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第一話 The Black Ones (9)
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甲板に出るまでにも襲撃はやはりあった。
おかしくなった人達と触手の群れが襲い掛かってきた。
だけど軍人さん達はほとんど足を止めること無くそれらをなぎ倒し、わたしを守ってくれた。
そしてわたし達は全員無傷のまま甲板に到着した。
同じ考えだったのか、たまたま逃げてきた場所がここだったのか、客人達の姿も多く見える。
隊長さんの言った通り、守り神はすぐそばに来ていた。海面が光っていた。これはわたしも感じ取れていた。
その光る海面に向かって隊長さんは声を上げた。
「守り神よ! 力を貸してくれ!」
その声が届いたのか、海面は盛り上がり、派手な水しぶきと共に神は勢いよく飛び出してきた。
が、
「「「……っ!?」」」
それを見た全員が息を呑んだ。
神はあちこち黒ずんでいた。
もがくように、身をくねらせている。
だから全員が気付いた。
これは呼ばれて出てきたのでは無い、苦しいから出てきたのだと。
それに気づいた直後に状況は悪夢のように転じた。
神の体を中から食い破って、触手が次々と飛び出してきたのだ。
神の体を食ってよく肥えたそれらは大蛇となっており、その太い身をくねらせながら甲板に飛び込んできた。
その飛び込みを回避できなかった客人達が次々と大蛇に巻き付かれる。
「いやあぁ、きゃああああっ!」
大蛇の体から細い触手が何本も伸び、捕まえた客人達の体にからみついていく。
そして、
「あああぁっ……ぐ、おおおあああああっ!!」
真っ黒になった客人達は悲鳴のような怒号を上げながら別の客人に襲い掛かり始めた。
成す術も無く被害だけが広がっていく。
その悪夢のような状況に対し、軍人さんが声を上げた。
「隊長! ここに危険です! まもなく神が乗っ取られます!」
これに、隊長は即座に声を返した。
「ブリッジへ行くぞ! そこが一番守りが硬い! 救助信号を出して籠城する!」
声をかけた軍人さんは異論を返した。
「脱出用の小型艇があると思うのですが!」
隊長さんは首を振って答えた。
「それは最後の手段だ! 武装の無い小型艇に乗りこんでも海の上でなぶり殺しにされる可能性が高い!」
そう言いながら、隊長さんは来た方の廊下に視線を移し、
「この包囲を強引に突破してブリッジを目指す! できるだけ密集して背中をかばい合え! 行くぞ!」
叫ぶと同時に隊長は走り出した。
わたしはその走り出しにまったく反応できなかったけれど、隊長さんはわたしがついてこれないことまで計算していた。
隊長さんは叫ぶと同時にわたしの体を抱きかかえていた。
走り出したわたし達を逃がすまいとおかしくなった乗客達が襲い掛かってくる。
わたしを抱えている隊長さんは片腕しか使えない。
けれど、
「どけっ!」
隊長さんは片腕だけで、襲い掛かってくる人達を次々と切り伏せていった。
隊長さんが黒い包囲を切り開き、二人の軍人さんが後ろを守る。
前は順調だった。けど、
「くっ!」
後ろから響いた声に、わたしは抱きかかえられたまま振り返った。
見ると、銃を持った軍人さんが倒れていた。足首を捕まえられていた。
すぐにその姿は見えなくなった。押しつぶそうとするかのように黒くなった乗客達が覆いかぶさっていった。
「隊長ーーーーーッ!」
助けを求めるような呼び声と共に、銃声が響く。
でも隊長は止まる気配は無い。
ただ、“すまない”という心の声だけが響いたような気がした。
その絶望の声を聞きたくなかったわたしは耳と目をふさぎながら思った。
これはきっと夢、悪い夢なんだ、と。
だったら早く目覚めなきゃ。いつものようにシャワーを浴びて、おいしい朝食を食べて、楽しい一日を始めなきゃ。
だから早く目覚めて、お願い、と、わたしは願った。
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