4 / 120
第一話 The Black Ones (3)
しおりを挟む◆◆◆
「アイちゃんはやく!」
到着した海に向かって真っ先に走り出したのは友達だった。
「待ってよー」
砂浜の熱さを足裏に感じながら友達を追いかけ、海の中に走りこむ。
直後にわたしの顔面に海水が襲い掛かってきた。
先に海に入った友達がわたしに向かっておもいっきりかけたのだ。
わたしも負けじとやり返す。
「ちょっと、アイちゃんやりすぎー! 目が痛いってば!」
そんな子供らしい応酬を何度か繰り返したあと、じゃれあいは追いかけっこに変化。
いたずらっ子ぽい顔で追いかけてくる友達から逃げる。
本気では逃げない。わざと捕まってあげるのがルールのように感じるから。
間も無くわたしは追い付かれ、後ろから抱きつかれる。
押し倒されそうな勢いで抱きつかれること自体は予想できてたんだけど、
「ちょ、ダメだって! そんなに強くしがみついたら水着が!」
友達が掴んだ場所はあまりにも危険な場所だったから、わたしは思わず叫び声をあげてしまった。
そしてわたしは抗議の声を上げながらも聞き逃さなかった。
「いいなあ……アイちゃんずるい」
友達がわたしのアレを水着の上からわしづかみにしながらそんなことをつぶやいたのを。
わしづかみにしている部位を比較したと思われるセリフだ。
イヤな予感がした。
このままイタズラの勢いでとんでもないことをされるのでは、そう思った。
その予感は直後に的中した。だからわたしはさらなる抗議の声を上げた。
「ちょ、それは本当にシャレになってないってば!」
くすぐったさと、水着がとれるかもしれないという恐怖感が混ざり合い、黄色い悲鳴に変わる。
その悲鳴が通じたのか、友達の腕はゆるみ、手は止まった。
しかし違った。わたしの抗議を聞いてくれたわけでは無かった。
友達の心は突如あらわれたあるものにとらわれていた。
友達は水平線を見つめていた。だからわたしも同じようにその方向に視線を向けた。
すると瞬間、わたしの心もソレにとらわれた。
そこにはスゴイものがいた。
ファンタジー小説にでてくるドラゴン、ソレはそう見えた。
蛇のように胴が長く、全身が七色に光っている。
ソレは虹を描こうとするかのように、海面から飛び出してはアーチを描いてまた潜るを繰り返していた。
七色に光っているから本当に虹っぽく見える。
そのキラキラにみとれてると、後ろからお姉ちゃんの声が響いた。
「アレはこの海の守り神様よ」
続いて、お母さんの声が響いた。
「夏祭りが近いから挨拶しにきたのね。でもこんな風に堂々と姿を見せにくることは滅多に無いわ」
ふーん、じゃあわたし達はラッキーだと思っていいのかな? 何か御利益を期待していいのかな? そんな思いを抱いたわたしは、ちょっとだけわがままなお願いを海の神様に向かってお祈りした。
……何をお願いしたのかって? それはヒミツ!
◆◆◆
遊び疲れるころには日が沈み始めていた。
夕日が水平線に沈んでいく。
それをわたしは見つめていた。
その時の感覚は……よく覚えてない。
水平線から声が聞こえたような気がした、と思う。
夕日が沈むその海の底から、誰かに呼ばれた、そんな気がした……はず。
すべてがあいまい。夢の中にいるような感覚だった。
だから、
「アイ!」
お母さんから力強く肩を掴まれてようやく、わたしは夢のような感覚から覚めることができた。
気付けば、膝下まで海につかってた。どうやらわたしは沖に向かって歩いていたみたい。
この時のお母さんは何かにおびえているみたいな顔をしてた。
なぜそんな顔をするのか。わたしにはそれを問うことができなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる