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第一話 The Black Ones (6)
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それからは何も無く日々が流れた。
だからわたしはすぐにあの恐怖体験を「ただの気のせいだった」と結論付け、楽しい夏の毎日に戻ることができた。
そしてその明るい気持ちのまま当日を迎えた。
お父さんの仕事にとって重要な意味を持つ、船上パーティーの日だ。
豪華客船だとは聞いていたけど、その船はわたしの想像を何もかも超えていた。
その船はわたしの知るどの船よりも大きかった。
全長270メートル、幅30メートル、高さ50メートルの世界最大級の客船。
お父さんにそう説明されたけど、数字を言われても当時のわたしにはピンとこなかった。だけど、世界最大級という説明は納得できた。
そしてその船はただ大きいだけじゃ無かった。
飾り付けがすごい。どこを見てもキラキラ。まるでクリスマス。
来客者達も光ってる。ドレスとアクセサリーが日光を反射して輝いている。
その点についてはわたし達も同じ。わたしもドレスを着てる。ドレスなんて初めて着た。
改めて自分の格好を見直してもやっぱりすごい。まるでお姫様になった気分。
だから緊張はしていない。場の雰囲気に呑まれないくらい自分もキラキラしてる。ワクワクとドキドキのほうが強い。
パーティーはもう始まっている。甲板には料理と飲み物が置かれたテーブルが数多く並べられていて、中央では歌劇団が歌と演奏を流していた。
そのキレイな音楽を聴きながら、食事と飲み物と会話を楽しんでいる。
お父さんとお母さんは食事にはあまり手をつけずに、グラスを片手に知らない人達に声をかけている。
きっと仕事の話だろう。こんな夢のような場所でも働くなんて大人は大変だなあ、そんなことを思いながらわたしは料理を口に運び続けていた。
もぐもぐして、しゅわしゅわする飲み物を一口、そうして一皿空けたわたしは次の料理に手を伸ばす。
新しい皿を引き寄せてから視線を移すと、お母さんとお父さんの前には先とは違う人達が立っていた。
その人達は明らかに他の人達とは違う雰囲気をまとっていた。服装が違っていた。
装飾の細かさときらびやかさから、それが礼装であることは間違い無かったけど、それでもそれは一目で軍服とわかるものだった。
武器も持ってる。腰に軍刀らしきものがぶらさがっている。
そしてそれだけじゃない。何か身に着けている。
だけど、
「……?」
わたしにはそれが何かわからなかった。
何か身に着けている、いや、何か羽織っている。それがわかる。なのにそれがなんなのかわからない。
矛盾したような奇妙な感覚。
その感覚の原因を知るために、わたしはその軍人さんを見つめようとしたけど、
「!」
すぐにわたしは視線を別のものに移すことになった。
だってしょうがない。それはあまりにも壮大すぎた。
あの海の守り神様が、すぐ近くの海面から飛び出してきたのだ。
「おお……!」「すごい……!」
場に感嘆の声が次々と響き始める。
それも当然。近くで見るその巨体はあまりにも圧倒的で美しかった。
全身が七色に輝いている。まるで生きている宝石。
だからわたしはすぐに奇妙な感覚のことなど忘れてしまい、それを見つめ続けた。
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