7 / 120
第一話 The Black Ones (6)
しおりを挟む◆◆◆
それからは何も無く日々が流れた。
だからわたしはすぐにあの恐怖体験を「ただの気のせいだった」と結論付け、楽しい夏の毎日に戻ることができた。
そしてその明るい気持ちのまま当日を迎えた。
お父さんの仕事にとって重要な意味を持つ、船上パーティーの日だ。
豪華客船だとは聞いていたけど、その船はわたしの想像を何もかも超えていた。
その船はわたしの知るどの船よりも大きかった。
全長270メートル、幅30メートル、高さ50メートルの世界最大級の客船。
お父さんにそう説明されたけど、数字を言われても当時のわたしにはピンとこなかった。だけど、世界最大級という説明は納得できた。
そしてその船はただ大きいだけじゃ無かった。
飾り付けがすごい。どこを見てもキラキラ。まるでクリスマス。
来客者達も光ってる。ドレスとアクセサリーが日光を反射して輝いている。
その点についてはわたし達も同じ。わたしもドレスを着てる。ドレスなんて初めて着た。
改めて自分の格好を見直してもやっぱりすごい。まるでお姫様になった気分。
だから緊張はしていない。場の雰囲気に呑まれないくらい自分もキラキラしてる。ワクワクとドキドキのほうが強い。
パーティーはもう始まっている。甲板には料理と飲み物が置かれたテーブルが数多く並べられていて、中央では歌劇団が歌と演奏を流していた。
そのキレイな音楽を聴きながら、食事と飲み物と会話を楽しんでいる。
お父さんとお母さんは食事にはあまり手をつけずに、グラスを片手に知らない人達に声をかけている。
きっと仕事の話だろう。こんな夢のような場所でも働くなんて大人は大変だなあ、そんなことを思いながらわたしは料理を口に運び続けていた。
もぐもぐして、しゅわしゅわする飲み物を一口、そうして一皿空けたわたしは次の料理に手を伸ばす。
新しい皿を引き寄せてから視線を移すと、お母さんとお父さんの前には先とは違う人達が立っていた。
その人達は明らかに他の人達とは違う雰囲気をまとっていた。服装が違っていた。
装飾の細かさときらびやかさから、それが礼装であることは間違い無かったけど、それでもそれは一目で軍服とわかるものだった。
武器も持ってる。腰に軍刀らしきものがぶらさがっている。
そしてそれだけじゃない。何か身に着けている。
だけど、
「……?」
わたしにはそれが何かわからなかった。
何か身に着けている、いや、何か羽織っている。それがわかる。なのにそれがなんなのかわからない。
矛盾したような奇妙な感覚。
その感覚の原因を知るために、わたしはその軍人さんを見つめようとしたけど、
「!」
すぐにわたしは視線を別のものに移すことになった。
だってしょうがない。それはあまりにも壮大すぎた。
あの海の守り神様が、すぐ近くの海面から飛び出してきたのだ。
「おお……!」「すごい……!」
場に感嘆の声が次々と響き始める。
それも当然。近くで見るその巨体はあまりにも圧倒的で美しかった。
全身が七色に輝いている。まるで生きている宝石。
だからわたしはすぐに奇妙な感覚のことなど忘れてしまい、それを見つめ続けた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる