クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第一話 The Black Ones (4)

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   ◆◆◆

 その夜――

 子供達が寝静まったあと、アイリスの両親と祖母は応接間のソファーに腰を下ろした。
「大事な話があるから」という父親の言葉が理由だった。
 アイリスの父親は交易商であった。
 商売は上手くいっており、父はいろいろな意味で優秀なやり手であった。
 話の内容はその交易商に関係することであった。

「――だから、その豪華客船の上で行われるパーティーに一緒に出席してほしいんだ。いろんな会社の重役が集まるからね。あのルイステクノロジーの役員もだ。だから家族を紹介しておきたい」
 
 今後重要な関係を築くことになるであろう、または築きたい相手が集まる船上パーティーにきてほしい、ということであった。
 断る理由は無い。普通ならば。
 だが、

「……どうしてもいかなくてはダメなの? アイリスも?」

 アイリスの母には普通では無い理由があった。

「どうしたんだい? アイリスに何かあったのか? まさか病気なのか?」

 母は首を振って病気を否定したあと、口を開いた。

「アイリスは元気よ。元気すぎるくらいに。だけど……」

 だけど? 父が尋ねる前に母は言葉を続けた。

「アイリスが海を見つめていたの」

 その言葉に、父は、

「……」

 疑問符は浮かべなかったが、共感はできなかった。
 だが、祖母は違った。

「そう……あの子もわたしやあなたと同じように、奇妙な何かを受け継いでしまってたのね……」

 祖母は言葉を続けた。
 その言葉にも父は疑問符を浮かべなかった。
 知っているからだ。
 だから父は確認するように祖母に尋ねた。

「その話はお義父様からも聞かされましたが、ある時を境に海に惹かれるようになるというその症状は、治したり抑えたりできないものなんですか?」

 これに祖母は首を振って答えた。

「わたしの家系の女性にしかそれは起きない。だから遺伝的な病気の可能性はあるのだけど、医者に診てもらっても何もわからずじまいだった。だからどうやったら治るのかはわからない。でも抑えることはできる。だけどそれは、理性による精神的な抵抗によるもの」

 父は重ねて尋ねた。

「その症状にはどんな実害が? 症状が進行するとどうなるんです?」

 これにも祖母は首を振った。

「害は……特に何も――いいえ、わからないと言ったほうが正しい。私も、私の母も、恐らく御先祖達もこの感覚に屈したことは無いのだと思う。そんな話は聞いたことが無いから」

 その言葉に、父は表情を少しだけやわらげ、口を開いた。

「そうか……だったら、来てくれないかな? この件は少々の無理を通してでもやってほしいことなんだ」 

 これに母は、

「……」

 言葉を返さなかったが、祖母は肯定的な声を響かせた。

「……わたしは参加してあげたいと思ってるけどね。わたし達はちょっと変な病気を持ってるけども、それで何か大事が起きたことは一度も無い。アイリスもきっと大丈夫。そんなに心配なら、ずっとついて見てあげていればいい」

 それは確かにその通りだったし、母も父の仕事に協力してあげたいという気持ちはあった。
 だから、

「そうね……うん、そうするわ」

 母も肯定の声を響かせた。
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