日はいつもとは違っていた。
ルイスと呼ばれた男は書類に手を伸ばそうとはしなかった。
なぜか。その理由はすぐに届いた。
「社長、海軍からお電話です」
「すぐに繋いでくれ」
間も無く机の上の電話が鳴り、ルイスは受話器を取った。
相手は海軍。いつもならば丁寧なあいさつから入るところだが、今日は違った。
ルイスの第一声はあまりにも事を急ぐものであった。
「あいさつはけっこう。結論から話していただきたい」
通話の相手はこの切り出しに動揺すること無く、軍人らしく答えた。
「先ほど私の部隊が予定されていたすべての箇所の捜索を完了した。残念ながら生存者は見つからなかった」
その残酷な真実に、
「……そうですか」
ルイスは深く目を閉じながら声を返した。
守り神を倒すほどの相手。生存は絶望的であろうことは予想できていた。できていたが、やはり受け入れがたい。
出席していた役員には子供がいる。妻はその子を産んですぐに他界してしまった。子供は幼くして両親を失ったことになる。かわいそうに。こちらで出来る限りのことはしてやらねば。
そんなことを考えたあと、ルイスは口を開いた。
「現場の状況についてうかがいたいのですが」
それは予想できていた質問らしく、海軍の男は即答した。
「本来ならばこれは極秘事項にあたるだろうが、あなたは特別だ」
「黒いシミはありましたか?」
「あった。あちこちに黒い残骸が残っていたよ。ほとんどが死骸で、攻撃的に動くものは無かった」
「その残骸をこちらに少しゆずってもらうことは?」
「問題無い、可能だ。いつもの手順で君のところに届けよう」
いつもならば、ルイスはここで引く。これ以上相手の縄張りに踏み込むようなことはしない。
自身が特別であり、ふさわしい権力を有していることをルイスは自覚している。しかし相手の領域に力づくで乗り込むようなことはしない。
しかし今回は非常事態であり、ゆえにルイスの態度はいつもとは違っていた。
「私も現地に向かいます。個人的に調べたいことがありますので。かまいませんか?」
さすがにこれには即答とはいかなかった。
が、しばらくして帰ってきた言葉はルイスが期待していた通りのものであった。
「……許可しよう。現地の者には私から伝えておく」
「感謝します。それでは今から向かいます」
そう言ってルイスは電話を切った。
これ以上の情報は必要無かった。場所も現地にいる部隊のことも知っていた。
イスから立ち、いつものスーツケースを持ち、秘書に声をかける。
「でかけてくる。船は自分のものを使うから手配しなくていい」
その言葉に、
「お気をつけて」
秘書は丁寧なお辞儀と共に言葉を返したが、急ぐルイスは既に背を向けていた。
いつもとは違うが、いつも通りにいそがしいルイスの一日の始まりであった。
第二話 其は狂おしく美しい花の女王なり に続く
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